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夢洲IR、大阪は何を間違ったのか

さて、横浜市のIR誘致表明によって早くも大手カジノ事業者の大阪離脱が始まっています。先週のエントリにも書いた通り、この動きは私としては完全に予想をしていたもの。

本ブログの読者の方々はご承知のとおりですが、元々私は大阪のIR誘致に関して「大阪は良いけど夢洲はNG」というコメントをし続けて来ました。本日のエントリでは、夢洲IR構想のどこがカジノ事業者の評価を下げているのか、それを改めてまとめてみたいと思います。

1. 開発用地が広大すぎる

実は我が国でのIR整備の形式が明確に定まる以前、元々大阪府/市は夢洲のIR用地に対して複数のカジノ運営ライセンスを付与し、複数社に競争させて区域を開発させる前提で構想を立てていました。ところがその後、国側は「1区域に1ライセンス」という方針を明確に出してしまったわけで、大阪のこの当初の目論見が崩れてしまったことから問題は始まります。

その後、大阪府/市は元々、別所での開催を軸に検討を進めていた大阪万博の開催地を急遽、夢洲に変更。国側のIR設置方針が「1区域に1ライセンス」となって帳尻の合わなくなった夢洲開発の空白区域の穴埋めを始めます。ところが、それでも実はまだIR整備用に残された面積はかなり広く残されており、現状で390万平米の夢洲用地のうち50万平米がIR予定地とされています。

現在、夢洲で指定されている50万平米の用地ですが、単一開発としては現在世界最大の統合型リゾートであるベネチアンマカオの敷地面積が30万平米ですから、その1.6倍という非常に広大な敷地面積。結果、大阪府/市がこの区域に求めるIR開発規模が9,300億円などと大幅に膨れ上がっているわけです。ただ、このように「敷地を埋める為」に開発面積から逆試算された開発金額はハッキリ言って大阪のマーケットに対してはスペックオーバー過ぎる状況となっているのが実態。府/市が希望しているような要件で開発を行ってしまうと、過剰投資になり確実に投資収益性が下がります。

対して、例えば今回IRの本格誘致を宣言した横浜市がIR予定地とする山下ふ頭ですが、ふ頭全域の全体面積が47万平米、この時点で既に夢洲のIR用地よりも小さいですが、横浜市はこの区域に統合型リゾートのみならず交通ターミナルや客船ゾーン、緑地などを複合的に開発する予定としており、統合型リゾート用には自ずともう少しコンパクトな敷地が指定されることとなります。投資効率から考えると、当然ながら需要の大きな地域に(相対的に)コンパクトな開発を行った方が優位に決まっているわけで、無理に広大な敷地を「埋める」ことを求められる大阪よりも横浜が優位と考える事業者が出てきても不思議はないでしょう。

2. 交通アクセスが悪い

夢洲IR構想の抱える2つ目の難点が交通アクセスです。関西地域への国際旅客の玄関口は関西国際空港ですが、同じ大阪府内とはいえ空港は夢洲から逆サイドの東の端っこ、空港から鉄道で1時間弱、バスを使っても50分と必ずしも夢洲は空港からのアクセスが良いとは言えません。この点、横浜市がIR候補地として予定している山下ふ頭は羽田空港まで鉄道で約30分、バスで約20分と半分程度、もしくはそれ以下の時間で到達が可能です。IRを「国際観光拠点」として考えた場合、この時点で既に夢洲は不利な立地にあるといえます。

また実は近隣市街地へのアクセスの面でも、山下公園を挟んで徒歩圏内に元町や中華街など主要な観光拠点を抱える山下ふ頭と比べて、現時点では文字通り孤島となっている夢洲は圧倒的に観光開発上で不利です。ただ、この点は2025年の万博開催によって夢洲側の周辺環境が大きく変わる可能性があるので、今回の検討からはひとまず差し引いておこうと思います。

