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特集:「日本化」する世界経済の総点検

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残暑お見舞い申し上げます。雨続きの7月が終わったら、8月は連日えらい暑さ。ところがお盆を過ぎると、今週の首都圏は雨続きです。近年ではほとんど慣れっこになっているとはいえ、毎年のように変な天気が続くものです。

ところが世界経済と金融市場もこの夏は大荒れです。リスク要因を指折り数えると、たちまち両手が塞がってしまうほど。そして世界各国の金利低下は驚くほどで、「世界経済の日本化」がいよいよ現実味を帯びてきました。いったい何が起きているのか、どこをどう心配すればいいのか、そしてどんな処方箋が考えられるのか。

「夏休みモード」の頭を、急いで平常運転に切り替える必要がありそうです。

●「強気のハイマン氏」を悩ませる懸念材料

ニューヨークの人気エコノミスト、エド・ハイマン氏の「Evercore ISIウィークリー・レポート」は、昔の義理で今でも送ってもらっている1。米国経済を定点観測するのに、これほど適した材料はないだろう。ここ10年くらいのハイマン氏は、「万年強気」のメッセージを送ってきた。その結果、ずっと予想は的中してきた。

現在の米国経済は、2009年6月をボトムとする息の長い回復局面にある。過去最長は1991年3月から2001年3月までの120か月間であったから、この夏に腰折れしていなければ今年7月で121カ月目となり、景気拡大期間が最長記録を更新した公算が高い。ただし米国の景気の山谷は、民間エコノミスト機関であるNBERが事後的に判断するので、史上最長を更新したかどうかはもう少し先になってみないとわからない。この辺の事情は、日本経済とそっくりである。

ハイマン氏の見立てによれば、2012年と16年に2度のミニ・リセッションがあったために、景気拡大が長持ちしている。現在は3度目の調整期間と考えられ、本格的な景気後退局面ではない。この間に株価はダウ平均で2009年3月の底値6000ドル台から、現在は4倍以上の2万6000ドル台になっているのだから、経済レポートとしては大成功である。

そのハイマン氏も、今月に入ってからの市場の激変にはさすがに動揺を隠せない。最新の8月19日号では、
「今は何かが明らかにおかしいが、正常化されるだろう」
と述べている。その上で、米国経済にとってのリスクとして以下の点を挙げている。

1. 軟調な中国経済
2. 貿易戦争
3. 逆イールドカーブ
4. 香港のデモ
5. Brexit
6. アルゼンチン
7. 世界的な経済の鈍化
8. 日本の消費税引き上げ(今年10月)
9. 2020年米大統領選への懸念

ハイマン氏の思考に慣れ親しんだ者としては、1~9の序列が興味深い。おそらくはこの順序通りに重視しているのであろう。以下、簡単にコメントしておく。

中国経済の成長鈍化こそが目下最大の懸念材料である。これがもっとも正体が把握しがたく、なおかつ中長期的な影響が大である。

② 貿易戦争は、少なくとも年内は解決が困難であろう。

③ 10年債利回りが1%台に低下し、政策金利や3カ月物利回りを下回った。過去のパターンから行って、逆イールドカーブは米国経済が景気後退に入る前兆との見方がある。ただしハイマン氏によれば、
「まだ2か月そうなっただけで、8か月継続しないとリセッションシグナルとは言えない」
とのこと。

④ 香港で6月から続いているデモは「究極の地政学リスク」。ひょっとすると「第2の天安門事件」を招くもしれない(「今週のThe Economist誌」も参照のこと)。

⑤ 新たに発足したボリス・ジョンソン政権の下では、10月31日に英国がNo Deal Brexitに至る確率はかなり高いと見るべきだろう。

⑥ G20国のアルゼンチンでは、左派政権誕生の可能性を嫌気して通貨ペソが急落し、IMFの助けを仰ぐことになった。もっともこれはよくある事態。今週になって表面化したG7国、イタリアの政局不安の方がさらに深刻だろう。

さらに今後の展開次第では、「ホルムズ海峡危機」や「日韓対立」なども新たな懸念材料となるかもしれない。なお蛇足ながら、筆者が今ハイマン氏に会ったとしたら、「こんなときに消費増税を実施する日本は、おかしいんじゃないの?(ウチは関係ないからいいけどさ!)」と言われそうな気がしている。さて、何と答えればいいのだろう?

●低金利は世界の呪縛か福音か

世界経済の変調は、何と言っても金利の急低下に表れている。以下はThe Economist誌巻末の経済指標ページから抜き出したもの。世界の主要経済圏の長期金利は、今やこんなに低下しているのである。


長く超低金利に慣れ親しんだ日本にいると実感がわきにくいが、以下のような「新常識」を確認しておきたい。

* 中国も3%割れ。かつては代表的高金利通貨であった豪州も1%割れ
日本とユーロ圏はマイナス金利に
米、加、豪は1年前に比べて1%(100bp)以上も低下
* 財政赤字の規模はほとんど影響していないように見える
* 米国で利下げが行われた7月末から急低下している。

もちろん世界から高金利国がなくなったわけではない。トルコ(15.0%)、アルゼンチン(11.3%)、ロシア(7.4%)など、あいかわらずの世界もある。しかし財政問題で騒がれたギリシャが2.1%だとか、イタリアは1.5%で今週、コンテ首相の辞任報道があるとむしろ国債が買われた、などと聞くと、しみじみ過去の常識は通用しないようだ。

さらにデータを細かく見ていくと、今やマイナス金利の国はめずらしい存在ではなくなった。日本(▲0.3%)を超える国としては、スウェーデン、オーストリア(▲0.4%)、オランダ(▲0.5%)、デンマーク(▲0.6%)、ドイツ(▲0.7%)、スイス(▲1.0%)などがある。少なからぬ国が日本に追いつき、あるいは追い抜いてしまっている。

ここでハタと気が付くのは、7月に「米利下げで円高が進む」という予測が多かったわりには、8月になってもさほど円高が進んでいない理由である。以前であれば、低利の円を調達して高金利通貨に投資する「円キャリートレード」が盛んであった。だから金利差が縮小すると、解消売りで円が買い戻された。しかし、今や何も円にこだわる理由はない。ほかにも選択肢があるのだから、円はそれだけ目立たない通貨になってしまった。さらに買うべき高金利通貨も少ない。だから金利差が縮小しても、円が買われない。世界経済が日本化(Japanization)したら、円がステルス化した、と考えるとまことに皮肉な話である。

世界的な金利低下の契機となったのは、7月FOMCにおける10年ぶりの利下げであろう。トランプ大統領は0.25%の利下げに満足せず、「もっと利下げを」「そうすれば米国経済はさらに良くなって中国との戦いに勝てる」と連銀批判のツィートを繰り返している。

たしかに利上げは、少し早かったかもしれない。ゼロ金利を脱したのは2015年12月のこと。それから3年半の間に連銀は都合9回の利上げを実施し、FFレートはようやく2.25~2.50%になったところ。しかし長期金利との見合いで行けば、それでも早過ぎたし、高過ぎたということになる。

とはいえ、世界的な長期金利の低下は「将来への自信のなさ」の表れであろう。トランプ大統領の思惑とは別に、「利下げが行われるほど、世界経済は自信を失っていく」のではないか。それはかつての日本経済の姿にも重なってくる。

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