- 2019年09月04日 09:15
国の「児相強化策」に児相職員が頭を抱えるワケ
2/2■虐待対応には組織マネジメントの向上が急務
しかし、制度構築を虐待対応の現場は待っていることはできない。時間がかかるならより一層早く新たなシステムを動かさねばならない。どのような家庭環境に生まれようと、その命を守っていく責任が私達大人にはある。
①個人の能力の向上、②組織マネジメントの向上、③地域マネジメントの向上に取り組むことは待ったなしである。これまで、①個人の能力向上としての国家資格化について言及してきたので、②③についても言及しておく。
まず、組織マネジメントの向上が急務である。
これまで国家資格化の提言等により個人の能力の向上について言及してきたが、児童虐待対応は組織で行っているものである。
個々人の職員の能力向上は必須であるが、一人の児童福祉司に法令知識や保育・保健・医療・心理等、あらゆる知見を求めることは現実的には難しいことではある。個々人の凸凹をチームとして補い合うのが組織であり、管理職および自治体トップにはその組織マネジメントの責任が厳しく問われるべきである。
■新卒採用は行わず、異動時期を集中させない
では、どのように組織マネジメントを行うべきか。日々のチームマネジメント作りと運用改善等について、7点挙げておく。
①新卒配置は原則行わないこと。
②異動時期を4月1日に集中させずに、年に何度かに分けること。
③児童相談所配置前に、児童福祉司として必要な知識習得のための研修や資格取得を済ませること(自治体としてのバックアップも必要であろう)。
④ケース担当を引き継ぐ場合は、主役である子どもの理解を得つつ、長期の引き継ぎ期間と重複担当期間を設けること。
⑤組織の人員配置構成としては、保育士、保健師、医師、心理士、弁護士等の複数の専門職がチーム内にいるようにすること。それぞれ違った専門的観点から危機判断や見立てができるような組織づくりを行うこと。
⑥経験年数の浅い職員に対する集中的研修を行いつつ、1年目職員には必ずOJTとして、指導教育担当職員と2人体制での同行を経験させるなどの運用を行うこと(泣き声通報や介入の時に誰と誰を現場に向かわせるのかも、重要な危機管理マネジメント判断である)。
⑦児童福祉司や心理士の給与体系を見直すことや資格手当、特殊勤務手当などを制度化すること。
児童相談所としても、そして自治体全体としても、まだまだできる工夫はあるはずだ。給与体系の問題、拘束勤務時間の問題、人材育成・評価制度の問題、こうした点に配慮を求める声とともに、「辛いけど、これだけやりがいのある仕事はない」と言い切る職員は多い。こうした使命感をもって取り組んでいる現場の児童虐待対応職員らに対し、組織の管理職が果たすべき責任は重い。管理職の組織マネジメント次第で、職員がつぶれもするし、職員のやりがいをつなぎチームの力を最大化することもできるのである。
■児童相談所だけが虐待対応をするのではない
次に、地域資源を活用して結び付ける連携力の向上が求められる。
具体的には、平成28年児童福祉法改正により導入され、2022年度までに全市区町村で設置が求められている「子ども家庭総合支援拠点」の設置を進めること。そして、この拠点が司令塔となって、地域のネットワーク組織である要保護児童対策地域協議会(子どもに係る庁内組織、保健所、学校、保育園、里親、養護施設、地域のNPO、民生・児童委員、医療機関、児童相談所、弁護士、警察等)を活用(役割分担と連携)しつつ、子どもの命を守っていくことが必要だ。
児童虐待対応というと児童相談所ばかりが注目されバッシングを受けるが、地域資源を「面」でつなげ、切れ目のない支援を行っている市区町村と、「点」的介入が中心とならざるを得なくなっている都道府県児童相談所との間の、支援と介入との役割分担、連携の制度設計・運用の徹底的な詰めの協議と見直しが必要だ。厚生労働省の平成30年度「子ども・子育て支援推進調査研究事業」で、子ども家庭総合支援拠点のスタートアップマニュアルを公開しているので参照してほしい。
■一人ひとりが子どもの命を守る当事者
最後に、地域全体、そして一人ひとりが子どもの命を守る当事者であるという意識の広がりが、子どもの命を救うことになると提言しておきたい。電車やバス等の公共機関で子どもが泣いている場面に直面したら優しい声かけができるだろうか。子どもを叱っている保護者に出会ったらその場を和らげる声かけができるであろうか。私は極力話しかけている。
ほっとした保護者の顔や声を聞くたびに、こうしたおせっかいが広がることが最大の予防と対策であることを確信する。それは児童福祉司を一人増員することよりも実は大きな虐待予防であると思う。みんなで子どもと養育者に優しい社会を創っていきませんか。
----------
鈴木 秀洋(すずき・ひでひろ)
日本大学危機管理学部准教授
前文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐(秘書総括)、特別区法務部等歴任。法務博士(専門職)、保育士、CSPトレーナー資格。水泳指導員資格。日本こども虐待防止学会、警察政策学会等所属。川崎市子どもの権利委員会委員、江東区こども・子育て会議委員、世田谷区効果的な児童相談行政の推進検討委員会、目黒区長期計画審議会委員。厚労省子ども・子育て支援推進調査研究事業研究代表(2017、18、19年度)。野田市、札幌市の児童虐待死事件の検証委員会委員。『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック』(第一法規)、『(厚労省)市区町村子ども家庭総合支援拠点設置に向けて・スタートアップマニュアル』作成等。
----------
(日本大学危機管理学部准教授 鈴木 秀洋)
- PRESIDENT Online
- プレジデント社の新メディアサイト。



