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ここまで混乱した香港問題を救えるのは日本だ

香港政府は「逃亡犯条例」を正式に撤回したが…

香港から目が離せない。

9月4日、香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、大規模デモの引き金となった「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回した。異例の譲歩だが、デモが収まるかどうかは不透明だ。

中国政府は10月1日の国慶節(建国記念日)までに香港の混乱を収拾したいと考えているのだろう。8月30日には、民主的選挙を求めた5年前の抗議活動「雨傘運動」のリーダーたちを相次いで逮捕している。


写真=EPA/時事通信フォト
2019年8月30日、香港警察に保釈され、記者団の取材に応じる民主派幹部の周庭氏(左)と黄之鋒氏(中国・香港)


逮捕されたのは、民主派団体「香港衆志」幹部の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(22)と、同団体の周庭(アグネス・チョウ)氏(22)。黄氏は雨傘運動のリーダーとして米『タイム』誌の表紙に取り上げられたことがある。雨傘運動に関連して実刑判決を受け、今年6月に出所したばかりだった。一方、周氏は「雨傘運動の女神」と呼ばれ、6月に来日して記者会見を行うなど日本でも知られている。

2人は30日午後に起訴され、夜までに保釈された。容疑は今年6月、デモへの参加を呼びかけて100万人を超す市民を動員し、警察本部などを包囲したというものだ。

10月1日の国慶節までに混乱を収拾したいと必死

黄氏と周氏だけではない。香港警察は29日夜、活動禁止中の「香港民族党」代表、陳浩天(アンディ・チャン)氏(28)も暴行容疑で逮捕し、30日には民主派議員数人の身柄も拘束している。

香港では政府トップの行政長官を選ぶ選挙に事実上、民主派が立候補することはできない。5年前の8月31日に始まった雨傘運動は、この選挙制度への抗議がきっかけだった。

民主派団体は今年の8月31日にも大規模なデモを計画したが、香港政府はデモを認めず、反対に民主化運動のリーダーたちは相次いで逮捕されてしまった。

香港政府は傀儡(かいらい)だ。いずれも中国本土からの指示があるとみられる。中国は建国70周年となる10月1日の国慶節までに香港の混乱を収拾したいと必死なのだろう。

中国による武力介入が始まる可能性がある

8月31日、それでも学生や市民は民主化を求めてデモに参加した。雨が降りしきるなか、香港警察は催涙弾を発射。放水車からは青色に染められた水が放たれた。デモ隊は催涙ガスと放水の水圧に次々と倒れた。日本のニュース番組でもデモ隊と警察隊が衝突するシーンが流れた。

デモ隊の強制排除や身柄拘束による弾圧だけでなく、香港政府は非常事態に対応する条例を発動することを検討している。それでも事態を収拾できない場合、中国による武力介入が始まる可能性がある。具体的には駐留軍の出動や、広東省深圳に集結する武装警察部隊の投入だ。

一方、中国の習近平(シー・チンピン)政権は香港政府による沈静化を望んでいる。なぜなら武力介入は国際社会から強い反感を買うことになり、自らの手を汚すことになるからである。

トランプ氏は香港問題を使って中国を牽制する

アメリカのトランプ大統領は30日、「(米中の)貿易協議がなければ、より大変な事態になり、もっと暴力的なことが起きているだろう」と中国を牽制した。

9月1日には、中国からの輸入品3200品目余りを対象に15%の関税を上乗せする措置を発動した。これに対抗し、中国もアメリカからの輸入品1700品目余りを対象に最大で10%の関税を上乗せする措置を発動した。

米中の貿易戦争が激しくなるなか、トランプ氏は中国の痛いところを巧みに突こうと狙っている。それが一国二制度による統治が混乱している香港である。

こんなときこそ日本は動くべきだ。安倍晋三首相はトランプ氏と親しい。トランプ氏の大統領就任直後に、他国のだれよりも早く、アメリカに駆け付けたほどだ。2人はかつてない蜜月の日米関係を構築している。中国など世界の国々もそれを知っている。その有利さを使わない手はない。蜜月の日米関係を使ってこそ、本物の外交と言えよう。

