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GO LOCAL 〜行ってわかった、地方のいま〜
テレビや雑誌など、メディアを通じて目にする地方に関するニュースたち。でも、本当にまだ見ぬ土地について知ろうと思うなら、現地に行ってみるしかない!そこで今月は、これからの「地方」の担い手たちをBLOGOS編集部が取材、さまざまな声を集めました。あらたなチャレンジを知れば、きっとあなたも出かけてみたくなるはずです。

「日本の伝統工芸品は世界に通用する」地方職人に漂うあきらめモード払拭に奔走する一人の男性

  • 2019年08月30日 06:04
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写真提供:BECOS JOURNAL

映画『君の名は。』でストーリーの重要なカギを握る「組紐」や、ゲーム『刀剣乱舞』のヒットで若い女性の間でブームになっている「日本刀」などの工芸品は、古くから日本で受け継がれてきた職人の技術で作られている。

しかし、これまで師匠から弟子へと受け継がれてきた伝統工芸技術は、職人の高齢化にともなう後継者問題や販路拡大の壁に直面し、消滅の危機に瀕している。どうすれば長きに亘り職人たちが守ってきた技術を継承することができるのか。

伝統工芸産業が抱える課題や、いま取り組むべきことについて、伝統工芸品やMade in Japanブランドとつながるプラットフォーム「BECOS(ベコス)」を運営する株式会社KAZAANA代表取締役社長の樫村健太郎さんに話を聞いた。

「スクラムを組んで工芸業界の底上げを目指す」

伝統工芸は、地域の特性や産出される素材を活かして発祥したものが多く、その地方の文化が職人の技術のなかに生きている。現在、経済産業省は、伝統的工芸品として232種類を指定(平成30年11月7日現在)。さらに、伝統的工芸品には指定されていないものの、それに負けないくらい長い歴史を持つ工芸品も存在し、その種類はかなりの数になるという。

伝統工芸品やMade in Japanアイテムに特化したプラットフォームを立ち上げるに当たって樫村さんはまず、3ヶ月かけて地方を回り、伝統工芸の職人と対面して話を聞いた。プラットフォーム上における日本だけではなく世界へ向けたアイテムの販売、メディアによるPR、写真や動画による魅力付けなどの構想を語り、仲間集めに奔走したものの、その反応は想像以上に悪かったと振り返る。

「当初は、工芸業界全体でスクラムを組んで底上げしていこうという思いで事業をはじめたのですが、どんなにお話をしても、超えられない壁があると感じました。

30年40年と技術を継承してきた、その中で様々な試行錯誤をするも結局突破できず厳しい状況が続いている。息子も東京に出て仕事をしている。とりあえず自分の代までできればいい、という“逃げ切り、あきらめモード”は簡単に覆せるものではないという印象を受けました。一番驚いたのは、工芸業界に身を置く人たちほどあきらめてしまっていることです」。

樫村健太郎さん(BLOGOS編集部)

とくに、地方で生活する職人にとっては、移動にお金や時間がかかる大都市圏での催事や、展示会などに参加するハードルは高い。首都圏に近い職人に比べ工芸品を広く知ってもらう機会に乏しいため、「あきらめ」の傾向はより強く感じたという。

「工芸業界には様々な補助金や助成金があります。きちんと販売のことまで見据えずに、助成金を得ることを目的にした新商品の開発や展示会が横行している。実は伝統工芸士とデザイナーが組んだ新しいものづくりは、全国で盛んにおこなわれているのですよ。しかし、それを一般の方に届けるところまでコミットしている事業者はほとんどいない。

例えば、複数のメーカーが集まって補助金を使って海外の展示会に行くのですが、実際に現地の会社と卸の契約を締結したという話は全く聞きません。結局、海外に行って満足してしまっている。

海外の企業との交渉や契約などができないために、技術やアイテムはあるのに活かすことができない。本当にもったいない事例が山ほどあります」。

実際、伝統工芸産業を取り巻く環境は年々厳しさを増している。昭和54年には288,000人いた従事者数は、平成28年までの37年間で62,690人まで減少(参考:一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会)。また、企業数や生産額も下降の一途をたどり、業界全体が衰退している。

