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映画と広告と文在寅政権

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 日韓関係が揺れて続けている。

 考えたところで僕にはどうすることもできないけれど、それでもやはり考えてしまう。Twitterであれやこれやつぶやいてみるも、長文のブログで書くことはなかなか難しかった。僕の専門分野でもないし、僕の能力を超えてしまっているからだ。韓国のことを知りたいと思う。多くの日本の人たちも同じだろうと思う。だから、テレビやラジオでは韓国について特集されるし、雑誌や書籍は韓国関連本で溢れる。

 先頃、小学館の週刊ポストが〈韓国なんか要らない〉という見出しを付けて韓国特集を行った。全国紙にもその見出しが大きくレイアウトされた広告が掲載された。多くの人たちが反発し、拒絶反応を示した。多くの人が問題にし論議された問題だから、ここでは多くは語らない。検索すればいくらでも参照できるだろう。ただ、僕が唯一と言っていい専門分野である広告的な観点で言えば、需要があるから供給があり、それが複雑で解決が難しい問題であるが故に出てしまった過剰な感情的反応から生まれた出来事の一つだったのだろうと思う。つまり「韓国と関係を絶ってしまえれば、どれだけ楽だろうか」という逃避的な感情反応だ。もちろん、その感情を、特に小学館のような大手メディアが公共性の高い空間に放り出してしまえば責任は問われることは言うまでもない。

 興味深いやり取りがあった。リベラル、保守派から見たら左派の恵泉女学園大学の李泳采教授が「日韓関係が最悪だといっても、中国や韓国の出版社には、日本との関係を断絶するとか、日本を批判するような本は1冊もないし、そういう本は売れない。読む人もいない」と語っていた。日本の言論空間の保守化と人権の軽視についての指摘だろう。

 中国や韓国の書店を見たわけではないから真偽は分からないが、一つだけ言えることは、それは中国や韓国の出版社にとって、それは単純に需要がないと見做されているだけではないか、ということだ。韓国を例にとれば、批判はともかく「日本と関係を絶ちたい」というニーズはないはずだ。

日本に対する韓国の主張は、我々の最高裁が日韓併合を違法であると認定し、日本企業に対し戦時労働者が求める慰安金の支払いを決定したのだから応じてほしい、であり、道義的責任の前で国家間の約束は取るに足らないものであることを認識すべきである、であり、その報復である韓国に対しての輸出管理強化を撤回してほしい、である。そのための対話の扉はいつも開かれていると言っている。

そこに韓国のメディアで語られる言葉を用いれば〈嫌日〉〈反日〉〈侮日〉〈要日〉はあっても〈断日〉につながる契機はあるはずはない。むしろ〈断日〉は困る。この発言は、論理のすり替えによる広告的な誘導があると思った。社会の良識に訴える受け入れやすい論調であるが、そこに自身の党派への広告的誘導が潜んでいることは指摘しておきたい。精密さを書く論拠に基づく広告的誘導は重要な問題についての冷静で精密な論議を大きく阻害する。

 僕は韓国は広告国家だと思っている。韓国は国際的な広告・広報戦略に長けているとう意味だ。さらに言えば、軍事力と同じように広告・広報という手段を使いこなしているということだ。その成功体験も数多くある。直近ではWTOでの福島県産海産物の輸入規制についての日本からの訴えによる審議の勝訴だろう。その点では日本は遅れをとっている。それはやはり敗戦国としての自制が働いているのだろうとも思う。自著でも第三章「倫理なき広告とプロパガンダ」で論じたが(参照)、国家から見れば広告は軍事力の一部でもある。その行使に自制的になるのは仕方がなかったことなのかもしれないが、今後はそうも言ってはいられないだろう。

 軍事力としての広告という視点で見た場合、その特徴は、それが「弱者の武力」であるということだ。だから広告大国である韓国は、日本でも同様ではあるが、主に左派政権で有効に用いられてきたように思う。1980年に起きた光州事件のちなみに、これは前提ではあるが、あえてもう一度その前提を書いておくと、韓国の政治環境は右派、左派、無党派の各層がほぼ1対1対1であり、日本とは大きく異る。

 この韓国左派の広告戦略の根幹に流れるストーリー、あるいはシナリオはどのようなものなのか。その手がかりとなる書籍がある。文在寅自伝「運命」である。この本が韓国で出版されたのは2012年だ。当時の韓国最大野党であった民主統合党の文在寅の大統領選挙出馬にあわせて出版された。結果は与党であるセリヌ党の朴槿恵の勝利。文在寅は48.0%の得票率で敗北した。日本から見れば僅差と言えるが、常に左右が拮抗している韓国にとっては108万票差は完敗という評価もあり得ると思う。2017年、朴槿恵元大統領の弾劾により文在寅が大統領に第19代韓国大統領に就任したことにあわせて、日本で岩波書店から日本語翻訳版が出版された。

 つまり、この本の出版自体が大統領選に向けた広告の一環であると見ることもできるだろう。ここにある記述は、盧武鉉政権を支え、弁護士時代に合同事務所を営んだ韓国で著名な人権派弁護士が有権者に伝えたい物語であるとも言える。

 僕はこの本を発売直後に購入して読んだ。日韓関係が悪化し、書評をブログに掲載しようと考えることもあったが、なかなかうまく書けなかった。それは、この本があまり面白くなかったからだ。むしろ、僕はこの自伝を文在寅という人間像を知るためではなく、僕自身があまり知らなかった現代韓国史の教科書として読んだ。ただ、現代韓国史の教科書としても日本人にとってはあまり親切ではなく(もちろん韓国人向けに書かれているので望むべくもないのだが)、描かれているのは自身の大学受験の失敗や、その後の市民運動への傾倒と逮捕、そのことが原因となり検察官になりたいという夢の挫折、盧武鉉との出会い、合同事務所の設立、大統領になった彼とともにする青瓦台での日々が淡々と綴られる。韓国であれだけ加熱した米国産牛肉輸入阻止運動でも、なし崩し的に収まっていく運動に対して悔しかったと述懐するのみだ。

 そこには、清貧で誠実で正義感のあるが、温厚でやや押し出しの弱く口下手な一人の人権派弁護士がただいるだけだ。これから読まれる方には大変申し訳ないと思うが、最後の文章を引用したい。

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