日本はトランプ氏の「虎の威」を借る狐になれ

では安倍政権はどう動けばいいのか。答えは簡単だ。中国に恩を着せればいいのである。

中国の習氏は貿易交渉でトランプ氏を相手に頭を悩ませている。米中関係は最悪の事態にある。しかも中国は香港の民主化運動で立ち往生している。このままだと国慶節どころでなくなる。トランプ氏にも香港問題を突かれている。

日本はアメリカと中国との間に入って仲介役を務めればいい。いきなり貿易交渉に第三者の日本が手を突っ込むわけにはいかないから、まずは香港問題だ。日本はトランプ氏の「虎の威」を借る狐になって、中国に対し香港の民主化に理解を示すよう説得すべきだ。

たとえば虎の威を借りた日本が中国を動かし、中国と香港政府、アメリカそれに旧宗主国のイギリスなどに呼びかけ、「香港会議」のような国際会議を開催するもひとつの手だろう。

香港の国際金融機能がなくなったら困るのは中国だ

そうなれば中国は「助け舟」とみて乗ってくるかもしれない。アメリカだけではなく、ヨーロッパ諸国も香港問題には批判的だ。

これまで香港に認められてきた言論の自由や自治権がなくなった場合、香港から世界の企業が去っていく。香港は国際的に莫大な資金を集め、中国本土に大きな利益をもたらしてきた。

その国際金融センターの香港経済が機能しなくなったら、一番困るのは中国だ。中国が受ける経済的打撃は大きい。中国はこれからも、香港が国際金融センターとして重要な存在であってほしいと望んでいるはずだ。

私有財産の没収さえ可能な「戒厳令」は防ぎたい

最近では香港問題について東京新聞(8月31日付)と産経新聞(9月3日)が社説に取り上げている。

東京社説は「香港デモ長期化『戒厳令』は火に油注ぐ」との見出しを掲げて次のように訴える。

「怖いのは、長官とその諮問機関が『緊急事態』と判断した場合、立法会(議会)の承認なしで『公の利益にかなう、いかなる規則も制定できる』という点だ」

「長官は、報道、ネット、集会などを幅広く制限でき、私有財産の没収さえ可能となる」

「議会の意向を無視した長官の独善的な判断にお墨付きを与えることになりかねず、民主派が『事実上の戒厳令だ』と反発するのは当然である」

「事実上の戒厳令」が発動された場合、香港から市民の自由がなくなる。その事態は避けるべきだ。そのために日本がはたせる役割は大きい。

警察力で抑え込もうとした「最悪の対応」

終盤で東京社説はこう主張する。

「八月下旬には鉄パイプをかざして襲いかかる若者らを威嚇するため、警官が空に向けて初めて実弾発砲する事態も起こった」

「民主的な選挙制度が確立していない香港で、デモは民意を示す有力手段である。それを香港政府が一方的に『暴乱』と決めつけ、警察力で抑え込もうとしたのが最悪の対応であった」

中国は一国二制度を操って香港市民を思うように統治していきたいのだろう。だが、いまや選挙制度の在り方を考え直す時期に来ている。その証拠に雨傘運動以来、大規模なデモや集会は相次いで起きている。民主的選挙を中国が受け入れないところに根本的な問題があるのである。

「暴力と破壊」は弾圧の口実になってしまう

次に産経社説(主張)。見出しは「香港の弾圧激化 国際社会の監視を強めよ」で、こう主張する。

「中国は1997年の香港返還にあたり、『一国二制度』の維持を国際社会に公約した。逮捕された黄氏も、公約順守について『日本をはじめ国際社会も中国に要求してほしい』と訴えた」

「天安門事件の悲劇を香港で繰り返させないため、国際社会は結束して、一国二制度を無視した強硬解決を許さない決意を中国、香港の政府に伝える必要がある」

「国際社会」という言葉が繰り返されているが、ここまで混乱し、収拾の目処(めど)が立たない以上、国際社会の出番であることは確かだ。

そのうえで最後の産経社説は書く。

「今月開かれる国連総会一般討論は中国に国際社会の監視の目を示す重要な機会となる。日本政府は率先して香港問題の平和解決を訴えてほしい。一方で一部の学生は過激な行動をやめるべきだ。暴力と破壊は弾圧の口実となり、国際社会の支持を失いかねない」

この産経社説の主張は、これまでの沙鴎一歩の主張とほぼ同じだ。やはり日本政府が率先して動くべきだ。日本はどこまで国際社会に訴えることができるか。安倍首相の外交手腕が問われている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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