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なぜ大分・由布院は13年連続で「温泉日本一」か

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■リピート客が増えない原因「定番がない」

その課題は、例えば「魅力の深掘り」だ。冒頭の調査項目にあった「もう一度行ってみたい」温泉地では、由布院は6位とランクを下げた。これまで箱根温泉(神奈川県)、草津温泉(群馬県)に次ぐ3位が定位置だったが、そのブランドに陰りが出てきたのか。

由布院は2016年4月の「熊本地震」(熊本・大分地震)で被害を受けた。建物の損壊は一部を除いて軽微だったが、観光は大打撃を受け、予約キャンセルが殺到した。

3年たち、客足は戻った。由布市の調査による「平成30年観光動態調査」では、2018年に同市を訪れた観光客(日帰り+宿泊客)は442万1672人。対前年比114%となった。

「調査データの総数のうち、約9割が由布院温泉なので、由布院への観光客数は約400万人となっています。熊本・大分地震の前よりも多くの方が来られるようになりました」長年にわたり観光客と向き合う、由布市まちづくり観光局・事務局の生野(しょうの)敬嗣(けいじ)次長は、こう説明する。

観光客数が回復したのに、「もう一度行きたい」が下落した理由を各地で聞いてみた。関係者は懸念しつつ、冷静に受け止めていたのが印象的だった。

「由布院には『定番』がないのです。由布岳があり、温泉も多い。でも具体的な観光ルートは漠然としていた。それは私たちの訴求不足だったと反省し、JR由布院駅の隣に『由布市ツーリストインフォメーションセンター』を開設し、お客さまに対応しています」

観光協会・前会長の桑野氏はこう話す。生野氏も「訴求の工夫」を指摘していた。

■静けさ・緑・空間を守るための一工夫

由布院を訪れた観光客が多く歩く、JR由布院駅前から続く「湯の坪街道」は、週末や夏休み時期には人波で混雑する。通りの左右には土産物店や物販店が立ち並ぶ。

旧「湯布院町」は、世の中がバブル経済期だった1990年9月5日「潤いのある町づくり条例」を制定し、自然環境や景観、生活環境に配慮した建物や屋外広告物を規制した。その後の合併で「由布市湯布院町」となった現在も、規制を続けている。

だが、理想と掲げる「静けさ」と「混雑」は矛盾する。それでもやり方はあるだろう。
「地震直後は、こんな時期にお越しいただいた観光客の方に、関係者が大分川沿いを案内しました。少し前は取材に同行し、庄内町阿蘇野の『名水の滝』にも行きました。喧騒から離れたいと希望される方には、こうした場所も紹介したいのです」(生野氏)

激増したインバウンド(訪日外国人)への「マナー訴求」も続けてきた。以前は、公衆トイレの詰まりや、川へのゴミ捨てなどに悩まされたが、湯の坪街道のトイレに担当者を立たせて粘り強くマナー啓発を続けた結果、かなり改善されてきたという。

名水の滝 - 提供=由布市まちづくり観光局

■住民が幸せだからこそ「もう一度行きたい温泉地」になる

実は、由布院関係者が懸念する大型施設がある。あの「星野リゾート」が由布院の高台に進出するのだ。まだ開業していないが、建築計画をめぐっては、市の関係部署と綱引きがあり、総部屋数50室を45室で減らすことで決着したと聞く。

筆者は星野リゾートも何度か取材してきた。企業姿勢や取り組みには一定の評価をしているが、「米国型の星野リゾート」が「欧州型の由布院」に合うのだろうか。

中谷氏の言葉を借りれば、「“お婿さん”が来て、力を貸してくれるのはありがたい」が、「俺が婿だ、と声高に主張し“家訓らしきもの”を守れるのか」になるからだ。

一方で、由布院には「地者(じもの)も余所者(よそもの)も一体化」してきた歴史がある。この地を訪れて魅了され、定住して生活するようになった人も多いのだ。

「出会いを排除しない」という意識も、当地の哲学に残る。「まずは住む人が幸せであること」という生活型観光地が、観光客や観光業者を由布院ファンとして一体化できれば、「もう一度行ってみたい温泉地」として突き抜けた存在になるだろう。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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