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この15年で130万人の営業マンが消滅したワケ

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ネット時代の勃興がもたらした「流通」構造の大変化

このように産業の構造や社会の構造の変化を反映して職種の選択も大きくシフトしてきている。

それでは、最新の時代潮流は何なのだろうか。

それは、図表1の「時代潮流」に示されているように、ケアの専門化と重なる形で訪れた「ネット時代」の勃興だと考えられる。2010年から15年にかけての職業別就業者数の動きをやや詳しく見るため、職業中分類別就業者数の対前期増減率の上位10位(躍進職業トップ10)と下位10位(衰退職業トップ10)を図表2に掲げた。

職業別就業者の動きで時代変化を読み解く(2015年国勢調査)

結論からいえば、営業・販売事務が増加率2位に浮上しているのが注目される。これは「販売類似職業従事者」や「営業職業従事者」など販売関連職が衰退職業の上位に入り、大きく減少していることとも対応した動きだ。つまり、インターネットによる流通が本格化していることを示している。

この点は、図表1に掲げた営業職の過去からの人数推移を追うともっとはっきりする。

職業分類上の大区分のひとつである販売職は、かつて、本来の「販売職」である商店の店主・店員とそれ以外の「販売類似職」に大きく二分され、分類名称上、外交員と呼ばれた営業職は、自分が所有する商品を販売するのではないことからブローカーと同じ扱いで「販売類似職」に属していた。

営業マンの数は2000年468万人→15年336万人

企業の中で商品(不動産・金融・保険商品を含む)の販売を担当する営業職(営業マン、セールスマンなどとも呼ばれる職種)は、1975年までの高度成長期にも企業社会の成長とともに大きく増加したが、70年代後半以降、「作れば売れる」時代から「積極的な売り込み」の時代に変化したこともあって、職種として花形職業となり人数も大きく増加した。

特に80年代には230万人から400万人へと74%増となった。この時期の営業職の増加率は高度成長期をむしろ上回っていたのである。

ところが、バブル経済が最終的に崩壊したのち、2000年の468万人をピークに今度はかなり急速な減少に転じた。営業職という分類名が国勢調査上に正式に認められるようになったのは皮肉なことに減少が目立つようになった10年のことである。そして、15年にはバブル期以前の水準の336万人にまで減った。

「セールスマンの死」を想起させる状況が訪れた

図表2には、企業を対象に労働力の不足と過剰を調べている労働経済動向調査(厚生労働省)から販売職へのニーズが、近年どのように推移してきているかを示した。かつて一般労働者と比べて需要が大きく、特に不況期にも手堅かった販売職へのニーズは徐々に衰え、2015年頃からは、一般の労働者へのニーズと変わりがなくなったことが分かる。

営業の時代は終焉(しゅうえん)に向かい、作家アーサー・ミラーの有名な戯曲のタイトル「セールスマンの死」を想起させる状況となっているのである。

営業職の減少には、一般的には、日本の流通構造の特徴とされていた多重的な卸売構造が整理され、全国チェーン店の普及などによる流通革新・合理化が進んだことが影響していると考えられる。

しかし、それとともに注目されるのが、営業職に代わって、販売職ではなく事務職に区分される営業・販売事務職が、人数的には及ばないものの大きく伸びてきている点である。

営業職の長期推移

AI時代到来で「足で稼ぐ営業」は消えてしまうのか

時代潮流として、実際に人が動いて顧客とコンタクトをとり、需給を調整しながら販売業務をこなしていくというやり方から、パソコンやウェブ、あるいはスマホなどによるネットを通じた顧客との情報のやりとりで、ある意味「事務的に」販売業務を消化していくパターンへとシフトが起こっていることの反映だと考えられる。


本川裕『なぜ、男子は突然、草食化したのか 統計データが解き明かす日本の変化』(日本経済新聞出版社)

ネットを利用した新しい流通形態というべき「B2C」におけるアマゾンや楽天、「B2B」におけるミスミ(ウェブカタログ、ウェブ受注が特徴の機械部品商社)、「C2C」のメルカリ(個人間取引のオークションサイト)に代表されるネットビジネスやシェアリングエコノミーといったビジネスモデルが、こうした潮流変化を体現しているといえる。

生産面でも、ITやネット処理を担当する生産関連事務職の増加が著しい(2005〜10年には中分類で第2位の増加率)、生産と販売の両面から「ネット時代」が本格化しているのである。

このように見てくると、躍進職業の2位に、ケア関係職業ではなく、「営業・販売事務職」という一見地味で馴染みの薄い職業が登場したことの意味は、やはり、大きなものがあると判断できよう。

なお、図表2の衰退職業のトップに「外勤事務従事者」、5位に「機械検査従事者」が上がっているのもネットを通じたモニタリング・システムが発達したことによる影響と見られる。

さらに役員以外の一般の管理職を指す「その他の管理的職業従事者」の減少率が大きいのも、インターネットの発達で企業組織がフラット化しているためとも考えられる。

こうした職業変化に表れている「ネットの時代」は今後も持続的なのか。また「ネットの時代」が「ケアの時代」とは違ったどのような新しい人生観を生んでいくのか。さらに、ネットと人工知能(AI)が組み合わされた「AI時代の到来」により多くの職業が不要となると大きな話題となっているが本当なのか。これらを見定めるためには、今後も、職業別就業者数の動きから目が離せない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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