- 2019年08月25日 10:13
大量殺人犯の心に巣食う10の特性――テロリストと一般人は何が違うか 1
2/2(3)「日の当たる場所」を求める独立心
虐待ではなく親からの干渉が強すぎることも、テロリストの誕生でしばしば見受けられる。
幼少期に親の干渉が強い場合、自尊心が傷つけられた反動で、自分自身で決定することへの欲求が強くなりやすい。精神分析学者のマックスウェル・テイラーとエセル・ケイルは、親からの抑圧を強く意識した者が、社会的な抑圧に敏感に反応して政治的暴力に向かいやすくなると指摘した。これは「日の当たる場所」を求める心理と呼ばれる。
ここで重要なのは、「やってはいけないこと」の代表格である暴力に「自己決定で」向かうことが、自分自身の確立につながるという心理メカニズムだ。ロシア文学の傑作、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は父親殺しをテーマにするが、その舞台はテロの嵐が吹き荒れる帝政ロシア末期で、ここには皇帝による専制支配と家父長制のそれぞれに対する拒絶がオーバーラップする。
これは現代テロリストの代表格オサマ・ビン・ラディンに関してもうかがえる。2018年に初めてメディアのインタビューに応じたビン・ラディンの母親は「オサマは良い子だった」「つき合った人間がよくなかった」と繰り返したが、これに対して弟は冷静に「母親はオサマのいい面しかみていない」と指摘している。
「日の当たる場所」の観点からこの証言をみれば、息子を溺愛し、成人後もその交友関係に逐一口を出していた母親の「重荷」が、ビン・ラディンというモンスターを生む一因になったとも考えられる。
【参考記事】「ビン・ラディン息子の死亡」報道で浮かぶアメリカとアルカイダの共通点
(4)他人のせいにしたがる幼児性
やはり成長過程のトラウマなどによって生まれやすいパラノイアも、テロリストにしばしば見受けられる。パラノイアは他者への不安や恐怖が強く、自分が常に外部の悪意にさらされていると考えやすい傾向があり、偏執病と呼ばれる。
その典型として、2011年1月にアリゾナ州ツーソンで連邦地裁長官や9歳の少女を含む6人を射殺したジャレッド・ラフナーがあげられる。
ラフナーは高校中退後、職を転々とし、大学に進学したが、ドラッグ使用などの素行不良で停学処分を受けた。特定の政治勢力を支持していなかったが、銃規制には強く反対し、ネット上では「グローバリストによる世界支配」といった陰謀論を扱うサイトに出入りしていた。このように生活が上手くいかないなか、政府や「世界支配を企む勢力」の悪意を疑い、自己防衛を強く意識するラフナーは、逮捕後の精神鑑定でパラノイアと診断された。
判決では保釈なしの終身刑に、140年の懲役が追加された。
【参考記事】「第二次世界大戦は終わっていない」ドイツ新右翼ー陰謀論を信じる心理の生まれ方
一般的にパラノイアが抱く外部の悪意は自分の中の悪い部分を他者に投影したもので、「妄想・分裂形成」と呼ばれる。これは自分の思い通りにならない場合、全て他者のせいだと外部に向けて怒りを爆発させるもので、乳児の特徴だ。しかし、大人でも自分の責任を認められない者は少なくなく、ラフナーもそうした幼児性の強い一人とみられるのだ。
(5)「不浄の世界を救う」使命感
より真面目な人間がテロに走ることもある。
ハーバード大学の精神分析学者ロバート・リフトンはオウム真理教に入信してテロに加担した若者たちを取り上げ、その多くが世界の腐敗・堕落に失望し、救世主のもとで世直しを目指そうとしたと評し、彼らを終末思想論者と呼んだ。
このタイプは真面目で道徳観念の発達した者に多いが、全てを白か黒かで断定しやすいうえ、「自分は正しいことを知っている」という意識が強く、「正しい考えが広がらないのは権力者がそれを邪魔しているから」となりやすい。
【参考記事】「イスラーム国」(IS)はどこまで勢力を広げているか-さらに複雑化する「ゴルディアスの結び目」
こうした「悪意のある他者」への恐怖や敵意はパラノイアでもみられるが、終末思想論者も「ユダヤによる世界支配」といった陰謀論や、自分たちが迫害されているという感覚に傾きやすい。これが強くなれば、大量殺人も世界の浄化のために「正しい選択」となる。
実際にはこうした価値観あるいはイデオロギーをどの程度本心から支持するかは個人差がある。しかし、たとえ形式的でも価値観やイデオロギーを受け入れれば、暴力を行使しても自分の責任を意識しにくくなりやすい。
その場合、ナチスによるホロコーストの責任者アドルフ・オットー・アイヒマンのように、ただ命令に従順なだけの平凡な人間が、大きな良心の呵責のないまま、多くの人の生命を平然と奪うことすらあり得るのである。
※Yahoo!ニュースからの転載
- 六辻彰二/MUTSUJI Shoji
- 国際政治学者



