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テレビや雑誌など、メディアを通じて目にする地方に関するニュースたち。でも、本当にまだ見ぬ土地について知ろうと思うなら、現地に行ってみるしかない!そこで今月は、これからの「地方」の担い手たちをBLOGOS編集部が取材、さまざまな声を集めました。あらたなチャレンジを知れば、きっとあなたも出かけてみたくなるはずです。

岡山新名物は絶品ワインにキャビア?山あいの町で生まれたA級グルメを訪ねてきた

  • 2019年08月30日 11:53
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市の中心にある新見駅にはA級グルメをPRする看板も

岡山空港から車を走らせること1時間半。岡山県の最西北に位置する岡山県新見市にやってきた。取材日の天気は晴れ。天候に恵まれたのは嬉しいが、高速道路で見かけた温度計によるとこの日の気温は37度、休憩のためサービスエリアで車から降りて建物まで歩くだけで汗がにじんだ。

詳しくない方のために少し解説しておくと、岡山県はおおまかに備前、備中、美作の3つの地域に分けることができる。現在の県庁所在地でもある岡山市は県南東の備前にあり、美作は県の北東地域で、かの剣豪・宮本武蔵生誕の地として知られている。今回訪れた新見市は西部の備中地域にある。

この新見市、以前は石灰石の採掘を主要な産業とした土地として知られていたのだが、近年は「A級グルメのまち」として市をPRしている。もともと、ブランド牛の千屋牛や、岡山県で栽培が盛んな桃やぶどうなど、高級食材の産地ではあったが、ここにきて新たな取り組みも目立ち始めた。

石灰石の採掘は現在でも盛んだ 写真:gettyimages

そのひとつが、今回の取材の目的のひとつでもある、この地で生産されているワインだ。

耕作放棄地を再生 モダンなワイナリーで作られるフレッシュなワイン

青い空に一面の緑。最高の場所にワイナリーはあった

新見市の市街地から離れ、曲がりくねった山道を車で登っていくと、とつぜん、視界にモダンな建物と一面のぶどう畑が目に入る。「来た甲斐があった」と思った。どう考えたって最高のロケーションだ。

新見市の南部、哲多町にあるワイナリー「domaine tetta」は、耕作放棄地となっていたぶどう畑に目をつけた高橋竜太さんが「畑を蘇らせること」を目的に2009年に設立した。

もともと、水はけのよい石灰質の地質を持つ新見市の土地はぶどうの生産に適していたとはいえ、ワインについてはまったくの素人だった高橋さんにとって、放棄された土地を開墾し、ゼロからワインを造ることは難しい挑戦だったにちがいない。右も左もわからないなか、どうやってワインのことを知っていったのかと聞くと、高橋さんはあっけらかんと「とにかく飲んだ、そして関係者にたくさんあって話をした」と答える。いやいや、食事を楽しむために飲むならともかく、仕事で飲むのは大変でしょう。ここまで高橋さんを突き動かした情熱の源はなんだったのだろうか。

domaine tettaの代表・高橋竜太さん。ワインを造るようになった経緯を楽しそうに教えてくれた

「もともと地元でベンチャーに挑戦したいという気持ちがあったんです。大学を卒業して、家業の建設会社に入ったのですが、そのときもずっと『ベンチャーをやりたい』と言っていました。そんなときにこの土地が荒れ果てているのを見て、なんとかしたいなと」

その後、放棄され雑木林のようになっていた畑を開墾し、苗を植え、ぶどう畑を復活。ワインづくりに適したぶどうを生産できるようになった。当初は、栽培したぶどうを山梨や長野のワイナリーに持込み、委託醸造することでワインを発売していたそうだ。そして2016年に現在のワイナリーが完成し、栽培から醸造までの一貫体制を実現。ワイナリーが完成したタイミングで屋号を現在の「domaine tetta」に変更し、2017年、念願の自社醸造ワインをリリースした。

