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離婚後の親権は「連れ去り勝ち」というデマ 裁判所はそんなに甘くはない

 産経新聞のこの記事を読んで、またかと思いました。

【子と親の離別~揺らぐ親権制度】(上)まかり通る「連れ去り勝ち」 離婚後の単独親権、相次ぐトラブル」(産経新聞2019年8月31日)

「近年、夫婦の一方が相手に黙って子供と家を出る「連れ去り」が頻発している。離婚や親権の問題に詳しい上野晃弁護士によれば、離婚時の親権争いで、家庭裁判所は育成環境が一変するのは子供に不利益になるとの考えから、同居している親を優先する「監護の継続性」を重視するため、連れ去りが親権を勝ち取るテクニックとして定着しているのだという。」
 そのような観点からの「連れ去り勝ち」に裁判所が軍配を上げているという言われたら、それは違うと言うでしょう。

 重視されているのは監護の継続性です。別居前に実際に未成年者である子の監護をどちらが担っていたのか、そうした観点からその継続性を考えるわけで、別居前まで録に監護もしていなかった親が子を連れて家を出たとしても、それだけで親権(監護権)を追認するほど裁判所は甘くはありません。この「連れ去り勝ち」論は、私からみれば全くのデマであり、弁護士までもがこうしたデマを振りまくのは、どうなんだろうと思います。

 そうした事情もあり、本気でこの「連れ去り勝ち」神話を信じてしまっている人たちもいるから問題です。特に連れ去れた側(多くは父親)が別居時に連れ去られたから親権者(監護権者)になれなかったと思い込んでいるのも問題です。その発想から、離婚後の共同親権に飛躍してしまうことも問題で、このような父親だから別居されたんだろうとさえ考えざるを得ません。

 婚姻関係が破局に向かえば別居することは当然であり、不可避です。
 実際に我慢を強いられた側からすれば、同居を継続しての離婚協議など想定できません。一刻も早く別居するのが自然です。

 別居を決意した側がそれまで子を監護していれば、そのまま連れて出るのは当然です。産経新聞や一部の親たちが、これを「連れ去り」と表現しているわけですが、どうにも歪曲がひどくていけません。乳飲み子であれば当然、幼児であっても置いて出るほうが無責任です。連れて出るのが当たり前。

 小学生くらいになれば当人の意思もはっきりしており、通常はよほどの問題がなければ監護親について行く言います。

 ただそれだけの単純な話です。

 こういった場合、父親(夫)側は、破綻にも感じていないことも少なくなく、別居が寝耳に水ということもありますが、それはどこに原因があったのかを振り返るべきでしょう。もちろん妻側に大きな落ち度があるような事案があることもありますが。

 父親側がどうしても離婚したい、だから別居を決意しても日常的に子の監護をしていたわけでなければ、通常は子を連れて行けば問題になります。そうやって監護者としての「実績」を作ったくらいでは離婚後の親権者にはなれません(「連れ去り勝ち」神話を信仰している人たちは、こんなことで親権者になれると思っているわけで困ったものです)。それでも子を連れて出なければならない理由、普段は仕事で家にいないが、妻が育児放棄の状態であれば、この場合は妻も実質的な監護を行っていないとも言えるのですが、父親が連れて出たとしてもそれを「連れ去り」とは評価されません。


 それでこの離婚後の親権が共同親権になればすべてがうまくいくみたいに言われてしまうと本当にどういった発想なのかと思ってしまいます。
離婚がセーフティーネットにならなくなる時代を危惧する 面会強要と離婚後の共同親権

 中には離婚後の共同親権が実現できていれば、シングルマザーの交際相手による虐待死は防げたなどという主張を見ると、本当に何も分かっていないんだなと思います。

 共同親権でなくても、その子の状況を確認する手段が否定されているわけではなく、実際には家庭裁判所の実務は、面会交流に関しては原則実地論の立場に立っており、面会を拒否する側が面会実施による具体的な弊害を立証しない限りは面会を強要するというスタンスです。家裁はこれは公式には否定はしていますが、そうした実務が定着してしまっています。

 面会交流の調停手続の中でも調査官が子の状況を確認してくれたりもします(確かに調査官ごとの実力差は大きく、心許ないこともあります)。母側がエゴで会わせない場合の子の安全確認の手段はありますし(面会させないことに問題がない事例にまで濫用されると困るのでここには書きません)、共同親権かどうかは全く関連性がありません。

 「共同親権」であろうとなかろうと、相手方に連絡をとることは可能だし、逆に拒絶しているのであれば、「共同親権」があろうと連絡を拒絶されればそれまでの話です。

(裁判所を通じる方法は上記のとおり「共同親権」との関連性は全くありません。)

 こうした「共同親権」を主張している人たちは、その「共同親権」さえあれば力尽くでも実現できるんだと言わんばかりの姿勢で、むしろ怖さを感じます。

 ツイッターでもそうですが、「共同親権」に反対する意見を述べるとそれだけで言い掛かりレベルのツイートが湧いて出てきますが、この粘着質を感じるにつけ、ご本人に相応の帰責性があったんだろうなと思ってしまいます。

 やはり離婚後の共同親権は問題が多すぎるということがよくわかるといえます。

 残念な事件も報じられています。

3人の子どもの親権目的?夫の知らぬ間に離婚届提出…36歳無職の女逮捕 札幌市」(UHB2019年9月1日)

 離婚届を偽造したという事件で、その動機は親権が欲しかったということですが、一体、誰の入れ知恵なのでしょうか。0歳児の監護はこの母親が担っているでしょうから、特殊な事情があれば別ですが(そうなると親権が認められない場合もあり得ます)、普通に別居し、次の段階の手続きに進めば良かった事案です。夫から「お前には絶対に親権は渡さん!」と言われて落ち込む、不安に駆られる母親も少なくありませんが、正しい知識を得ることが大切です。

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