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廃炉プロジェクトを統括する若きエンジニア - 稲泉 連 (ノンフィクション作家)

本記事掲載のWedge5月号『創刊30周年記念インタビュー「新時代に挑む30人」』では、「ホンダジェット」の生みの親・藤野道格氏 やラグビー日本代表・リーチ・マイケル氏、USJ復活の立役者でマーケターの森岡毅氏、大峯千日回峰行を満行した大阿闍梨・塩沼亮潤氏など様々な分野で令和の時代を牽引していく30人にインタビューを行いました。

原子力プラントの建設に携わりたくて転職した若きエンジニアは、3.11を機に原発の廃炉プロジェクトに配属された。未知なるデブリと格闘するリーダーの覚悟とは。


中原 貴之(なかはら・たかゆき):1981年生まれ。2006年、横浜国立大学大学院修士課程修了。化学系エンジニアリング会社を経て、2008年に東芝入社。東日本大震災直後の11年3月から東京電力福島第一原発の廃炉プロジェクトに携わる。
(写真・井上智幸)


今年2月13日、廃炉作業が続く福島第一原子力発電所で、2号機の原子炉格納容器の底に溶け落ちた「燃料デブリ」の調査が行われた。今回の調査が注目を浴びたのは、遠隔操作ロボットのトングで堆積物を実際につかみ、動くかどうかを調べるというものだったからだ。そして、この調査プロジェクトの全体を統括したのが、東芝のエンジニアである中原貴之だった。

「格納容器の中にある『もの』を積極的に触りにいったという意味で、今回の調査は大きな前進だったと思っています」と彼は言う。

調査の開始は午前7時。事前に開けた格納容器に通じる細い穴から、調査用ロボットをゆっくりと挿入した。その日、免震重要棟に隣接する旧事務本館内にある遠隔操作室で、中原は関係者とともに固唾(かたず)を飲んでモニターを見つめていた。しばらくしてトング型のアームが小石に似た堆積物をつかむと、周囲から「おお、動く動く」と声があがった。

「その様子を見たときは、『ここまでできるようになったのか』という感慨が湧いてきました」


今年2月に行われた福島第一原発2号機のデブリ調査の現場本部の様子。ロボットで堆積物をつかむことができ、大きな一歩を踏み出した
(写真・TOKYO ELECTRICPOWERCOMPANY HOLDINGS,INC.)


中原がそうした感慨を抱いたのは、彼が事故当初から福島第一原発の現場などで働き、廃炉作業にとって欠かせない内部調査を初回から担当してきたからだ。

1981年の生まれの彼は大学院を卒業後、一度はエンジニアリング会社に就職した。原発プラントの建設に携わりたいという思いをもともと持っており、2年後に東芝へ転職。間もなく震災が起こった。以来、事故の初動対応から廃炉作業に携わり続け、当初は作業員とともに建屋に溜まった汚染水を輸送するホースの設置なども行っている。事故後の初めての内部調査は2012年1月、前年にその担当者に任命されたときはまだ30歳になったばかりだった。

「もし8年前に今回のような調査をやれと言われたら、僕は『できない』と思ったかもしれません」

実際、7年前の初めての内部調査を振り出しに、廃炉の現場での仕事は全てがほぼ手探りの状態で始まるものだった。例えば17年2月の調査では、ロボットが格納容器内までたどり着くことができなかった。対して次に行った18年1月の調査では、あらたに開発した釣り竿型のカメラ付きロボットで、格納容器内の撮影に成功した。そうした試行錯誤の8年間の中で、中原はこう感じるようになったと語る。

「いまはどんな課題に対しても、『よし、やってやろう』と思えるようになりました。当時は現実的ではないと思えた調査も、一つひとつの経験を積み重ねることで可能にしてきたという実感があるからです」

そう語る彼には、一人のエンジニアとして理想とする像がある。それは前の会社にいた際に出会った、次のような先輩の姿だという。

「当時、僕はある工場で自家発電設備の運転保守をする仕事をしていました。そのとき、頼りにしていた年配の先輩がいたんです。彼はその設備の隅々まで知り尽くしていて、ちょっとした疑問にも『それは〇〇のバルブを少し締めればいい』と解決策を示してくれた」

あるとき中原はその先輩に対して、「どうしてそんな細かいところまで知っているんですか」と聞いた。すると、彼はこう言って笑った。ずっとこの仕事をやっとるからなァ、と。

「その様子がとてもかっこよくて。僕もこの仕事をやっていく以上は誰よりも現場に詳しくなって、書類に残らない経験や勘所を次の世代に伝えられる存在になりたいんです」

中原が入社した直後から、東芝は原子力事業の頓挫や相次ぐ不正会計の発覚などの不祥事に揺れてきた。その渦中で働いてきた彼には、「会社の評判が決して良くないからこそ、世の中に胸を張れるような仕事をしていきたい」という気持ちもある。

「『廃炉』というのはその名の通り、後ろ向きのイメージがある仕事です。でも、後ろ向きの仕事だからこそ、現場にいる自分たちは前向きでなければならないと思うんです。そうでなければ前に進めないからです。廃炉の現場には常に難しい課題があって、何をするにしても世界で初めてという仕事。それを自分にとっての貴重な機会だと捉えながら、今後も目の前の課題に取り組んでいきたいです」

現在発売中のWedge5月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。


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