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子供を英語ぎらいにする親の「ヤバい声かけ」

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教師から変な発音の英語をすり込まれるリスクも

【三宅】ただ、小学校の時から英語を楽しみ、とくに音に慣れておく、という意味ではいいことかなと思っているのですが。

【鳥飼】それは正しい指導者についた場合の話で、いまの制度だと英語が嫌いになったり、変な発音の英語がすり込まれる可能性が高いといえます。そのことは教科書会社も知っていますから、5、6年生の検定教科書にはQRコードがついていて、タブレットやスマートフォンをかざせば音が出るようになっています。ただ、「自分で教えたい」という気持ちが強い先生は、「リピート・アフター・ミー」と指導するでしょうし、先生に確認したがる児童も少なくないでしょう。でも子どもは音を吸収しやすいからこそ、ちゃんとした有資格者が教えなければ駄目だと思うのです。

【三宅】そうですね。とはいえ、小学校の先生の中には当然、熱心な方もいらして、私どもでもJ-SHINE(小学校英語指導者協議会)講座を実施しておりますが、現役の先生が多く受講にこられます。東京開催だと1回あたり受講生は100人ぐらいですが、その10分の1ぐらいは小学校の先生で、北海道から毎回お越しになられる方もいらっしゃいます。

【鳥飼】そうですか。やはり悩んでいらっしゃるんですね。そういう熱心な先生は多く、悩んだ末に大学院に通う小学校教員もいるほどですが、全教員が自信を持って教えられるような体制を国として整備してほしいものです。

私の実体験として、小学校3年生の時に先生から「子どものくせにキザな発音はやめなさい」と言われて、日本語的な英語に無理やり直された経験があるのです。

【三宅】それはひどい……。

教員向けに書かれた解説書の中身

【鳥飼】そういうことも起こり得るので、「先生の言うことをよく聞きなさい」という教えは、英語の授業に関しては、違うかもしれません。QRコードで正しい発音を聞かせる方が無難かもしれない。英語教職課程で新たに音声学が入りましたが、独立した必修科目ではないので、中高の教員でも英語の発音を指導できない方が多いのです。

【三宅】子どもたちも音に関してはわりとするどいので、本物の英語と比べて目の前にいる先生が話す英語が異なるとわかるかもしれませんね。

【鳥飼】わかる子はわかるでしょうけど、わかったらわかったで先生に気をつかうと思います。英語にはいろいろな発音があることを学ぶ機会だと考えれば良いのでしょうが。

【三宅】それがむしろいいほうに働いて、「先生も一生懸命英語を話そうとしているんだ」と思ってくれるなら、それはそれでいいのかなと思うのですが。

【鳥飼】2020年度までの移行措置として文科省が用意した小学校の英語教材に、教員向けに書かれた解説書が付いているのですが、そこに今おっしゃったのと同じことが書かれています。「先生は、CDやネイティブのように話せないかもしれないけれど、そんな先生でも英語を頑張っているのだから、みんなも頑張ろうね、というつもりでやれば生徒はついてきます」というような励ましの一文です。

でも、その一方で「気持ちをこめて、ジェスチャーを交えながら絵本を読み聞かせしましょう」といった指示が書いてある……。苦手な英語で絵本を朗読するだけでなく、ジェスチャーまで入れるんですから、小学校の先生は大変です。

英語の知識は、学校の授業だけでは到底身につかない

【三宅】たしかにそうですね。ただ、現実問題として来年4月からの導入が決まりました。保護者としてはどういった面に注意すればいいでしょうか。

【鳥飼】昨年、NHK出版から頼まれて『子どもの英語にどう向き合うか』という本を書いたのですが、導入後は現場が混乱するのは目にみえているので最初はお断りしたのです。「小学校英語の話は勘弁してください」と。ただ、編集者が保育園児のお子さんをお持ちの母親で、「子どもがもうすぐ小学校に入るが、親としてどうしたらいいのかわからないのでアドバイスが欲しい」と強く懇願されて書いたのです。

【三宅】親としては深刻な悩みですね。

【鳥飼】そう思います。それで、その本を書くために学習指導要領を改めて仔細に読んだのですが、小学校も中学校も高校も、内容がほとんど同じなのです。文末がちょっと違うくらいで、最初は「え? まさか中高の内容を小学校に丸ごとコピペしたの?」と思ったくらいです。

ほとんど同じということは、文科省が小学生に学ばせようとしている英語の知識は、学校の授業だけでは到底身につきません。小さい時から英語を学んでいる子でも、レベルが高すぎて、学校の授業だけで学ぶのは無理だと思います。

親がすべきは「子どもを英語嫌いにさせないこと」


撮影=原 貴彦 立教大学名誉教授の鳥飼玖美子氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)

【三宅】先生は中高の英語も学校の授業だけではマスターできないと主張されていらっしゃいますからね。

【鳥飼】はい。そもそも外国語を習得するのには生涯にわたる学びが必要です。外国語学習は、異質な言語文化を学ぶことになり簡単ではないので、時間が圧倒的に少ない学校教育には限界があります。実際に仕事などで使って、自分で試行錯誤をしないと身につきません。

だから学校で行う英語教育は基礎を学ぶためのものであると最初からわりきったらいいと思うのです。子どもに対して、できもしないことを要求してはいけないと思います。こと小学生の英語に関しては、極端な話、「まったくできなくても気にしなくていい」くらいにゆったり構えて、とにかく子どもたちに無理をさせないことが大事だと思います。

【三宅】では親御さんに対するアドバイスとしても、無理をさせないことですか?

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【鳥飼】はい。「子どもを英語嫌いにしないでください」と。それに尽きます。そのためには無用な圧力をかけないこと。「もう1回言ってごらんなさい」「繰り返してごらんなさい」「そうじゃないでしょう」「何回言ったらわかるの」「何、この点数は」とか、こういうことは一切言わないほうがいいです。教科になると成績がつきます。授業で十分にプレッシャーはかかってしまうので、親まで厳しく指導してしまうと、子どもは逃げ道がなくなります。

外国語は生涯をかけて学んでいくものですから、小学校の段階で英語に苦手意識を持ってしまうのはあまりにかわいそうです。ご家庭では、子どもが「英語って面白いな」と思うような環境をできるだけつくっていただきたいなと思いますね。

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鳥飼 玖美子(とりかい・くみこ)
立教大学 名誉教授
東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業。コロンビア大学大学院修士課程修了。サウサンプトン大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。国際会議、テレビなどで、同時通訳者として活躍後、立教大学教授に転身。1998~2004年までNHK「テレビ英会話」講師、2009年〜2018年3月までNHK「ニュースで英会話」講師と監修、2018年4月〜現在、NHK「世界へ発信! SNS英語術」講師、「ニュースで英語術」監修。専門は、英語教育論、言語コミュニケーション論、通訳翻訳学。著書に『子どもの英語にどう向き合うか』(NHK出版)『英語教育の危機』(筑摩書房)など。

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三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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(立教大学 名誉教授 鳥飼 玖美子、イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=郷 和貴)

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