- 2019年08月27日 06:15
氷河期100万人支援に見る、政府の真の狙い
2/2政府が氷河期世代を支援する本当の理由
そもそも政府がなぜ就職氷河期世代の支援に乗り出したのか。最初に政府の経済財政諮問会議が提起し、閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」(6月21日)に氷河期世代の対策が盛り込まれた。基本方針では「人口減少や少子高齢化の急速な進展は、我が国の経済が直面する最大の壁となっている」という認識を示し、「内需の喚起に資する所得の向上を図り、成長と分配の好循環を継続・拡大させるため、経済成長率の引き上げや生産性の底上げを図りつつ、就職氷河期世代の人々への支援を行うとともに最低賃金の上昇を実現する」としている。
いわゆるアベノミクスによる経済活性化の一つの担い手として氷河期世代を当てにしている節もうかがえる。それを何となくにおわせているのが今回の政策のベースとなる「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」である。対策の柱として都道府県ごとで構成するプラットフォームをつくることにしているが、その構成メンバーに都道府県、市町村、経済団体などと並んで「人手不足業界団体」が登場する。
助成金を出しても政府の懐は痛まない仕組み
経済団体以外にあえて「人手不足業界団体」を入れたところに政府の真意が透けて見える。そして「(人手不足)業界団体等と連携し、短期間で取得でき、安定就労に有効な資格等の習得を支援」という名のプログラムが登場し、「建設」「運輸」「農業」などの業界団体を通じて正社員に転換するスキームが描かれている。
たとえば厚生労働省が委託した建設業の団体が短期の訓練を経て、各企業で半日~3日間程度の職場見学・職場体験後に正社員として就職するという流れになっている。これは前述した助成金支給による正社員化支援策と同じものだ。
つまり政府は助成金を使って氷河期世代を人手不足業種に誘導し、業界の人材不足を補おうとしているようにも見える。しかも助成金の原資は働く人たちが拠出する雇用保険料である。税金ではないので政府の懐は痛まないし、人手不足業界も助成金をもらったうえに人材不足解消にもつながる。
人手不足な職場に氷河期世代が定着するか
もちろん、それで氷河期世代がちゃんと就職し、雇用と処遇が安定するならば結構なことであるが、はたして本当にうまくいくのだろうか。
人手不足が深刻な職場は、きつく、また給料が見合わないことが多く、だからこそ人材が集まらないともいえる。そういうところに正社員になりたいのに不本意ながら非正規雇用で働く人や長期無業者が働きたいと思うだろうか。彼ら・彼女らにとっては正社員にはなりたいが、できればやりたい仕事で正社員になりたいと思っているのではないか。長期無業者の中にはいったん就職したが、職場で理不尽な扱いを受けたことで継続就労を諦めた人もいるだろう。そういう人たちが誰もが敬遠する人手不足業種にあえて就職したいと思うようになるとは考えにくい。
職場の改革なしに送り込むだけにならないか
また、今回の氷河期世代支援対策では、半年間勤務していれば最大40万円の助成金が支給されるが、悪質な業者の中には助成金をもらって酷使し、半年後にポイ捨てにするブラック企業も現れないとも限らない。そうなるとますます働く意欲を失ってしまいかねない。
こうした人手不足業界は、今年4月に施行された「特定技能」の外国人労働者の受け入れ業種でもある。受け入れ後の処遇など体制の不備がさまざま指摘されているが、これは氷河期世代も変わらない。だが、就職後のフォローなどの対策はとくに講じられていない。
今回の就職氷河期世代支援プログラムは基本的に民間任せになっているが、最終的に絵に描いた餅に終わらないとも限らないのである。
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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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