職人たちはこのような現状に危機感を感じつつも、長年、後継者問題や販路拡大に苦心してきた経験が足かせとなり、いますぐインターネット販売や海外展開などの新しい取り組みを受け入れる心境にはなれない。また、これまで技術を磨くことに心血を注いできたため、いきなり営業活動やインターネットの知識を求められても希望より不安が募るのだという。

着物業界の衰退は厳格なルールが招いた「自爆」

また最近では、生き残りをかけて地位の確立やブランディングに尽力することで、逆に自分たちの首を絞めてしまっている事例も見受けられると樫村さんは話す。

「先日、モデルのローラさんが着物姿をSNSに投稿し、それを見た人から着崩れを指摘され炎上するという騒動がありました。このような厳しい指摘の背景には、着物とは『格式高く、厳格なルールに守られたもの』という印象を世間に与えてきた業界側の悪手があるのではないでしょうか。

着物業界は、和服から洋服へという時代の流れの中で変革を迫られました。そこで彼らが採った戦略は、高単価アイテムの販売強化でした。高単価で売るために彼らは『着物は一生もの』『一年中着ることができる』という営業トークを展開します。

その結果、無難で流行に左右されない古典的な柄の高単価な着物が増え、普段着としての着物は消滅し、どんどん百貨店などの売り場は縮小していきました。また、小物アイテムの販売強化や着付けのルールを厳格化し、着付け教室というマネタイズ方法も出てきています。

業界を守ろうという発想が着物をつまらないものにしてしまっている。そういう意味で着物業界の衰退は“自爆”ですよ」。

写真AC

樫村さんがこのように話すのには、伝統を重んじるあまり新しいものを取り入れることができなくなった業界の「不寛容」への懸念がある。「着物はそもそも日本人にとって普段着であって、着物で農作業をしたり、袖をまくり洗濯したり、裾を上げて走ったりしていましたよね」と説明。その道の玄人たちが初心者の失敗や間違いに過剰に反応し、厳格なルールで縛ることは業界の発展には全くつながらないと指摘した。

ネット販売に活路を見出した皇室御用達のスリッパ職人

一方で、技術の継承に危機感を抱き、新たな一歩を踏み出す職人もいる。「皇室御用達」本皮スリッパを作る靴職人・高橋直道さんは、樫村さんが運営するMade in Japanブランドとつながるプラットフォーム「BECOS」で出品を始めた。

写真提供:BECOS JOURNAL

これまで高橋さんの本革スリッパは、自社のオンラインショップでは全く売れていなかった。そこでKAZAANAが実際に工房に伺ってインタビュー、写真や動画を交えた特集記事を「BECOS JORNAL」 に掲載し、PRを開始。すると徐々に集客にも結び付き、匠の技が生きた品質の高さが話題となってテレビなど各種メディアで取り上げられるほどに。

最近では新たに1人採用したという。現在80歳だという高橋さんは、これまで知見がなかったIT業界の樫村さんと協力することで、その技術を絶やさず継承する道筋ができた。

写真提供:BECOS JOURNAL

また、工芸品が実際の購買に結び付きにくい理由は「“使い方が分からない”“敷居が高そう”というイメージを持たれていること」だとして、適した使い方や、贈り物として喜ばれるシーンなどを工芸技術と合わせて紹介することで販売数が伸びる傾向があるという。雛人形を製造する埼玉県越谷市の「柿沼人形」が江戸木目込みの技術を活かして作成した招き猫やダルマは、例えば開店祝い、創業祝い、プロジェクトの成功祈願など色別、デザイン別にシーンを提案したことで、国内外問わずお土産として人気だそうだ。

さらに、現在放送中のドラマ『ルパンの娘』(フジテレビ系)では、BECOSに出品中の伝統工芸品がドラマセットの一部として使用されている。エンドロールにはKAZAANAやBECOSの名称だけではなく、工芸品を提供したメーカー名が記載され、製造元の知名度向上につながった。それ以上に、これまでそういった露出の機会に恵まれなかった職人たちの喜びは大きく、ものづくりへのモチベーションを高めるいい事例になったという。

