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- 2019年08月30日 10:46
「表現の不自由展」あえて開催した津田大介氏を高く評価したい〜田原総一朗インタビュー

共同通信社
3日で中止になったからこそ「表現の自由」に注目が集まった

撮影:田野幸伸
ところが、展覧会が始まると、抗議や脅迫の電話が殺到。開催2日で、抗議の電話やメールが約1400件に達した。なかには「ガソリンの携行缶を持って行くぞ」と、京都アニメーションの放火事件を連想させるような脅迫もあった。その結果、3日目に中止が決定され、大きな問題になった。
企画展を見た名古屋市の河村たかし市長は「日本人の心を踏みにじるものだ。即刻中止にしてもらいたい」と発言し、展示の中止を求めた。政府の菅義偉官房長官も「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と述べ、補助金交付の見直しを示唆した。

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その一方で、「こういう企画展に抗議が殺到するのは予想できたのだから、主催者はもっと準備万端で備えるべきだった」という批判もある。「わずか3日でやめるのは腰が引けている」「こういう展覧会が今後開けなくなってしまう」という苦言もあった。
僕は、それらの批判はどれも的外れだと思っている。どんなに準備しても、こういう事態は起きるものだ。脅迫や抗議を強く意識しすぎると、結局はこんな「あぶない展覧会」が開けなくなってしまう。いろいろ忖度して、無難な番組ばかりになってしまった今のテレビがいい例だ。
今回、あいちトリエンナーレの津田大介・芸術監督や大村秀章・実行委員会会長(愛知県知事)は、抗議を予想しながら、あえて企画展を実施した。その姿勢をむしろ前向きに、高く評価したい。
表現の不自由展をめぐっては、大村知事と河村市長の間で「表現の自由の侵害ではないか」という論争も起きた。非常に面白い。大村知事が「憲法21条違反だ」と河村市長を批判したが、知事と市長が表現の自由をめぐって論争するなんて、これまでになかったことだ。

共同通信社
僕は、津田氏と大村氏に対して「3日で中止してしまって残念だ」とは言わない。その代わり、「3年後にまたやれ!」と言いたい。
僕は「朝まで生テレビ!」のスタッフに「波風を恐れるな」とよく言っている。炎上するならいいじゃないか、と。波風を恐れるのはジャーナリズムの劣化だから。今回は大きな波風が起きたが、それによって国民の多くが関心をもった。その点をプラスに捉えたい。
戦争を知っている最後の世代からすると、「表現の自由」は本当に重要な問題だ。津田氏に対して「芸術監督を辞任しろ」という声もあるが、負けずに頑張ってほしい。