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直感だけで判断する単細胞トップに伝えたい事

経営は「直感」と「論理」のどちらを重視すべきなのか。戦略コンサルタントの笠原英一氏は、「経営の本質は、不確実性のなかにおける意思決定。意思決定における不確実性を減らしその質を高めるために、戦略的アプローチは必要不可欠だ」と指摘する――。

※本稿は、笠原英一『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。


※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ConceptCafe

結論を下す方法には2種類ある

“直感経営”を英語に訳すと、intuition based managementとでもなろうか。しかしながら、この直訳では、日本語のもっている、“主観と客観の循環から生まれる本質を見極めたうえでの判断に基づく経営”というニュアンスがそぎ落とされてしまう。ましてやguts based managementとかにしてしまうと“経営は気合いだ!”になってしまうかもしれない。

などと考えていたら、意思決定に関するSystem1とSystem2の理論を思い出した。ノーベル賞を受賞したDaniel Kahneman氏の研究成果であるが、以下のような内容であったと記憶している。

人間が結論を出す方法として2つの種類がある。ひとつがSystem1。これはシンプルに言うと、時間やエネルギーをさほどかけず、直感に基づいて意思決定するスタイルを意味する。直感に基づくため、先入観や偏見が入る余地はおのずと高まる。しかし、時間とエネルギーを省くことができる。

それに対してSystem2は、時間をかけて熟考して結論を導いていう意思決定である。データ、数字、式で導かれた結論のほうが、人間の直感に基づく判断よりも優れているという考え方である。しかし、時間とエネルギーがかかる。

空腹の裁判官は厳しい判決を下す

その論文では、専門家の判断が必ずしも正しいとは限らないという主張の根拠として、裁判官の判決内容とその判断を下すことになった直接の理由の他に、意外な媒介変数がかかわっているという例が紹介されていた。実刑判決か執行猶予かの判断は、実際の更生可能性ではなく、裁判官の血糖値が影響していると思われるという内容である。

朝一とか昼一の裁判官の気力と体力が充実していると思われる時間帯で出された判決は、更生してくれるであろうという前向きな判断が多かったのに対して、空腹で血糖値が下がっていると考えられる時間帯、例えばお昼休み直前や夕方の帰宅前に出す結論は、厳しめの判決になっていたという。誤解を恐れずストレートに言うと、裁判官のおなかの空き状態が、被疑者の運命を決めてしまうということである。

すなわち、人間の意思決定とは、こんなにも様々な要素に左右されやすいものであり、裁判官のような法律の専門家であっても、その例外ではないということである。

「観察と経験則」は役に立たなくなっている

経営の現場でよくHiPPOsという言葉が使われる。これは、highest‐paid person opinions(もっとも給料の高い人の意見)ということである。

使えるデータが希少で、またデータを入手して、加工するのに時間とお金がかかる時代には、HiPPOsはそれなりに意味があったと思う。いろいろな変数間の関係を、観察と経験則からパターンとしてつかんで決定を下すことができれば、他社に対する圧倒的な競争優位を構築することができる。

しかしながら、アナログからデジタルへのシフトが進む現代では、司法の世界でもAIが使われ始めている。膨大なケース事例から傾向を出すのは、人間よりも機械のほうが得意なのは言うまでもない。できれば裁判官にも、データ解析をAIにさせて、客観的な更生率をベースに判決を出してもらいたいものである。

ビッグデータにより戦略的アプローチが有利に

そろそろ、直感経営と戦略経営のテーマに戻してコメントしたい。近年、テクノロジーによって、従来考えられなかった量のデータが戦略的に使える状態になりつつある。音楽、写真、ビデオ、地図、文章、意見、フェイクニュースなども含めて、ありとあらゆるものが、各種センサー、端末を通して世界中でやり取りされる時代である。そのデータをAI、機械学習を通して、使える情報にすることが経営の現場でも可能になりつつある。

