- 2019年09月02日 08:11
”特殊詐欺”のドラマが妙にリアルな理由は”老人と若者の格差”?
2/2TBS系で放送された『スカム』<全9回>(毎日放送)
名門大学を卒業して大手企業に就職したのに、リーマンショックのために入社半年で新卒切りに遭ってしまう草野誠実
(杉野遥亮)が主人公。このドラマは「箱」の描写がリアルだった。電話をかける訓練を徹底してさせられる。
このドラマでも詐欺グループ入ったばかりの初心者に高齢者への怒りをかき立てられるシーンがある。
『詐欺の子』と同じようにゴルフ場でプレーする高齢者を見学するのだ。
和田正人演じる、振り込み詐欺店舗の店長・毒川が叫ぶ。
(毒川)
「目ん玉にこの光景、よーく焼き付けておけ。
このゴルフ場が出来たのは1988年。バブルのまっただ中。
おまえらバブル経済ってわかるよな。
で、ここは会員制。会員権もっている人間とそいつが連れてきた人間しかプレーできねえ。
ちなみに会員権は3000万。会員の平均年齢は68歳。
感想は?」
(参加者A)「こんな老後、送りたいなあ。じじいたちが遊ぶために、すいぶんぜいたくっつうか」
(参加者B)「芝生張るのだって、あんな色を保つのって、すげえ金かかるんですよ」
(毒川)
「おまえ、くわしいじゃん」
(参加者C)
「親が造園屋だったんで・ガキの頃、つぶれましたけど」
このあと、高齢者が泳ぐ温水プールや高齢者が談笑する高級レストランを見学しながら、格差が広がっている日本で老人たちにはお金があるという認識を次第に強めていく。
いく。
「老人は日本のガン」
詐欺グループで複数の店舗(箱)を運営する番頭の神部(大谷亮平)が説明する。
他の仕事に比べれば「この仕事は天国だよ」と言う。神部は乱暴な振る舞いや言葉遣いはしない紳士的な男だ。
ホワイトボードに書きながらの説明の仕方も学校の先生のようだ。
「なぜかというと、貯金ゼロの貧乏人から200万を奪うのと(画面に「搾取」と字幕が出る)、
貯金2000万のクソの金持ちから200万だけいただくの
(画面に「奪取」と字幕が出る)、どっちが罪深いかって話だ。
どっちが気分悪い?
詐欺の場合、ターゲット1人あたり200万だ。
これは貧乏人なら、首くくる額だが、年寄りなら、電話ひとつでぽんと出せる額だ。
なぜか?
金に余裕があるから。いいか、日本中の金の半分以上は、60歳以上の年寄りが持っている。
信じられるか?
信じられるよな。おまえらその目で見てきたんだから。
平日の真っ昼間から遊び呆けている年寄り連中。
俺らのターゲットはああいうやつらだ」
(誠実)
「でも、あの人たちだって、若い頃、必死にお金貯めていたんじゃないですか?」
そう主人公の誠実が疑問を口にする。
神部は「かもなあ・・・」と一言おいてから続けるのだ。
(神部)
「だが、昔は今と違って、すげえ好景気だったんだ。
いいか。60歳以上の年寄りの平均預金額、2000万。
年金は月18万だぞ。
若造が必死こいてもらえる手取りよりいいじゃないかよ。
おまえら、歳くったとき、年金、いったい、いくらもらえるっつうんだよ」
(参加者D)
「そもそも払ってねえす」
(参加者E)
「つうか、払えねえ」
(神部)「だろう? そのうえ、やつらはもらった年金の4割を使いきれずに貯金している。
結果、死んだときに残す金は不動産なんかも込みで、
なんと、平均3000万円」
(参加者F)
「3000万?」
(神部)「不思議だよな。俺も不思議でしょうがねえよ。年寄りどもはなんでこの大金を使わない?
