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小泉進次郎氏が育休取得?シンボルとしての意義はあるが

滝川クリステルさんと結婚した小泉進次郎氏が育休の取得を検討していることが、話題になっています。実は私も2011年の第一子誕生に際して育休の取得を考えていました。結局、実行しなかったのは、出産日の約一ヶ月前に東日本大震災が発生したためです。数年後、宮崎謙介代議士(当時)が記者会見で育休取得を宣言した後、いろいろな騒動があったのはご存じの通りです(その時は、同姓の私の事務所にもクレーム電話が殺到するというとばっちりもありました)。

小泉氏が来年育休を取得すれば、私が検討していた時から9年越しということになります。時計の針の進み方が少々遅すぎる気もしますが、宮崎謙介氏の一件でミソがついたこともあり、小泉氏くらいの存在感がなければ踏み切れないことかも知れません。小泉氏は自民党の厚労部会長という立場でもあるので、実際に取得するなら評価されるべき行動だと思います。

その上で言うのですが、国会議員の育休取得は、シンボル的な意味しかないのも事実です。というのも、国会議員が義務的に出席しなければならない公務とは、実質的には会期中の週2~3日の本会議だけしかないからです。徹夜国会のような特別の事情がない限り、1回につき長くても4時間、最短では5分程度で終わるものです。休むために国会の許可を得る必要があるのは現実これだけです。

こう言うと、「国会議員はいつも忙しそうにしているではないか。本会議以外にも仕事がたくさんあるのではないか」という疑問が浮かぶかも知れません。その通りです。たとえば本会議以外の常任委員会、特別委員会。各種の式典や行事への出席。政党関連の会議や仕事。陳情などへの対応。地元選挙区における政治活動や後援会活動、冠婚葬祭などなど。数え上げれば切りがありません。しかし、それらはいずれも、育休という仕組みを使わなくても休める種類のものです。

たとえば国会の委員会にだれを出席させるかは会派の裁量であり、かつ「差し替え」という仕組みがあって、日常的に出席者は頻繁に交代しています。理由の申告も実際不要です。つまり、自民党国対が「小泉君に代わってA君を出席させる」と決めれば済む話であり、もっといえば、小泉氏が仲の良い議員に「ひとつ頼むよ。埋め合わせはするから」と言って両者が合意すれば、それでいいのです。社民党やれいわ新選組のような小会派だと交代要員の都合をつけるのも大変ですが、人数の多い自民党には簡単なことです。

事実、与野党の幹部などは党務に専念するため、滅多に開かれない「政治倫理審査会」などの所属となり、委員会への出席を事実上免除されています。たまたま政倫審が開かれる場合は大抵メンバーが差し替えられるので、本人が希望しない限りは本会議以外に出ることはありません。スキャンダルでマスコミから逃げ回っている議員が委員会に出てこないのも、他の議員に差し替えているからです(本会議は病欠扱いなのかもしれませんが)。

それ以外の各種の行事、式典等への出席は任意です。議長や常任委員長などの役職にない限りは、国会の開会式さえ出席の義務はありません(出欠のカウント自体していません)。その他の陳情や後援会活動、政治活動はもちろん、自分のペースですればいいのです。もちろん、それらを休めば政治的、選挙的なマイナスは生じるでしょうが、どこまで自分が許容するかという問題でしかありません。

ですから、先に述べた通り、「育休を取得して休む」 種類のものは、週に合計数時間がせいぜいの本会議だけです。夫婦交代で面倒を見たり、時折ベビーシッターを頼むなりすれば、育休を取得する実質的な意味はそれほど大きくありません。第一、小泉氏に限らず国会議員はそれなりに顔が割れていますから、育休の最中に人前に出て何かをやっていれば、たとえそれが正当なことであろうとも「国会をサボって何をやっているんだ」と言われるのは必至です。税金から歳費を貰っている以上、育休中にはおちおち買い物もできない、というのが現実でしょう。

このような事情で、私が8年前に育休取得を検討した際には、休むのは「一日、もしくは一週間だけ」と決めていました。その間は、基本的に自宅から一歩も出ずに子供の面倒だけ見る。最低限の買い物などは家族にやってもらう、という形を想定していました。妻にも相談しましたが、同意見でした。

だったら、「育休を取るのに何の意味があるのか」という話になりますが、冒頭申し上げた通り、男性国会議員が育休を取る、しかも小泉氏のように影響力がある人が取るのは、男性の育休取得をオーソライズし、取得を考えている世の多くの男性サラリーマンの背中を押すことになります。シンボルとしては大きな意味はあるはずです。

最後に、男性の育休取得に関する思い出話を一つ。いまから14、5年前のことだったと思います。私は地方新聞社の記者をやっていました。元オーナー社長の不正で会社が倒産の危機を迎えたことをきっかけに、労働組合の活動に深入りすることになり、役員を歴任してやがて書記長に内定しました。その際、編集局長に呼び出され、「実は次の人事異動で高崎支社に行ってもらうことになっている。本社にいないと書記長をやるのは厳しいのでは」と告げられました。

悪意のある異動ではなかったのでお受けしたのですが、代わりの書記長を見つけなければなりません。平時ならともかく、つぶれかけた会社の書記長は、ある意味では経営陣以上に難しい役目で、とりわけ心に鉄のような部分がないと務まらないのです。私が目をつけたのは同期入社の某記者でした。あまり組合活動の経験はない人でしたが、芯の強さは折り紙付きでした。

書記長のオファーをすると、彼は「実は育休を取りたいと思っている。だから書記長は受けられない」と断ってきました。「育休を取ればその間は書記長の仕事もできない。なにより組合役員は、組合員の権利行使を手伝うのが役目で、自分のことは後回し。書記長が真っ先に恩恵を受けたら公私混同と言われるだろ?」。彼の言い分はもっともです。

「お前、すごいなあ」と私は言いました。彼は社内結婚なので、交互に育休を取るなら夫が休んでいる間は妻が出社することになり、損得はありません。当時、わが社の男性社員で育休を取った人はいませんでした。公務員ですら群馬県の第一号が出たのはそれほど前ではなかったのです。人事や査定でどのようなマイナスがあるのか、さらには上司や同僚からどのような陰口をたたかれるのか、想像もつきません。ハイリスクです。さすが、と思いました。

「…男が初めて育休を取る方が、組合の書記長をやるより会社へのインパクトはあるだろな」。私は彼の勧誘をあきらめました。それから十数年。男性の育休取得も少ないながら増えてきましたが、まだまだ壁が厚いです。強くもなければ特別でもない、普通の男性サラリーマンが育休を取れるようになるためには、政治が率先して意思を示すことが大切だと感じます。

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