「ワインづくりって、夢があると思うんです。いま、うちのワインは県内だけでなく、東京など各地でも飲んでいただけるようになりました。この山の中で造ったワインが日本各地に伝わるなんて面白いし、ワインって世界で飲まれているお酒なので、何かの機会で世界にだって発信できるかもしれない。そのワインがここで造られているってなんだか凄いと思うんですよね」

ずらりと並んだdomaine tettaのワイン。ラベルのイラストがかわいい

現在の「domaine tetta」のワインにはフレッシュな味わいのものが多い。若々しく華やかな香りが広がる白ワインに、ベリーのような果実感たっぷりで軽めの赤ワインと、どちらもワイン慣れしていない人でもスルスルと飲むことができるのが特徴だ。高橋さんによると、今後はじっくりと味わいを増していくようなぶどうの品種にも挑戦したいという。

「これが『自分たちのワインだ』と言えるようなものを作りたいですね。いまは栽培も醸造方法も色んなことに挑戦していて、引き出しを作っている過程です。フレッシュなタイプ、熟成タイプなど色んなスタイルのワインにチャレンジしたいですね。ワイナリーができたことで僕たちのワイン造りをこの場からお客様へ発信できるようになり、この場でのチャレンジにより一層意欲がわきますね」

カフェには新見市のブランド牛、千屋牛を使ったメニューも 写真提供:domaine tetta

ワイナリーは岡山出身のインテリアデザイナー・Wonderwall片山正通氏がデザインした。1階がカフェ、地下がワイナリーとなっており、カフェではあたり一面のぶどう畑を見ながらワインや食事を楽しむことができる。高橋さんの案内で地下に降りると、瓶詰めされたワインがずらりと貯蔵されていた。このワイナリーの建設にあたっては、県内、県外のさまざまな人々から支援を受けたそうだ。

抜け感のあるカフェ。店内のどこからでもぶどう畑が見える 写真提供:domaine tetta

「やっぱり、ぶどう畑を前にしたこのロケーションでワインを飲んでもらいたいと思ったんです。いま、tettaを取り扱ってくれているお店の人にも、必ず一度はここに来てもらっています。僕らに会って、この場所を知ってもらった人にワインを託したいんです」

domaine tettaのトレードマークはパンダ。ワインの包み紙にもパンダのイラストが描かれている。実はこのパンダ、畑を掘り起こしているときに出てきた置物だそうで、今もワイナリーの看板近くに飾ってある。かわいいですねと伝えると、「うちの守り神なんです」と高橋さんは笑っていた。

domaine tettaの守り神。訪問客を迎えてくれる

最後に「地域に貢献したいという気持ちは?」と聞くと、高橋さんは「それを念頭に置いているということは全然ないんですが、結果的にそうなればいいとは思っています」と話してくれた。なるほど、高橋さんがそういうスタンスだからこそ、domaine tettaのようなこれまで地域になかった事業が実現したのかもしれない。

山間で作られるキャビア 1万7千匹のチョウザメ養殖場

一方、地域と連携しながら新たな名産品を作る取り組みも新見市ではおこなわれている。それが世界三大珍味のひとつ、キャビアだ。キャビアの親、チョウザメを養殖するMSファームは、新見市中心部から少し離れた川のほとりにあった。

養殖場はかなり広い。豊富な水を活かして、チョウザメを飼育している

以前はこの場所で漁協がニジマスやアマゴなどを養殖していたそうだが、「山からキャビアが取れたら面白い」ということでチョウザメの養殖がはじまった。現在MSファームで養殖されているチョウザメの数は約1万7千匹、年間60~80キロのキャビアが生産されている。チョウザメは成魚になると2メートル程度まで成長するため、広い生け簀も必要になる。

優雅に泳ぐチョウザメたち

チョウザメは淡水生の魚で、サメと名はつくものの見た目が似ているだけで生物学的にサメとは無関係。チョウという名は体表にある硬鱗の形が蝶のようだからだと言われている。

