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「石を投げられても胸を張るのがスポーツ」野球U-18日の丸外しアンケート 玉木正之氏コメント

「日の丸外し」に7割超が反対したというアンケート結果は、とても真っ当で、バランスがとれていると思います。私も今回の「日の丸を外す」という判断は最悪だと思います。これは高校生たちに「日本代表」のプライドを捨てろと言ったも同然。そんな卑屈な態度で、韓国に渡る理由はありません。

 選手たちに危険があると思うなら、開催国である韓国に「日本の若者たちを守ってくれ」と伝えれば良かっただけの話です。それも言わずに「あの国には何もできないだろう」と決めつけたのなら、韓国に無礼です。


野球のU18ワールドカップに向け出発する、高校日本代表の佐々木(左)と奥川(8月28日、成田空港) ©共同通信社

政治とスポーツは表裏一体

 今回の事態を受けて私が思い出したのが、終戦から間もない1954年にフィリピンで開催されたアジア大会です。この大会で、入場行進していた日本選手団は猛烈な批判のヤジにサラされ、石を投げ付けられたとの声も聞きました。それでも選手たちは、日の丸をつけて胸を張って行進し続けた。あの戦争で大きな被害を受けたフィリピンという土地であっても胸を張って行進した選手たちは、スポーツのあり方として正しく、石を投げている方が間違いなのです。

 では、どうして日本では、今回のような判断がまかり通ってしまうのか。それは日本人がスポーツの本質をいまだに理解していないからです。

 スポーツは、政治のカウンターパートとして生まれました。言い換えれば、スポーツと政治は表と裏の関係にあって、安易に切りわけられない。そもそも近代五輪は、国際オリンピック委員会(IOC)の創立者、クーベルタンが平和運動として再興したもの。スポーツの本質は反戦・平和の政治運動なのです。

 そして、社会学者のノルベルト・エリアスによれば、民主主義社会でないとスポーツは生まれません。実際スポーツを発展させた古代ギリシャと近代イギリスはともに民主主義を発展させた社会です。中国やイスラム帝国といった歴史上の大国であったとしても、民主主義がなければスポーツという文化は生まれませんでした。

 なぜかといえば、たとえば王朝制の国では、王様を殺した者が次の王様になることが事実上認められている。一方、民主制社会では暴力が一切否定され、話し合いや選挙、議会制度で物事を決めるようになった。そうすると、殴り合い、つかみ合いといった暴力は政治的に意味がなくなる。そこで、暴力をスポーツという「ゲーム」に使うようになるわけです。レスリングでも、ボクシングでも、柔道でも、相手を傷つけてはいけない、殺すな!というメッセージを出しながら戦っているのです。

 ですから、本当にスポーツを理解している人なら、国と国との間で何か問題があるときこそ、「スポーツをやらなければならない」という発想になるはずなんです。

 ところが、日本ではスポーツが兵隊の訓練や心身鍛練の手段として活用され、軍国主義の色合いが濃くなるにつれて、「体育」(体育教練、体練)という訳語が用いられるようになりました。だから、日本人の多くは、スポーツではなく、体育しか学んできませんでした。

 体育はもともと、知育、徳育と並ぶ青少年への文字通りの身体教育です。「スポーツ」が自発的に楽しんで行うものだとすれば、「体育」は若者の心身を鍛えるために強制的に行わせる身体運動。両者がまったく別のものであることも理解されていないのです。

 今回の「日の丸外し」問題も、判断を主導した高野連がスポーツとは何たるかを理解していないという同じ根源から生まれています。「体育」は知っていても、スポーツを学んだことがないのです。

 たとえば、サッカーを学校で習っていても、「サッカーと民主主義」なんて考えませんし、子どもが「なんで足しか使っちゃいけないんですか」と聞いたら、体育の先生は「理屈を言うな」「つべこべ言わずグラウンド3周走ってこい」とか、そういう教え方がされてきました。

朝日新聞には載せてもらえなかったこと

 だからこそ、過酷な環境のなか過密日程で行われる夏の甲子園の問題、議論の進まない球数制限の問題も解決できない。何のためにスポーツをやっているのか考えていないから、毎年夏の甲子園大会を開催出来たらそれで満足なのです。学校の試験期間中に予選をやっておいて「野球は教育だ」と平気で言い放つ。球児たちに肘を壊してまで投げさせてしまうのです。スポーツとは何か考えていれば、今回のように大人が一番対応しなければいけない時にこそ、適切な判断ができたはずです。

 この「日の丸」の問題で先日、夏の甲子園を主催する朝日新聞にコメントを求められました。せっかくなので、そんな話をしましたが一部しか載せてもらえませんでした(笑)。彼らにはこの機会に、何のために高校生が野球をやっているのか、もう一度考えてほしいですね。

(玉木 正之/週刊文春)

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