こうした現状をかんがみるに、現代においては、System1の直感に基づく判断のメリットが相対的に減ってきており、同時にバイアスのデメリットが大きくなっていると考えられる。逆にSystem2の分析的なアプローチのコストは、時間的にも、経済的にも、精神的にも、相対的に大きく下がっている。

System1(直感)とSystem2(戦略)という2つのアプローチを比べた場合は、戦略的アプローチのメリットが、明らかに大きくなっている。

データを活用しても最後に必要なのは「気合い」

しかしながら、経営の本質は、不確実性のなかにおける意思決定である。どんな時代になっても、経営者の直感に基づく意思決定は必要不可欠である。

経営環境を構成する①顧客・市場、②競合・業界、③自社資源、④マクロ環境の4つの要素に関しては、デジタル技術をフル活用しても、何らかの不確実性が残る。従って、最後の最後には、guts feeling(気合い)による決定が必要になっている。

戦略的アプローチとは、不確実性の中における意思決定をする際の不確実性をなるべく少なくして、直感に基づく意思決定の質を高めていくための方法論なのである。

従って、経営における「直感」と「戦略」はどちらか片方があれば良いというものではなくて、いずれも必要不可欠なものなのである。

これからの時代に必要な、戦略的アプローチとは

戦略的アプローチは、大きく2つの階層に分けることができる。ひとつは、企業全体を単位に、成長領域の選択とその領域間での資源配分をテーマとする企業戦略(corporate strategy)。もうひとつは、企業に含まれる特定の事業の競争優位性と収益性の拡大をテーマにした事業戦略(business strategy)である。

企業戦略の本質は、企業の置かれた経営環境と自社がそれまでに構築してきた経営資源をベースに、企業が社会に提供する価値や社会的役割としての企業理念を認識し、中期的に達成しようとしている目標やそれを実現していくための大まかな成長方向としての事業領域とそこに含まれる戦略立案の単位となる事業を定義して、そのうえで事業に資源を最適配分しながら経営資源を拡大していくプロセスと考えられる。

この企業戦略に対して、事業戦略は、投入された経営資源を事業ごとに展開し、競争優位の構築と市場におけるニーズの充足を果たしながら、収益、利益を実現し、究極的には経営を拡大していくプロセスと考えられる。企業戦略のメインテーマが「経営資源の配分」であるのに対して、事業戦略のそれは「経営資源の活用」なのである。

戦略的アプローチは15のステップから成る

最後に、『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』で解説している戦略的アプローチのフローを紹介しておきたい。

①企業理念の明確化、②経営環境・経営資源分析、③企業目標の設定、④事業領域(製品・市場)の定義、⑤資源配分、⑥事業ビジョンの明確化、⑦現状分析、⑧事業目標の設定、⑨事業範囲(製品・市場)の設定、⑩競争戦略、⑪マーケティング・市場戦略、⑫バリュー・チェーン、⑬組織・制度、⑭ブランド価値、⑮事業価値の15から成るステップである。


笠原英一『改訂版 強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』(KADOKAWA)

この15のステップを予算編成や中期系計画策定、もしくは年度計画の立案、更には個別のプロジェクトを企画する際に活用いただくことで、System2の戦略的アプローチを実践することが容易になる。

また、このステップを組織やチームで理解・実践していただくことで、いろいろな副次的な効果も得られると思う。経営者に対しては新たな気づきをもたらすものであり、ミドルマネジメントには、自分の構想力を経営者の視点に近づけるものであり、現場の若手には、経営の本質を効率よく習得して、将来のリーダーとしての自覚を促してくれるのである。

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笠原 英一(かさはら・えいいち)
アジア太平洋マーケティング研究所所長
博士(Ph.D.)。アリゾナ州立大学サンダーバード経営大学院、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Executive Scholar)、早稲田大学大学院後期博士課程修了。専門は、産業財マーケティング、戦略的マーケティング、消費者行動論、グローバル・マーケティング、ベンチャー・マネジメントなど。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。
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(アジア太平洋マーケティング研究所所長 笠原 英一)

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