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「地下鉄サリン事件」神奈川県警に重大疑惑

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■千慮の一失

岡崎は、自分が手紙を投函したこと、麻原から金を受け取ったことは認めたものの、頑として坂本事件への関与を否定。こう言ってはぐらかした。

〈「教祖に金を無心したところ、教団には選挙の自由妨害や住民票の不正移動で警察の捜査が入るおそれがあるので、その矛先をそらすため、子どもの遺体でも何でもいいからウソの投書をして、捜査を攪乱してくれ。そうしたら金を出すと言われた」〉(『オウム法廷』④)

この供述を、捜査員は信用してしまう。しばらくして、横浜法律事務所に神奈川県警から連絡が入る。

「例の手紙ですが、差出人がわかりました。悪質ないたずらだと、厳しく説教しておきましたから」

千慮の一失。

連絡を受けた弁護士は、いたずらの主が誰なのか聞き返さなかった。

3人の遺体が見つかったのは、6年近くあとのこと。地下鉄サリン事件をきっかけに、オウム真理教に対して大規模な強制捜査が行われ、岡崎がようやく自供を始めてからだ。

龍彦ちゃんの遺体は、地図が示した場所のすぐ近くから発見された。地図が正確なのも当然で、岡崎は、そこに龍彦ちゃんを埋めた張本人だったからだ。しかも手紙を送るに際し、山口県宇部市から長野県大町市の現場を再度訪れて確かめ、ビデオや写真まで撮っていたことも明らかになる。

■神奈川県警の最大の手抜かり

雪の中の捜索が時間をかけて丹念に行われていたら、神奈川県警の捜査員が岡崎を厳しく尋問していたら、もっと早く見つけることができたに違いない。江川さんは、この手紙の処理を、初動捜査における神奈川県警の「最大の手抜かりだった」と、著書に記している。

その江川さん自身も悔やんでいた。あとになって、私にこう述懐したことがある。

「ひたすら坂本さん一家の生存を願っていたから、手紙はいたずらであってほしいという思いがありました。私にも、同僚の弁護士たちにも。警察の捜索はたしかに物足りなかったけど、見つからなくてホッとしたのも事実。いたずらでよかったという、気持ちのゆるみがあったんですね」

松井 清人『異端者たちが時代をつくる』プレジデント社

手紙の一件に限らず、捜査本部の初動捜査は滅茶苦茶だった。

坂本事件の発生直後に、神奈川県警が真剣に捜査に取り組んでいれば、間違いなくもっと早期に解決していただろう。すべての証拠が、オウムの犯行を示唆していたからだ。

そして、坂本事件で麻原教祖を検挙していれば、その後の教団の拡大や武装化を防ぐこともできた。松本サリン事件や地下鉄サリン事件は起こらずに済み、多くの人命や、数え切れない人々の平穏な生活が失われずに済んだ。龍彦ちゃんの捜索を半日で打ち切るなど、まったくやる気のない神奈川県警の姿勢を目の当たりにし、自分の身辺に捜査は及ぶまいと甘く見たからこそ、麻原彰晃は際限なく増長していったのだ。

神奈川県警の罪は、あまりにも重い。

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松井 清人(まつい・きよんど)
文藝春秋 前社長
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、74年文藝春秋入社。『諸君!』『週刊文春』、月刊誌『文藝春秋』の編集長、第一編集局長などを経て、2013年に専務。14年社長に就任し、18年に退任した。
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(文藝春秋 前社長 松井 清人)

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