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新たなM&A指針-監査役に社外取締役の職務を監査する気概はあるか?

6月28日に経産省から「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されましたが、その特集論稿「M&Aに関する新たな規律」が掲載されたジュリスト9月号を拝読いたしました。先日、支配株主による従属会社の買収案件の第三者委員会委員を務めたこともあり、新たなM&A指針の草案については通読しておりましたが、指針作成に関わられた先生方のジュリスト論稿を拝読して、2007年に公表されたMBO指針とはかなり内容が異なることに今更ながら驚きました(といいますか、もっと早く気付くべきだったかと・・・)。

本指針は、構造的な利益相反と情報の非対称性の問題が存在するM&A取引に関して、目標となる原則(実務上の対応)を示したものですが、なかでも公正性を担保するための特別委員会の役割が詳細に示されています。特別委員会は、M&A取引における公正価値算定を中立・公正な立場から関与するのではなく、「一般株主の利益代弁者」として前面に出ることが望ましいとされ、前面に出る結果として「取引条件の形成過程において独立当事者間取引と同視しうる状況が確保される」とのこと。なるほど、それゆえに特別委員会のメンバーとしては(外部有識者ではなく、株主に対して法的な責任を負う)社外取締役が望ましい・・・とされています。また、こういった特別委員会委員の活動は、一般株主に詳細に開示されることも要請されています。

次の会社法改正では、社外取締役への業務委託に関する規定も盛り込まれる予定ですが、こういった指針を読むと、社外取締役の職務は結構むずかしくなりそうですね。ということで、以下は私の素朴なコメントであります。

まずなんといっても、タイトルにあるように、監査役(会)は社外取締役が善管注意義務を尽くしているかどうか、今後はしっかりと監視・検証する必要があります。これまであまり「監査役と社外取締役」との関係は議論されてこなかったと思いますが、会社の重要な局面で社外取締役が前面に出ることが想定(期待)されるとなれば、監査役は社外取締役の職務執行の適法性をきちんと判断し、その結果を株主に監査報告によって説明する必要性が高くなるはずです。社外取締役は会社の手続きが適正かどうかをサラっと眺めるだけでは不十分であり、M&Aの必要性と相当性を(株価算定評価書やフェアネス・オピニオンを参照にしながら)一般株主の利益保護のために自主的に判断しなければなりません。監査役は、その判断過程を監視・検証するのですから、監査役の役割も重大です。今後はその気概を監査役(会)がきちんと持たねばならないと思います。

つぎに、特別委員会が一般株主の代弁者として支配株主らと必死で交渉して、その結果として「独立当事者取引と同視しうる状況が確保される」のであれば、特別委員会も独自の法務アドバイザーを確保する必要が出てくるのではないでしょうか。もちろん、こういった有事には構造的な利益相反関係が生じる会社自身にも(中立・公正な)法務アドバイザーが就任するわけですが、社内取締役へのアドバイスと社外取締役へのアドバイスを同一のアドバイザーが行うことで、一般株主からは「自分たちの利益を(特別委員会は)最優先に検討してくれた」と判断してもらえるでしょうか。ちなみに私が当事者(委員長)だったニッセンHDの第三者委員会(支配株主のセブン&アイによる完全子会社化手続き)は、このあたりに十分配慮して第三者委員会独自の法務アドバイザーをニッセンのアドバイザーとは別に選任いたしました。

そして最後に、本指針は「部分買付け」のような場面でも、一定程度参考にされることが期待される点です。支配株主による第三者割当増資の引き受け、支配株主に準じた大株主による買収などにも本指針が適用されることになると思われますし、現金買収と株式買収も同等に扱う、とのことですから、次の会社法改正による「株式交付制度」(自己株による部分買付け)などにも指針が適用されることになろうかと。そうなりますと、上場会社のかなり多くの社外取締役の方々にとって、本指針に示された特別委員会委員の職務を理解しておく必要がありそうです。価格決定申立て事件等の裁判では、従前のMBO指針も参照されていましたので、このM&A指針についても、裁判規範に準じるものとして検討しておきたいと思います。

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