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凶悪犯・麻原彰晃を持ち上げた実名リスト

1989年、坂本一家失踪事件により疑いの目が向けられたオウム真理教は、その世間の関心度の高さを利用して数多くのバラエティ番組に出演。逆に「好感度」を上げてしまう。特に罪深かったのは、若い世代に人気のあったチベット仏教の専門家だった――。

※本稿は、松井清人『異端者たちが時代をつくる』(プレジデント社)の第1章「『オウムの狂気』に挑んだ6年」の一部を再編集したものです。


オウム真理教 家族と信者ら13人とともにニューヨークから帰国したオウム真理教麻原彰晃教祖は、記者会見で坂本弁護士一家失踪事件との関与を否定=1989年12月4日、千葉・幕張メッセ - 写真=日刊スポーツ/アフロ

■罪深き文化人たち

坂本一家殺害事件(当時は、失踪事件)でオウム真理教に世間の関心が集まると、オウムはそれを巧みに利用した。あるワイドショーに麻原彰晃が生出演して潔白を主張すれば、別の番組では麻原の単独インタビューをタレ流す。さらに別の番組には、教団施設の内部を撮らせるといった具合だ。

報道は事件の本質を見失い、麻原夫妻に馴れ初めを語らせたり、「空中浮揚」や「水中クンバカ」など、麻原の超能力とやらを面白おかしく取り上げる。果てはビートたけしやとんねるずの番組に出演させるなど、バラエティータレントのような扱いに変質していく。オウムの潔白を印象づけるばかりか、何も知らない視聴者に「オウムって面白そうだ」というイメージを与えかねないハシャぎようだった。

テレビ局やタレントも無責任だったが、一部の宗教学者が、麻原を宗教的に優れていると評価し、オウムにお墨付きを与えたことはさらに罪深い。島田裕巳、吉本隆明、山折哲雄、栗本慎一郎といった学者諸氏だ。

とりわけ問題なのが、チベット仏教の専門家として、若い世代にも人気のある中沢新一氏だった。たとえば坂本事件発生直後、麻原が西ドイツのボンへ向かう前夜に、成田市内で対談。その内容は、『週刊SPA!』と『週刊ポスト』に掲載された。

■史上最悪の対談記事

『週刊SPA!』12月6日号では、

【中沢】例の弁護士さん一家失踪という不可解な事件のことです。これについて、本当のところをお聞かせ願えませんか。オウム真理教をいまの時期、弁護しなきゃならないという義務を感じているものですから(笑い)、その点だけハッキリしていないと、どうも腰のすわりが悪いのです。

【麻原】それについては、私たちのほうこそ、狐につままれたような気分なのです。先日の記者会見で説明しましたように、あの事件についてはオウム真理教はまったく関係がないとしか、言いようがないのですよ。(中略)たとえその人がいなくなったとしても「被害者の会」がなくなることもありません。だとすると、オウム真理教が(そんな事件を)やる意味は、まったく見当たらないのです

【中沢】では“尊師”は“先生”を前に、はっきり否定されるわけですね。

【麻原】はい。もちろん否定します。

【中沢】それなら“弁護士”としても気が楽になりますけどね。くどいようですけど、かりに若い連中が、麻原さんの気づかないところでやっちゃったということも、ないですよね(笑い)。

【麻原】もちろんですよ。

【中沢】管理不行き届きだったりして(笑い)。〉

1歳2カ月の子どもを含む一家3人が行方不明になっている切迫した事態を、この学者はどう受け止めていたのか。私は、これほど愚劣な対談を後にも先にも読んだことがない。

■「オウム真理教のどこが悪いのか」

『週刊ポスト』12月8日号は、中沢氏へのインタビューという体裁で、「オウム真理教のどこが悪いのか」というタイトルをつけている。

〈僕が実際に麻原さんに会った印象でも、彼はウソをついている人じゃないと思った。むしろいまの日本で宗教をやっている人の中で、稀にみる素直な人なんじゃないかな。子供みたいというか、恐ろしいほど捨て身な楽天家の印象ですね。〉

〈いま問題になっている横浜の弁護士失跡事件で、もし、万が一、オウム真理教の組織の末端が、家族ごと拉致するというバカな犯罪行為を犯していたとしたら、『困るんだなぁ』と麻原さん本人は無邪気に語ってましたけど、そうなるとオウム・バッシングは正義を得て致命的なものになってしまうでしょうね。これは、僕にとっても日本の社会にとっても非常に残念で、困ったことなんですよねェ。〉

一連の事件で麻原が逮捕されたあと、島田裕巳氏のように過ちを認め、自分なりに総括を行った学者もいる。だが中沢氏には、反省のかけらもないようだ。

■宗教家というよりも、革命家である

麻原の一審における弁護側最終弁論は、麻原が宗教家として高い評価を得ていた証拠として、『週刊プレイボーイ』に掲載された中沢氏のインタビュー記事を長々と引用している。

〈聖なる狂気(デヴァイン・マッドネス)という言葉を出したとたんに、あれほどすばやい反応と正確な理解をしめしたのは麻原さんがはじめてでした。この言葉は、宗教の本質に触れているものです。人間のなかには、社会の常識によって囲い込まれた、狭い枠を破っていこうとする衝動がひそんでいます。より高いもの、より純粋なもの、より自由なものに向かっていこうとする衝動です。その衝動を、現実の世界の中で実現しようとすれば、まずは社会の常識と衝突することになります。(中略)


松井 清人『異端者たちが時代をつくる』プレジデント社

麻原さんは、日本人の宗教に欠けているのは、そういう反逆のスピリットなのだ、と強調しました。そのときの麻原さんは、宗教家というよりも、革命家のような口調でしたが、私はそのとき、ああ、これで現代日本にもラジニーシ(インド生まれの宗教家。渡米し、世界規模で弟子を集めるが、国外退去を命じられる。90年、死亡)のようなタイプのラジカルな宗教家が、はじめて出現することになったのだな、この人はなにか新しいことをしでかす可能性を持った人かも知れないな、と思ったのです。〉

なんと『週刊プレイボーイ』の記事は、地下鉄サリン事件が起こってオウムに一斉捜査が行われ、5月16日に麻原自身が逮捕された直後の、95年5月30日号に掲載されている。

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松井 清人(まつい・きよんど)
文藝春秋 前社長
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、74年文藝春秋入社。『諸君!』『週刊文春』、月刊誌『文藝春秋』の編集長、第一編集局長などを経て、2013年に専務。14年社長に就任し、18年に退任した。
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(文藝春秋 前社長 松井 清人)

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