ふと疑問に思い、案内してくれた養殖場のスタッフに「サメじゃないということは、チョウザメは何の仲間なんですか?」と聞くと、「チョウザメはチョウザメですね」と身も蓋もない答えが。聞けばチョウザメは3億年も前から存在する、生きた化石ともいえる古代魚。そのため、現在生息する魚の分類では似たものはいないらしい。そう聞くと、キャビアがものすごく貴重なものに思えてきた。

この鱗が蝶の形に似ていることから、チョウザメと呼ばれるようになったとか

チョウザメは気性もおとなしく、人なつっこいところがある。ためしに生け簀の上に立ってみると、エサを撒かなくともわらわらと足元に寄ってきた。大きな身体をしているが、なかなかかわいいところがある。エサを投げると、底に沈んだものを吸い込んで食べているように見えた。どうやら口が身体の底面についているようだ。

お願いして1匹持ち上げてもらうと、少しぬめりのある体表に前述の硬鱗がゴツゴツとついている。なかなか精悍な魚だ。そして裏返すと、見ての通りのエイリアン顔。思わず「うわっ」と声が出てしまった。

鎧を纏ったようなルックス。観賞魚にする人もいるそうだ
思ったよりも口は大きい。チョウザメの口中に鋭い歯はなく、喉ですりつぶしながら餌を食べるという

ここでは生け簀を移し変えながらチョウザメを育て、お腹から卵を取り出して塩漬けにするところまで一貫して作業をおこなっている。養殖場から加工、販売まで1箇所で手がけている事業者は国内でも珍しいそうだ。そうすることで鮮度を維持できるため、ここのキャビアは加熱処理をせず、塩分控えめの調理ができる。

一口試食させてもらったところ、イメージしていた「ぷちぷち」とした食感とは違い、舌の上でとろりと溶ける。それと同時に、口中にふわりと魚卵独特の旨味が広がっていく。キャビアには塩辛いものもあるが、ここのものはしっかりと卵を味わえる。

キャビアは真っ黒なイメージがあったが、よく見るとうっすら緑がかっている

興奮気味に感想を伝えると、「今の一口で大体700円くらいです」と言われ、一気に現実に引き戻された。そう、やはりキャビアは高級品。MSファームでも10グラム6480円の値がついている。そのため、現在のところ、一番の需要はふるさと納税の返礼品だそうだ。そのほか、贈答品としてネットで注文する人もいるとか。確かに、自分のために買うには勇気の要る値段ではある。

これまでもっとも印象に残っている食べ方をスタッフの方に聞くと、炊きたてご飯に高級な生卵を落とし、その上に一瓶まるごと(!)キャビアを乗せて食べた「キャビア卵がけご飯」だと教えてくれた。味はもちろん最高だったという。なんとも豪勢だが、生産者の彼も「一生に一度の贅沢です」と言っていた。聞けば聞くほど一度試してみたくなる食べ方だ。

贈答用に桐箱に入った商品も用意されている

MSファームはキャビアを販売するほか、地元の学校と連携して給食にオスのチョウザメの肉をフライにしたものを出すなど、地域に根ざした形でチョウザメ養殖をすすめている。今の目標は、新見市の名産品要素を詰め込んだ観光キャラクター「にーみん」にキャビアの要素を加えてもらうことだとか。


異なるかたちで新たな名産品を生む現場を取材して感じたのは、地域を変えていくのは「ちょっと変わったチャレンジ」なのかもしれないということだ。行政主導の取り組みは全国各地にあるが、似たような取り組みになりがちで、全国的に見れば埋没していくケースが多い。そんななか、今回取材したようなユニークな取り組みが地域の中で存在感を放つ様子は、やはり爽快だ。

information

domaine tetta
・住所:岡山県新見市哲多町矢戸3136
・TEL:0867-96-3658
・営業時間(カフェ):11:00~16:00
 ※ランチタイム 11:00~14:00
・定休日:月曜、火曜 ※祝日の場合は営業
 そのほか冬季休業あり
公式サイト

MSファーム
公式サイト
蝶鮫屋(オンラインストア)
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