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浮き彫りとなった日本の課題

ようやく年金財政検証が発表された。平成26年版の時と違うのが,世間がその内容についてようやく精査し始めたことだ。

元々,平成26年版のケースHでは,所得代替率が40%を割り込み,30%台に落ち込むことについて,度々警鐘を鳴らしてきた(「「年金では暮らせない」は、正直な事実。与野党共に国民に真実を告白すべき時が来ている。」)。

しかし,世間的にはあまり危機感をもって捉えられておらず,そのことについて触れるマスコミや政治家もおらず,逆に現在の60%の所得代替率で平均5万円貯金を取り崩していることについて今更ながらという感じで野党やマスコミが騒ぎ,また与党も麻生大臣を始めとしてこの問題と向き合うことを避けた。しかし,真の問題は,現在にあるのではない。経済成長が停滞し,今回の財政検証のケースⅣ~Ⅵのように所得代替率が5割を割り込む,特にケースⅥのように36~38%に落ち込むことがありうる未来だ。

今回ようやく,世間がそのことを認識し始めたことは「現実に向き合う」という点で良いことだし,今後年金受給年齢の引き上げによる給付水準の確保などの議論が本格化していくだろう(NewsWeek「厚労省「年金財政検証」発表 低所得者や高齢者の負担増には限界も」)。

ただし,与党は,不人気政策の典型である年金受給年齢引き上げ(ロシア・フランスでは大規模な抗議運動に発展した)や,保険料や政府負担分財源拡充のための増税という手段を提示しにくいだろうし,仮にそのような政策が提示されれば,ただでさえ負担と給付のトレードオフについての意識が薄い野党や,その支持層からは強い反発も予想される。

特に昨今は,負担無くして給付は最大と言わんばかりの夢のようなスローガンを掲げて生活困難層を煽るポピュリズム政党が誕生し,これが勢力を拡大する様相も呈している。そういったポピュリズム勢力は,年金制度というか年金水準維持のための負担拡大などが提唱されれば,ここぞとばかりに反対の声を強めるであろう。

だが,そうした政治的都合による未来を無視した政争の結果は,年金制度のなし崩し的崩壊に繋がる。手を打つのであれば早ければ早いほど良いのだが。

関連してあと2つほど。昨日,ある眼疾患の治療のため町の眼科医に訪れた。待合室はいつも白内障や緑内障など加齢に基づく慢性疾患の患者で一杯だ。すなわち高齢者で溢れている。最近,肩の痛みがあって,整形外科もリハビリのために訪れている。ここは患者層がもう少し若いがやはり中高年でいつも満員。私自身そうだが,加齢と共に慢性疾患がらみの医療にお世話になる機会が増えてしまっている。社会保障費中の医療費,特に後期高齢者医療制度の歳出が膨らんでいくことを実感させられた。

一方で,社会保障を支えるのは究極には,日本社会の法人あるいは個人の集合体である経済。しかしその経済は今後も低迷せざるを得ないであろうし,低迷を受け入れざるを得ない時期が来ているということも述べてきた(「経済成長の夢は終わりにして,持続可能な成熟社会の構築に政治目標を切り替えよう」)。

その理由は主としては人口オーナスであるが,創造的企業が現れないこともその理由の一つである。日本企業の存在感が極端に薄れてきているのは,フォーチュングローバル500社中,1995年は日本が149社を占めてアメリカの151社に肉薄していたものが,昨年度は僅か52社に激減した(「ランダムウォークの出来る日本に」)ことをみれば直ちに理解される。

日本が負け組に入りつつあることは明らかなのだが,世間の認識はこれを正面から認めようとしていない。そう思っていたところ,あのソフトバンクの孫正義氏が同様の発言をされている,否,もっと厳しい見方をされているのを知った。これもNewsWeekの記事「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」で紹介されていたところ。筆者は経済評論家の加谷珪一氏だが,その中でかつての松下電器の例を出され,日本は元々模倣大国に過ぎなかったとの手厳しい指摘もなされていた。

そう言われてみれば,日本企業の製品で独創性,あるいはユニークさを兼ね備えた大ヒット商品として記憶に残るのはソニーのウォークマンとトヨタのプリウスくらい。国として比較した場合,アメリカで雨後の筍のように相次ぐ独創的な製品開発とは雲泥の差があるのが正直なところだろう。独創性の欠如を「おもてなし」などの精神論や過剰サービスで補っているというのが現状だろう。

さて,何が言いたいかというと,「厳しい現実を見つめ,そこから立ち上がろう」ということ。

社会保障でいえば,実績に基づくある程度正確な将来予測があるのだから,後は国民に率直にこれを提示して,どの道を選ぶのか,選択してもらうのが正しい道。間違ってもこれを党利党略に利用してはならない。

経済でいえば,日本の実力に対する過剰な自己評価を剥ぎ落とし,その実力に沿った「維持可能社会」に目標を切り替えていくこと。

日本社会の最大の利点である「勤勉さと誠実さ」。これが失われている訳ではないのだから,無理な発展を無理な財政政策で誘導しようとするのではなく,身の丈にあった質実剛健な道を目指すべきなのだ。

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