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「指定弁護士」が生む副作用

 小沢一郎・民主党元代表をめぐる裁判で、注目されることになった「指定弁護士」という存在について、ある違和感を指摘する声を、メディアを通して耳にします。端的にいって、それは弁護士が訴追する側に回っていることによるものです。もちろん、それは「改革」によって作りたされた検察審査会の強制起訴という制度で、弁護士が一つの役割を担うことになっていること、そのものが、依然、十分に周知されていない、ということはあります。

 しかし一方で、この違和感は、基本的にこの役回りが、およそ大衆のなかにある弁護士のイメージ、罪を追及する側と対峙し、被告人の立場で正当な権利・利益を擁護して有利になる事情を主張・立証する姿と、大きく異なっていることに起因していることは確かです。なぜ、弁護士がここで検察官役をやらなければならないのか、むしろ、弁護士がやるべきことではないのではないか、といったニュアンスを口にするラジオ・パーソナリティもいました。

 とりわけ、小沢氏を無罪とした東京地裁判決に対する、指定弁護士による5月9日の控訴は、そうした大衆の違和感をさらに強めるものになったようにみえます。

  「弁護士の感覚からすれば、一審であれだけ審理をして無罪になった場合、その人をさらに被告にして裁判を続けることには、大変な違和感がある」

 控訴を受けて、小沢氏の主任弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は、記者会見でこう指定弁護士を批判したと報じられていますが(5月10日付け朝日新聞朝刊)、同じ弁護士が持つこの違和感は、少なからず大衆にも伝わっているとみることもできます。

 そもそも検察審査会との関係で、指定弁護士がどういう正統性をもって、控訴しているのかが分からない、あるいは控訴を認めるべきではない、という意見があります。彼らの独自の見通しで、できることなのか。会見で指定弁護士側は、「職責として、100%の有罪を見込めない限り控訴するべきではない、とはならなかった」と語っていますが(前出「朝日」朝刊)、役割上、「疑わしきは裁判へ」で起こされた強制起訴の趣旨からすれば、この控訴はあっていい、と言っているように聞こえます。それは、およそ彼ら自身、弘中弁護士の指摘通り、弁護士としては、あり得ないはずのものを、役割を演じるがゆえに成立させているかのようにもとれてしまいます。

 実は、この強制起訴という局面で、検察官役を弁護士が務めることに対しては、弁護士会側が制度構想の段階で、慎重な姿勢であったことをうかがわせる事実があります。検察審改革が取り上げられた2001年4月10日、司法制度改革審議会第55回会議で、委員である井上正仁・東京大学法学部教授と浦功・日弁連刑事弁護センター委員長(当時)の間で、こんなやりとりがなされています。

 井上委員「私は日弁連のペーパーを拝見して、ちょっと意外だと思ったのは、訴訟追行のところです。指定弁護士とされるのかと思っていたら、職権濫用事件等を除いて検察官がやるべきだということになっているわけですが、その理由がよく分からない。弁護士さんがやるのは負担だということなのでしょうか。年7件くらいだと、そんなに負担ではないと思うのですけれども」
 浦委員長「一つは、職権濫用罪というふうなものであれば、問題なく弁護士が訴訟を追行することが可能なのでしょうけれども、検察審査会を経て起訴される事案というのは、業務上過失致死罪といった一般事件が中心になっておる可能性もありますので、それを弁護士が訴訟を追行するのはいかがなものかという議論もございました。ただ、これも先ほど申しましたように、現在なお検討しておるところでありまして、むしろもう起訴相当事案については弁護士が訴訟の追行をするというふうなことでもいいのではないかという意見も出ておりますので、この点は今、検討中ということで御理解いただきたいと思います」
 井上委員「その『いかがなものか』ということの中身は何なのですか」
 浦委員長「弁護士の被疑者・被告人を弁護するという立場もございますので、それからするとなかなか難しいのではないかという議論は当時ございました」

 当時、この問題について、法務省は付審判請求事件で裁判所指定の指定弁護士が裁判の確定まで公判維持・論告求刑等を行う検察官役を務めている形にならうことが念頭にあったとみられるのに対し、最高裁と日弁連は、基本的には公訴権者である検察官が訴追を担当するのが本来の在り方との立場で、ただ例外的に日弁連は付審判請求手続(準起訴手続)との整合性をとって、公務員の職権乱用など準起訴手続対象事件だけ、弁護士が検察官役をやる、という考え方だったのです。

 その日弁連の姿勢を「意外だ」として、井上委員が突っ込んでいるわけですが、浦委員長の言からは、弁護士の検察官役に日弁連内の異論があったことがうかがえます。結局、現行の形になるわけですが、それは、あくまで起訴しないという判断を変えなかった検察に、公判を担当させることによる公正な審理への影響回避と、検察側からすれば、起訴や公訴遂行を民意で強制されて検察が担う形にはしないという発想が、ともに重視された格好です。

 要するに、この「指定弁護士」という形に、前記したような副作用があることにも、弁護士は気が付いていたということができます。ある意味、検察審改革という裁判員時代の「司法へ民意」の流れのなかで、検察官役弁護士の登場もあったといえるわけですが、それが弁護士の社会的なイメージにどう影響するのかは、「改革」論議のツケの一つとして、今後、見ていかなければならなくなるかもしれません。

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