3. 開発タイムラインが厳しい

上記で「差し引いておく」とした2025年に同じく夢洲で開催される大阪万博ですが、残念ながら実は開発タイムライン上は「差し引く」ことの出来ない問題を生んでいます。大阪府/市は、現在、何としても大阪万博の開催前までに大阪IRを開業させようと躍起になっていますが、これから国側で最速でIR開発事業者の決定が行われたとしても2024年完成を前提とすると開発期間が3年半あまり。9300億円の投資を期待するプロジェクトに対する開発期間としては、圧倒的に開発期間が足りません。

となると、選択肢は2つ。ひとつは短期開発で開業できるように建設工事をスピードアップさせることですが、その為には同規模の開発に対して多額の資金を投入するという「現金ブースト」が必要で、プロジェクトの投資回収効率を大きく減損させます。事業者側は当然ながらそんなことはやりたくない。

もう一方の選択肢が、工期を二つにわけて2024年までに一部開業、万博が終わった後に工事を再開してその1~2年後にフル開業させるという「段階開業」の形式をとる事です。IR整備法は日本のIR施設の段階開業は認めているのでこの手法を採用することは可能ですが、問題となるのは同法はこの様な手法を取った場合、カジノの営業は全ての付帯設備が開業した後でなければ認めないとしていること。すなわち、先行開業という選択肢を取る場合、万博開催前からフルオープンまでの長い期間を「カジノがない状態でIRを維持しなければならない」事となり、これまた事業者の投資回収効率を大きく減損させることとなります。(詳細解説は以前したことが有るのでそちら参照

4. 不要な負担金の存在

そして最後の課題が、大阪府/市が夢洲のIR開発業者に求めている「負担金」の存在です。現在、道路でのアクセスしかない夢洲を観光拠点として開発する為には、空港および大阪市街地を結ぶ鉄道の敷設が不可欠です。この鉄道敷設は2025年に同じく夢洲で開催される大阪万博の開催の為にも必須なものであり、大阪府/市はその総コストを540億円と見込んでいます。そして、そのうち202億円を「受益者負担」の名目で夢洲IRの開発業者に負担させるのが行政側の思惑なのは既知のとおりであります。

この200億円あまりの負担金は、現時点では大阪湾に浮かぶ孤島であり、交通アクセスの乏しい夢洲をIR開発地域として選んだ大阪特有の負担金であり、他地域では(少なくとも現状では)見られないもの。IR事業者からしてみると収益を直接生むわけではないコストを単純に「負わされる」だけのものであり、事業者の投資回収をシンプルに「マイナス200億」でスタートさせるものとなります。当然ながら歓迎されるわけがありません。



勿論、上記のような様々な不都合があったとしても、夢洲進出を希望する事業者がゼロになるということはないでしょう。一方で、このような様々な問題はIR事業者の投資意欲を減退させ、何よりも彼らの資金調達を不利にし、最終的には入札において各事業者が提示する開発規模の大小に影響を与えるもの。今のような状況で、大阪府/市が希望していたような9300億円などという開発投資が事業者側から出てくるのかというと、非常に悩ましい状況であるとしか言い様がないでしょう。

このような夢洲がIR候補地として根源的に抱える問題点というのは、私自身はこれまで何度も繰り返し申し上げてきたことではあり、ナンダカナアという思いも強いのが正直なところ。一方で、実は大阪の政治界隈の方々からは、かつての失敗した大阪オリンピック誘致の「負の遺産」として地域が背負い続けて来た夢洲を、このまま放置することが出来ないのもまた事実であるという話は聞かされ続けており、どんなに課題があろうとも「政治的には」夢洲を候補地として選ぶしかなかったのだろうなあ、とは思っています。

私としては大阪IR誘致の最大の不幸は、「夢洲」という大阪が長きに亘って背負い続けてきた「十字架」の上に、IRという新しい構想を立てざるを得なかった「大阪の港湾開発の歴史」そのものにあるのかもしれないな、などと思っておる所。夢洲IRの今後の健闘を祈ります。

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