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【映画評】これは恐ろしい「のび太とジャイアン」のスピンオフ、イタリア発の怪作『ドッグマン』

 なぜかこの人には頭が上がらない。なぜかこの人には上手に出れてしまうという「主従関係」は、誰しもあるだろう。イタリアの映画『ドッグマン』は、その主従関係が行った先にある取り返しのつかない凶行を描く。  

 物語は冒頭、牙を剥く猛犬を、ある男が手なづけるシーンからスタートする。最初は人の喉笛さえ噛みちぎりそうな牙を剥き、どう猛な犬だったが、男の手練手管で次第に言うことを聞くようになっていき、男のトリミングに大人しく応じていく。

 この「犬と飼い主」「手なづける側と手なづけられる側」の関係が、この映画では重要だ。

 男の名前はマルチェロ、この映画の主人公だ。「ドッグマン」というトリミングサロンを経営している。二丁拳銃の小堀みたいな顔面で、これまた小堀のようにヒョロくてガリガリ。気のいい性格で、生きがいは犬の世話と、別れた妻が連れて行った娘との定期的な面会ぐらい。

 そんな彼には乱暴な友人シモーヌがいる。マルチェロとは正反対で、大きな体を揺らして歩く彼は突然、マルチェロの店を訪れれば、「良くない薬物」を要求する。

 マルチェロが代わりに買っておいてやったのであろうクスリなのだが、お金を払ってくれという彼の要求も聞く耳を持たず、シモーヌはマルチェロから薬を奪うと、店主の制止も振り切り、その場でキメてしまう。奥にはマルチェロの愛娘がいるのに。  

 ビジュアル的にも、小男のマルチェロと大男のシモーヌは好対照だ。強要する側と強要される側。この主従関係、日本人ならまっさきにこの言葉が浮かぶだろう。“のび太とジャイアン”。

 しかし、この映画のジャイアンは本物のジャイアンと少し異なる。シモーヌはどこに行っても自由きまま、乱暴に振る舞う。そのため彼は町のみんなから嫌われている。

 シモーヌの嫌われっぷりといえば、マルチェロと共に町で店を営む連中が集まり、彼を組織に頼んで「消す」相談がなされるほどだ。気の弱いマルチェロはその相談を止めることはしないが、積極的に話に参加もしない。なぜなら彼にとってシモーヌは友達だからだ。

 マルチェロの前では、普段はブルドッグのような迫力のシモーヌの顔にも、時折少年のような笑顔が戻る。  この時点で観客からしたら、マルチェロは、その仕事と同様、どう猛なシモーヌという犬を最終的には手なづけるのではないか、と期待してしまう。

 しかし、状況は悪化していく。

 まともな仕事についている様子のないシモーヌは、基本的に金に困っている。

 そしてついに、マルチェロに、彼の友達を裏切るような相談を持ち込む。

 流石のマルチェロもそれだけはできないと首を縦に振らないが、いつものようにシモーヌの高圧的な態度に押されて、取り返しのつかない犯罪に加担してしまう。

 先述したように、最初はマルチェロが、どう猛なシモーヌを最後には手なづけるのではないか、という淡い期待があった。

 しかし、ここまでくると、どちらが犬でどちらが飼い主が分からなくなってくる。これではまるで、マルチェロが、シモーヌの忠犬ではないか。

 シモーヌに流されるがままに生きてきた末、何もかもを失ったマルチェロ。もはや手遅れというところまで来て、ついにシモーヌに「償い」を求めるのだが…。

 ストーリーと別に、本作はロケーションも素晴らしい。  イタリアの寂れた海岸線の街なのだが、こんなにオシャレに寂れた街はみたことがない。どこか哀愁がただよい、どこか浮世離れしている。

 このロケーションが、作品で起きることを、イタリア特有の事象というより、もっと普遍的な寓話の雰囲気を演出し、日本人のぼくらの心にも十分届かせることに成功している。

 あなたはマルチェロなのか? それともシモーヌなのか?

 本作は、「未来の世界の猫型ロボット」という超法規的な解決策が与えられない「のび太とジャイアン」の共依存が行き着く先に待っている容赦なき結末を描いている。

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