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韓国財界OBが明かす「文在寅と安倍晋三に聞かせたい“瀬島龍三の言葉”」 今は政治家の力が強すぎて、外交チャンネルがほとんど機能していない - 牧野 愛博

 8月14日午前、韓国メディアが「日韓の外務次官が今週末に極秘協議」と、相次いで速報した。徴用工訴訟判決を契機に荒れに荒れる日韓関係の改善を目指し、秋葉剛男外務事務次官と韓国の趙世暎第1外務次官が第三国で会談するという内容だった。この試みは、韓国メディアの報道により潰えた。

「韓国のなかに関係改善を望まない勢力がいるということだろう」

 日韓関係筋の1人はこう語った。この極秘協議は数週間前に日本外務省が韓国外交省に持ちかけた。日本統治からの解放を祝う「光復節」である8月15日が過ぎれば、韓国の日本批判も一段落するだろうという読みのもと、関係改善の起点を作る狙いがあった。


「光復節」で演説する文在寅大統領 ©AFLO

 わざわざ第三国での開催を目指したのは、ヘイトに近い非難を相互に浴びせる日韓の政治家や世論から離れ、静かにお互いの気持ちを探り合いたいという狙いからだった。

文在寅政権の対日外交は総選挙対策でしかないのか?

 だが、理念や理想を忘れ、世論の支持集めにばかり目を奪われた政治家やその側近に、そんな願いは届かなかったらしい。文在寅大統領は15日の演説で厳しい日本批判こそ避けたが、徴用工問題を解決するための具体的提案も示さなかった。

 韓国の知人たちの評価は「自分だけが悪者にならないようにする速度調整」「韓日関係悪化による不況の更なる深刻化の責任から逃れるための術策」などと手厳しかった。要するに、文氏やその側近たちの関心は、来年4月の総選挙に向いており、対日外交は総選挙勝利のための手段でしかないということだろう。

 案の定、韓国大統領府は8月22日、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を発表した。

かつて日韓の間を奔走していた瀬島龍三

 日本だって、そんな韓国を一方的に馬鹿にすることはできない。日韓外務次官協議の提案は、外務省なりに頑張った結果だと思うが、いかんせん、政治家たちがついてこない。今、「日韓関係の改善」を声高く訴える日本の政治家が一体何人いるだろうか。

「文藝春秋」9月号にも寄稿したが、日本も韓国も現在、政治家の力が強すぎて外交チャンネルはほとんど機能していない。なんとか、安倍晋三首相と文在寅大統領との間をつなぐ人物が現れないものだろうか。

 私は8月、ソウルで韓国財界OBの1人と食事を共にした。彼はその昔、瀬島龍三元伊藤忠商事会長と親交があった。瀬島氏といえば、朴正熙政権や全斗煥政権時代、日韓の間を往復して首脳外交を助けた人物として知られる。中曽根康弘元首相が1983年1月、首相就任後初の外遊先として韓国を選んだ際、そのお膳立てをしたのが瀬島氏だった。

 瀬島氏は元大本営参謀。朴、全両政権には日本軍で教育を受けた幹部が大勢いた。町田貢元駐韓公使も「両政権の人々にとって、瀬島龍三はあこがれの存在だった」と語る。その声望を生かし、瀬島氏は中曽根訪韓のほか、1973年の金大中氏拉致事件、1986年に起きた藤尾正行文相による歴史教科書発言問題など、軋轢が生まれるたびに、日韓の間を奔走した。

「瀬島さんには色々なことを学びました」

 瀬島氏はよくソウルの新羅ホテルを利用し、そこの日本料理店「有明」の常連客でもあった。財界OBはそこで、瀬島氏の薫陶を受けたという。

「瀬島さんには色々なことを学びました」。こう語る財界OBが教えてくれた瀬島氏の言葉は、今の日韓首脳には耳の痛いものばかりだった。

 瀬島氏は、「日本は大衆民主主義を欧州から導入し、花を咲かせようとしていたが、軍が実権を握って天皇を操った」と語り、戦前の軍国主義への反省を語った。「自分も大本営に就職したような気分でいた」とも述べ、時代の流れに抗えなかった自分を素直に認めたという。

 瀬島氏は「韓国に対して申し訳ないことをした」とも話したが、無批判に韓国に迎合したわけでもなかった。軍国主義を批判する観点から、「軍人は一定期間政権を握ったら、民間に権力を渡すべきだ」と述べ、朴正熙・全斗煥両政権への批判も口にした。

 そして「一番良いのは経済や交易で2つの国が仲良くなることだ。韓国の発展にもつながる」とも語ったという。瀬島氏の生き様については不明な点も多いが、日韓の両指導者から厚い信頼を得ていたことは間違いないようだ。

「パイプ役になります」と息巻く人たちはいるが……

 また、この時代、韓国側には朴正熙大統領の側近だった金鍾泌元首相や、浦項総合製鉄(ポスコ)を設立した朴泰俊元首相のような日本通もいた。金鍾泌氏も朴泰俊氏も流暢な日本語を操るばかりではなく、日本の歴史や政治に深く通暁し、「まるで日本人と話しているかのような錯覚を覚えた」(町田氏)人物たちだった。

 今、日韓関係を取材していると、政治家を始め、「ポリフェッサー(政治的な動きをする学者を指す造語)」と呼ばれる人やメディア関係者ら、「私が日韓のパイプ役になります」と息巻く人物があちらこちらにいる。ただ、私が聞く限り、そのほとんどは自薦の域を出ないようだ。

 天界でこうした動きを見ている瀬島氏や金氏、朴氏はきっと苦笑しているだろう。

 財界OB氏はこうも語った。「元はといえば、徴用工判決からこじれた問題で、今も日韓経済への悪影響が語られている。ひとりひとりの力は足りずとも、日韓双方の財界人が一緒になって相手国の政治指導者に改善を訴えるしかないだろう」

◆◆◆

「文藝春秋」9月号には牧野氏が「文在寅『ひきこもり大統領』の危ない戦略」と題して原稿を寄せている。

(牧野 愛博/文藝春秋 2019年9月号)

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