- 2019年09月01日 06:00
防災の日に思う、日本の地学教育を消滅に向かわせる文部科学省の無策 - 勝村久司 (高等学校地学教諭、元厚生労働省医療安全対策検討WG委員)
2/2地学教員の募集ゼロを続ける東京都の混乱
地学や地学基礎の科目を軽視している都道府県の教員採用試験の募集要項をホームページで見ると共通していることがある。それは、理科の教員の募集の欄に「理科(物理・化学・生物)」と明記され、地学がはずされているのだ。現場の各校で地学を教えていないから、地学の教員は不要、ということだろう。つまり、理科の中から地学がなくなってしまっていることに何の問題意識も持たず、現状を追随しているだけであり、それは、文部科学省の無策にも原因があるだろう。
全国で最も高校数の多い東京都でも、教員採用の募集要項は、今年度も「理科(物理・化学・生物)」となっている。
東京都では、公立高校の入試問題の地学分野でミスが続いている。2014年2月の入試のミスについては『防災の日に思う 地学教育を空洞化させた文科省と教育委員会の責任は重い』に書いたが、その後、2016年2月の入試でも、『都立高校入試でまた出題ミス 理科教員の地学離れは深刻』に書いたようにミスが起こっている。
入試の問題でミスがあることは珍しいことではない。しかし、東京都の数多くの公立高校で一斉に行われるために慎重につくられるはずの入試問題で、地学だけミスが続くのはなぜか。
この2回のミスでは、実施直後から、都内の教員や外部の有識者らから東京都に「ミスではないか」という指摘が相次いでいた。共通しているのは、東京都がその指摘をすぐに理解できなかった、と考えられることだ。そのために、2014年の際には、合格発表の前日になって、東京都は各高校に採点をやり直すように指示を出し、現場が大混乱した。2016年の際には、東京都は一度、相次ぐ問い合わせに対して「東京都の見解」を公表したが、その内容が、完全に間違っていた。これでは、正しい答えも導けないし、そもそも、まともに問題を作成できない、というレベルだったのである。
この年、東京都は、採点のやり直しをせずに合否判定を行ったが、その後も、天文教育普及研究会が3月9日付で「平成28年度東京都立高等学校入学者選抜学力検査問題(理科)に対する意見書」を出したり、毎日新聞が4月19日で「都立高入試 理科の設問「不適切」 専門家異論 都教委、HPで「見解」」という見出しで報道したりなど、都の対応は到底納得できるものではなかった。この毎日新聞の記事の中で、都の担当者は「これだけ疑義が出ているので良い問題だったとは言えない。専門家などの意見を聞きながら、問題の質の向上を図りたい」とコメントしているが、今年も、東京都の教員採用で地学の募集はゼロなのである。
リベラル・アーツや防災・減災教育に欠かせないはずの地学
このままでは、高校から地学がなくなり、理科は物理、化学、生物だけになってしまうだろう。このことは、高校だけにとどまらず、理系の大学進学者が地学を知らず、小中学校の教員が地学を教えられなくなり、やがて、日本の地学教育は消滅してしまう。既にその状態に近づいてしまっている。
実際、中学校の理科の教員が地学を苦手としているために、都立の高校入試で地学の問題ミスが相次いだ際にも、中学校からの指摘は少なかったという。
近年は、大学や大学院の教育でも、専門性だけに偏らず、広い教養も持つ人材を育てるためにリベラル・アーツが重要視されつつある。この源流となる自由七科とは、文法学・修辞学・論理学・算術・幾何・天文学・音楽であり、ここでいう天文学はまさに地学のことをさしている。地球や宇宙のことを学ばずに、社会や人間や技術の研究を進めてよいのか、という問いが、日本のアカデミアに課されているのではないか。
先日、私が勤務する大阪の高校でも、大地震を想定した実働防災訓練が実施されたが、前後のミーティングで改めて気づくことは、もうすぐ25年になる阪神・淡路大震災を知らない世代が教員になり始めているということだ。東日本大震災も、地学の科目がなければ、じっくりと国民にその原因や被害の実情、教訓を伝えることはできず、いずれ忘れられてしまうだろう。
文部科学省は、地学基礎を必修科目にするとか、せめて、地学基礎や地学を開設していない高校に対して、生徒が選択希望できるように開設するよう、通知を出すなどの策をうちだすべきではないか。
世界全体のマグニチュード6以上の地震の20%以上、世界全体の活火山の7%以上が日本にある。台風も竜巻も落雷も、豪雨も洪水も土砂災害も、ひっきりなしである。海溝に囲まれ大津波も押しよせる。だからこそ、防災や減災のための教育とその素養は欠かせないはずで、本来ならば日本は、地学教育の普及で世界の見本になるくらいの気概を持つべきだと思う。
防災の日に日本が真剣に考えなければいけないことは、地学教育のあり方なのではないか。
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版