写真提供:BECOS JOURNAL

「私たちがお付き合いしている中小メーカーさんは、これまで小売店や大手からの下請け仕事が多く、自分たちの名前を露出することができませんでした。どれだけ大切に心を込めて作っても、お店に並んだ瞬間に販売店の名前で売られる。お客様と情報を遮断され、“下請け”としていじめられてきたともいえます。BECOSではそのような業界の古い慣習も変えていきたい。

今は時代が変わり、幅を利かせてきた大手小売店も苦戦しています。そのような大手からの依頼だけでは生き残れないと悟り、今まさに自社ブランド、自社製品を開発し、必死に何とか生き残ろうとしている中小メーカーが全国で立ち上がっています。僕たちはそのように挑戦の気概を持った中小メーカーの力になりたい」。

「Made in Japan」に価値を感じる外国人はまだまだ多い

三重県・伊賀地方発祥の伝統工芸「組紐」が映画『君の名は。』で取り上げられ注文が殺到したように、外部から魅力を見出された工芸品が世界でヒットした事例がある。

岩手県盛岡を中心に発祥した歴史を持つ鋳物「南部鉄器」の製造元に、ある日、パリの紅茶メーカーから「ピンクやブルーの南部鉄器は作れないか」との依頼があったという。そこから2、3年かけて開発したカラフルな南部鉄器は、フランス国内でビジュアルや機能面を評価され人気を博し、そこからヨーロッパ、アメリカ、中国へと広がった。その後、日本にも逆輸入され、「おしゃれ」だと話題になった。

Getty Images

こういった事例以外にも、「“Made in Japan”のブランド力は、世界でまだまだ通用すると思います。タイに進出した、ドン・キホーテやダイソーでは日本語の商品パッケージのまま販売されていますが、それが大盛況の要因となっています」。製造は他国である可能性もあるが、実際に日本で売られている商品であるということが信頼につながり、そこに価値を感じる人々が世界には多くいるという。

「今後は、東南アジアの中間層も伸びてきて、日本の伝統工芸のように品質の高い商品にとって非常にチャンスがあります。縮小してく国内市場にばかり気を取られるのではなく、外の世界に目を向けてほしい。

南部鉄器のような事例を海外からのオーダーではなく、日本人が自分たちのアイデアと努力で継続的に仕掛けていくことが重要です。自ら能動的に挑戦し、発信し、ブランドを築いていくことが今後のキーになると確信しています」。

日本のものづくりの根幹を担う伝統技術は可能性に溢れている

また、樫村さんは内向き志向になりがちな伝統工芸職人たちにエールを送る。「狭い業界の中だけにいると今度の展望が見えなかったり、活路が見出せなかったりすると思うのですが、僕は伝統工芸を世界に通用する大きな可能性を秘めた存在だと思っています。

日本人は商品の売上が芳しくないと、直ぐに販売価格を下げて販売しようとします。販売価格を下げることは粗利や原価を圧迫し、結局自分たちの首を絞めることにしかなりません。

安さや機能性で購入することもありますが、本当に長く大切に使いたいものは“品質”や“ストーリー”で購入することもありますよね。職人の想いやストーリーを伝えることで、それを付加価値として喜んでくれるお客様は必ず存在します」。

写真提供:BECOS JOURNAL

「BECOSでは一般的な販売業者は嫌がる1点物も多く出品しているのですが、僕たちは1点物にこそ価値を感じています。それを評価してくれる人を見つけることができるのがインターネットの醍醐味です。大量生産・大量消費という古い流通の考え方を、少量生産・高付加価値販売という考え方に変えること。日本の中小メーカーが生き残る道は、ここにあると僕は確信しています」。

「僕たちは手を動かして直接的なものづくりはできませんが、ITの力を使ってPR、営業、販売を国内外に展開できるパワーがあります。お互いに得意な部分を組み合わせて、僕たちと共にスクラムを組んで世界に通用する一流のJapanブランドを作っていきましょう」。

市場縮小や後継者問題、職人の高齢化など様々な課題はあるが、誰もがインターネットで情報発信をする時代だからこそ開ける道もあると展望を語った。

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