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井上達夫教授は、いつからこういう方になったのか

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 ところが井上教授は、自衛隊を「戦力ではないと言い張るのは、詭弁以外の何物でもない」と一方的に断定する。
 結局のところ、井上教授によれば、大多数の国民は、「日本語を解する者」でないか、嘘をついている「欺瞞的」な者であるかのどちらかでしかないわけである。(ちなみに井上教授は、「日本人のマジョリティが『不感症』になっている」[井上達夫『立憲主義という企て』299頁]と述べるが、要するに日本人の大多数は「不感症」で「自己欺瞞的」であるようである。)

 井上教授は、自衛隊の合憲性を認める「修正主義的護憲派」も「欺瞞的」だが、自衛隊の存在を認めない「原理主義的護憲派」の「欺瞞は修正主義的護憲派よりもなおひどい」と述べる。「原理主義的護憲派」が「欺瞞的」なのは、自衛隊を違憲だと思っているのに、違憲だという立場を貫かず、自衛隊が存在している現実を受け入れているからだという。「自衛隊廃止や安保破棄を主張しなければならない」のにやっていない、というわけである。

 井上教授は、自衛隊違憲論者である。そこで井上教授は、9条削除論を主張する。9条の文言と現実との乖離があまりに激しいので削除したうえで、国民が自ら安全保障政策を選択していくべきなのだとする。(もっとも井上教授が、「日本語を解しない者」と「不感症/欺瞞的である者」から成り立っている国民の大多数に安全保障政策を考えさせたいのか、ただ「日本語を解する者」だけを真正な国民として扱うのかは、判然としない。)

 さらに判然としないのは、井上教授が、「9条の2」の追加を提案する山尾志桜里(立憲民主党)衆議院議員を激賞し、繰り返し褒めちぎることである。

 井上教授によれば、山尾議員は、9条の2を挿入して、「専守枠内で戦力の保有・行使を認める」と定める改憲を行うことを提唱しているから良いのだという。しかしなぜ山尾議員だけは「欺瞞的」ではないのか?山尾議員は、まず、自衛隊の違憲性を明言し、「自衛隊廃止や安保破棄を主張」しているのか?山尾議員は、立憲民主党の指導部の「欺瞞」を糾弾し、共産党ですら「欺瞞的」だと糾弾しているのか?もし糾弾してもいないのに、違憲状態があるかのように語って、それを解消する自分の案が素晴らしいと説明しているのだとしたら、それこそ最も「欺瞞的」なのではないのか?なぜ井上教授は、山尾議員にだけは、「自衛隊廃止や安保破棄を主張」していないという理由で「欺瞞的」だ、と糾弾しないのか?なぜせめて「改憲案が達成されなければ、違憲状態が続いてしまうので、自衛隊廃止や安保破棄を主張」せよ、と山尾議員に言わないのか?

 判然としない。

判然としないのは、私が「日本語を解しない者」であるか、「欺瞞的な者」であるかだからだという。しかし、そんなことを言われても、やはり判然としない。

 まあ井上教授のような大教授が、私などを、「日本語を解しない者」以下で、ほとんど存在していない等しい塵だとみなし、視界の片隅にも入れないのは、まあ、仕方がないとしよう。だが政府見解なども、完全に存在していないかのように振るまっていて、本当にそれでいいのだろうか。

 井上教授は、繰り返し繰り返し、自衛隊は戦力で軍隊だから、違憲だ、と主張している。しかし政府見解は、「自衛隊は憲法上の戦力ではないが、国際法上の軍隊だ」、というものである。http://agora-web.jp/archives/2030702.html 

そういう政府見解は、「日本語を解しない者」の戯言でしかないか、単なる「欺瞞」だとして、井上教授は、議論の視野には入れないのだろう。確かに、井上教授ほどの権威ある崇高な学者であれば、そのような立場もとれるのだろう。しかしほとんどの平凡な学者の場合には、政府見解を存在していないものとして取り扱ったら、不勉強を指摘される。せめて政府見解の間違いを指摘し、その論拠を示さなければならない。

学界の重鎮が、60歳代半ばになって、「日本語を解する者であるかどうか」を論証不要な絶対基準として振り回し、お前は欺瞞的だ、あいつも欺瞞的だ、こいつも欺瞞的だ、と怒鳴り続けるとしたら、日本の学界も、言論界全体も、萎縮する。いや、おそらく日本それ自体が、萎縮する。

しかも、井上教授の「日本語を解する者であるかどうか」なる絶対基準にしたがうと、特定の女性野党議員だけは激賞しなければならず、その特定の女性野党議員だけは「欺瞞的」ではない、という認定をしなければならない。判然としない気持ちを抱いても、「それはお前が日本語を解さない者であるか、欺瞞的な者であるからだ」、とだけ言われる。

大学院生だった23歳頃の私が見た井上教授は、そういうことは言っていなかった。井上教授は変わってしまった。もっとも時代も変わってしまったのかもしれない。

https://www.amazon.co.jp/憲法学の病-新潮新書-篠田-英朗/dp/4106108224/ref=sr_1_1?qid=1567924535&s=books&sr=1-1

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