幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)
作者: 梶谷懐,高口康太
出版社/メーカー: NHK出版
発売日: 2019/08/10
メディア: 新書
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Kindle版もあります。
幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)
作者: 梶谷懐,高口康太
出版社/メーカー: NHK出版
発売日: 2019/08/10
メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
習近平体制下で、政府・大企業が全人民の個人情報・行動記録を手中に収め、AI・アルゴリズムによって統治する「究極の独裁国家」への道をひた走っているかに見える中国。新疆ウイグル問題から香港デモまで、果たしていま、何が起きているのか!?気鋭の経済学者とジャーナリストが多角的に掘り下げる!
インターネットでの検索への検閲や多数の監視カメラ、顔認証システムによる犯罪者の摘発、個人のそれまでの行動が数値化された「信用スコア」によってさまざまなサービスでの扱いが異なるなど、「監視国家」としての中国がとりあげられることが多くなってきました。
そんなふうに、国から見張られているのであれば、中国の民衆は、息苦しくてたまらないのではないか、と僕は想像していました。
ところが、この本を読んでみると、必ずしもそうではないようです。
チベットやウイグルなどで「反乱の可能性が高い人々」として、言動を制限され、収容所に送られてしまう人々は、もちろん別なのですが。
僕の(そしておそらく、多くの日本人の)感覚では、地下鉄ではX線による荷物検査があり、高速鉄道(日本の新幹線にあたる)では身分証の提示が求められ、全国に2億台の監視カメラがあり、2020年には6億台に迫るともいわれている中国は「不自由な国」なのです。
多くの先進国では、中国の現状は「悪しき監視社会であり、それが年々進んできている」と報道されています。
ところが、中国人たちは、監視されながらも、必ずしも自分たちを不幸だと思ってはいないのです。
例えば、調査会社イプソスによる「世界が懸念していることに関する調査(What Worries the World study)」の2019年の結果によると、調査対象の28か国の平均で、過半数の人々が「自国は間違った方向に進んでいる」と感じています(58%)。その中で、自国の進んでいる方向性について最も自信を持っているのは中国で、94%の調査対象者が「正しい方向に向かっている」と回答した、という結果が得られています。
この調査は毎年行われていますが、中国では一貫して90%前後の回答者が自国は「正しい方向に向かっている」と回答しています。そう言うと「共産主義の独裁国家で国民が洗脳されているからだ」という反応が返ってくるかもしれませんが、民主主義国家であるインドも、自国の進んでいる方向性については肯定的な回答が一貫して高い割合を示しています。この数字は、一般的に経済成長率の高い新興国で高くなる傾向があるようです。
また、米国の調査会社エデルマンが27か国の約3万3000人を対象に、1人あたり30分のオンライン調査を実施してまとめたレポート「トラストバロメーター」の2019年版によると、「テクノロジーを信頼するかどうか」という質問に対して、「信頼する」と答えた人の割合は、中国では91%に達し、調査対象国のうち1位でした。ちなみに日本では「信頼する」と回答した人の割合は66%で、ロシアと並んで最下位でした。
全体的に、経済成長率の高い新興国ではテクノロジーの肯定感も強い傾向があるとはいえ、中国におけるテクノロジーへの信頼性、およびそこから生まれる未来の社会に対する楽観的な姿勢(「テクノロジカル・ユーフォリア」)は、世界の主要国の中では群を抜いていると言えるでしょう。
周りは「そんなに監視されていて、かわいそう」と思っているのだけれど、中国で生活している人たちは、今の状況に、けっこう満足しているようなのです。
著者たちは、「『監視社会』やそれに伴う『自由の喪失』を論じるのであれば、同時に『利便性や安全性の向上』にも目を向けなければならないのではないか」と述べています。
いくら「自由」であっても、『北斗の拳』みたいな社会で生きていきたい、という人は少数派のはず。
漫画として読むのは楽しいけれど、いつ「ヒャッハー!」とかいう連中に襲われるかわからないのでは、たまりませんよね。
中国の人々だって、自分のプライバシーを他者に預けることに、抵抗はあるのです。
しかしながら、さまざまな手続きが便利になり、社会が安全になる、というメリットのほうを重視している、というのが現状なのだと著者は述べています。