どうして若くて苦労しているおまえらには分け与えようとはしないんだ。
だから老人は日本のガンだっていうんだよ!」
前述した『詐欺の子』と重なる場面だが、詐欺グループがこうした言葉を使って、新人たちの抵抗感を減らしていき詐欺に加担させていったリアリティーあふれる場面だ。この神部の言葉にうなずく若い世代は少なくないことだろう。
このドラマの原案は鈴木大介の『老人喰いー高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書)で、取材に基づいたノンフィクションがベースにあるからこれほど説得力があるのだろう。残念ながらドラマは8月28日が最終回ですでに地上波での放送は終わってしまったが、Netflixでは視聴が可能だ。
このドラマの見どころは、詐欺集団の若者たちが電話で様々な「設定」を演じながら、高齢者を騙していく「お仕事」としての特殊詐欺の描き方だ。若者たちはぴしっとスーツを着こなして時間通りに出勤する。
「息子が痴漢を働いていま捕まった」「万引きをして捕まった」「交通事故を起こしてしまった」。
たとえば一つの設定でも、若者たちは息子本人、鉄道警察、弁護士、警官、痴漢された女性の父親など、様々な人物をとっさに演じていく、という猿芝居が次第に上達していく。それらを「仕事」として、真剣に練習し、工夫して、仲間と連携する「仕事」
このドラマなどに登場する「老人はガンだ」というロジック。だから、もらってもいいのだという理屈は身勝手なものといえるが、若者たちに罪悪感を抱かせないで犯罪に関与させるにはすごく説得力がある言葉だ。
ドラマだけではない。実はドキュメンタリーでも詐欺集団の実態に肉迫した番組が最近増えている。
7月にNHKが放送したNHKスペシャル『半グレ 反社会勢力の実像』でも半グレグループが特殊詐欺のひとつ「振り込め詐欺」に手を染める様子を「詐欺グループの中枢にいた男」が証言している。
「お金がなくて、どうやってお金を作れるかなってみんなで考えたときに、やっぱり詐欺系になっちゃったんですね」
(Qどのぐらい稼ぎました?)自分がたぶん50億円ぐらいですね。手取りで。
(Qグループ全体だと?)数百億円あるんじゃないですか」
この人物は、詐欺を行う実行役は末端のグループで互いに分断されているので他のグループのことや組織全体について知らないので、「絶対に捕まらない」と豪語した。
詐欺グループで実行役を担っていた、という沖縄出身の20歳の男性は中学を卒業した後で職を転々としてきたという。
「最初、始めたのが建築だったんで、こういう、ずっと朝起きて行くというのが途中から面倒くさくなって行かなくなりましたね。涼しいクーラー付いているところで仕事できるのないかなと思って」
この男性は同棲する同い年の女性がいたが、2人とも沖縄で定職がなく、収入は乏しかったという。あくせく働いているときに「儲かる仕事がある」と友人から誘われて、「やばい仕事かもしれない」と思いながらも、誘いにのって東京に行った。
仕事は詐欺の「受け子」だった。騙した高齢者から現金を受け取る役目で報酬は2万円の約束だったが、受け取り先の公演ですぐに逮捕されてしまう。当時は未成年だったので鑑別所に送られた。このように警察が検挙するときは彼のような末端だけ捕まり、半グレの中枢には捜査機関の手はなかなか届かない。
「特殊詐欺」を扱った最近のドラマは、どれもこうしたこうした報道取材の「リアリティー」をかなり丁寧に反映している。
詐欺グループの実行役を担うのは、格差社会の「底辺」にいると言っていい若者たち。それは半グレなどの詐欺グループの中枢が莫大な利益を吸い上げていく一方、自分たちには足がつきにくいシステムを構築している。
ドラマでもドキュメンタリーでも、映し出されているのは日本社会の悲しい現実の姿だ。
事実を丁寧に取材した土台に立っているドラマはウソがないので楽しめる。
始まったばかりの『カギデカ』はこれから楽しみだ。
※Yahoo!ニュースからの転載



