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国の「児相強化策」に児相職員が頭を抱えるワケ

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子供の虐待を防ぐため、国は児童相談所の職員を増やす方針だ。だが日本大学危機管理学部の鈴木秀洋准教授は「現場からは、新人教育に時間を取られ、職場全体の質が低下するという悲鳴が届いている。専門の国家資格を作り、配属前に取得を済ませるべきだ」と指摘する――。

2019年6月14日、全国児童相談所長緊急会議であいさつする根本匠厚生労働相 - 写真=時事通信フォト

■相談件数は増え、児童福祉司は不足

度重なる児童虐待死事件は世論をそして国を動かし、昨年12月には「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」(以下、新プラン)(平成30年12月18日児童虐待対策に関する関係府省庁連絡会議決定)が策定された。児童相談所の児童福祉司増員などについては、平成31年2月28日付で「「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」(新プラン)に基づく人材確保に向けた取組について」という指針(※1)を発表し、児童相談所体制の強化などを自治体に促している。令和元年の「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」は、この新プランの方向性を法制度としても総合的に後押しするものといえる。

(※1)新プランの初年度である2019年度においては児童福祉司を1070人程度増員する目標とし、地方交付税措置を講ずるとする。また令和元年8月1日にも人材確保に向けた更なる取組について事務連絡通知を発している。

現場からは、これまで児童福祉司が少なすぎたのであり、いまだ子どもや家庭の相談に十分対応できるだけの人員配置とはなっていないとの声を聞く。加えて、虐待事件報道の影響と考えられる、さらなる相談件数の増加、難しく時間のかかる案件の増加、豪雨や地震等による子どものケアが必要となる案件の増加といった、相談対応件数の増加に人員増が追い付いていないとの指摘もある。

■「対応件数が増えたら人員を増やす」ができないのか

ではどうすればよいのか。確かに、令和元年の一部改正法では児童福祉司の数の基準がより明確にされた(※2)。だが、私は、この改正法をもう一歩進め、日々変わる相談件数や年度途中での職員の休職・休業等も配慮事情に入れた上で、一人当たりの対応件数に上限を設け、上限を超えた場合には職員を強制的に追加配置することを義務付ける、さらなる強力な法改正を提言したい。なお、指導教育担当児童福祉司の数についても同様に考えるべきであろう。

(※2)人口や相談件数等を勘案した国の政令基準を標準として都道府県が定める。指導教育担当児童福祉司の数については国の政令基準を参酌して都道府県が定める。

例えば、児童福祉司一人あたり30件等以上のケース割当となる時点で、児童福祉司配置を一人追加するといった内容だ。子どもの命を守ることは国家の最優先事項であり、上限規制の法定化による予算の継続的担保が必要であろう(※3)。

(※3)規定の仕方としては、標準とすべき基準ではなく、従うべき基準とするとの定め方もある。なお、担当職員のメンタルヘルスケアについても、他の職務よりも短期かつ定期的に行うことを管理者に課し、職員の健康を守っていくことを同時に義務付けることも大切である。日々生命にかかわる仕事の重みを理解する必要があろう。

■増員した職員の「質の担保」が課題

増員策が担保されたとしても、それで胸をなでおろすわけにはいかない。人員増とともに、否、それ以上に今現場で急務となっているのは、増員した児童福祉司等の質の担保である。

この点、新プランでは、児童相談所配属経験者の再配置、児童相談所OB職員再任用等を積極的に行うこととしている。また、令和元年の一部改正法でも、スーパーバイザーや専門職員の配置強化による資質向上や児童相談体制向上策が定められている。

だが、現場からは、「児童福祉経験の浅い職員や新任職員配置で人数を充足せざるを得ない」、「もともと経験年数が浅い職員が多い職場に、大量の新人職員が配属されて職場全体の質の低下に悩む」、「教育指導に時間と労力がとられ、自分のケースワークができない」といった、悲鳴に近い声が寄せられている。

■専門の国家資格を創設すべきだ

令和元年の法改正附則で、施行後1年をめどに政府が検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる項目として、「児童福祉の専門知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策について」が挙げられており、9月からワーキンググループによる議論が始まる。

私は、子ども家庭福祉の基礎自治体側実務担当者としての経験、および、多くの児童相談所を研究者としてヒアリングしてきた経験から、「子ども家庭福祉士」といった専門の国家資格を創設すべきだと考えている。児童福祉司の仕事は子ども対応だけではない。子どもを守るために、親対応を含めた家族全体の見立て力が求められ、かつ、子どもに関係するあらゆる機関をつなぎ、迅速に調整し、具体的な連携を行っていく高度なソーシャルワーク力が求められる。

その要となる児童福祉司のレベルが高低バラバラでは子どもの命は救えない。現行の児童福祉司任用資格については、児童福祉法13条3項に要件が定められている。だが、どの要件を満たして児童福祉司となっているのかは、児童相談所によって大きな差が生じている。

これは、当事者側からすればどう見えるのであろうか。例えば、保育園に子どもを預ける保護者または保育に係る関係機関は、保育園では最低限子どもの発育や発達を理解している専門職(保育士)が子どもを見てくれていると通常考えている。法律相談をする人は弁護士資格を有している人に、病気になったら医師資格を有している人に、その専門職としての信頼をもとに依頼をしたり、関係性を構築したりしているのではないか。同じことは児童相談所にも求められる。

同じ職場で働く者同士もそうであろう。同じ職場に配属される職員が最低限どのような知識をもっていて配属されているのかの指標がなければ、チームでの役割分担はできない。目の前の子どもを守るための虐待対応を行いつつ、同僚の知識レベルを一から確認し、指導しながら子どもに向き合うのでは、一刻を争う現場において、チームでの円滑な職務遂行は難しいのである。

■子どもの命を守るためには専門家が必要

この主張には、次のような反論がなされている。①このような国家資格制度を導入することは、ただでさえ人員が不足している中で、さらにハードルを上げる提言であり現実的でない、②こうした人材育成には時間がかかりすぎる、③既存の社会福祉士制度の活用で十分であり屋上屋になる、というものだ。

しかし、主役は子どもたちであり、子どもの命を守るための最適解を考えるのであれば、国家資格化を否定する説得的な理由は見当たらない。夜泣きや離乳食の相談から発育・発達の相談、DVや性被害等の相談を含めて、虐待ケース対応ができる専門家に向き合ってほしいと当事者が思うのは当然であろう。

もちろん、私は、これまでの児童福祉司制度を完全に否定しているのではない。また、新しい国家資格制度を作るにしても、これまでの子どもに関する専門資格である保育士や社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、保健師、医師等の知見と重複する部分は多くある。新たな資格制度を構築する場面では、これまでの児童福祉司制度の利点と欠点について十分な議論が積み重ねられる必要があろう。

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