- 2019年08月24日 21:10
『24時間テレビ』は放送しないかもしれないけど、本当はテレビがもっと扱うべきハンセン病家族の問題
2/2番組の後半、衝撃の事実が明かされる
くわしくは番組を見ていただきたいが、黄さんが9歳のときに、再び母親と父親と再び家族として暮らすように至るまでの経緯が番組で説明されるが、その道のりは単純ではない。
療養所に強制隔離された母嫌は、既婚者であったにもかかわらず、隔離されてすぐに療養所内の男性と「園内結婚」させられていたという。園内では元患者が園の外に帰らないようにと結婚している人間でも園内結婚を推奨して結婚させていた。いわば通常の法律が適用されない治外法権の状態になっていたのだ。
母親も望んでその男性と結婚したわけではない。むしろまったく逆だ。相手の暴力や強姦などの被害に遭いながら自暴自棄の末に結婚に至ったと本人が告白した記録が見つかった。母親を見舞いに療養所を訪れて事実を知らされた父親は、逆上して相手の男性を刺して重傷を負わせて刑事事件になってしまう。
有罪判決ながら執行猶予がついた判決を得た父親は、岡山県の療養所で母親と暮らした後に社会復帰し、8年後に再び黄さんを引き取って一緒の「同居生活」を始めた。
しかし家族それぞれが深い傷を抱えたままの生活でギクシャクが続いていく。2003年、母親が飛び降り自殺し、しばらくして父親も同じ死に方を選んでしまう。母親も生前、「息子とうまく関係が築けない」と悩んでいたという。黄さんも同じように悩んでいたが、母親の死に際してもそれは変わらなかった。
「母の遺体を見たときに、なんて言っていいのかね、涙一粒、出なかった。最期の最期まで母親が他人にしか見えなかった、8年間の空間が・・・、あとは9歳からずっと一緒に生活したかもわからないけど、それを取り戻せるものではなかったということですね」
黄さんは2003年に母親が自殺で亡くなったときの感情も集会で率直に語っている。
ハンセン病家族の思いを伝えようと、ときおりギターで歌を歌ったり講演をしたりという活動を繰り返す黄さん。
「それは僕が一歳のときだった/母は病にかかっただけなのに/その病が家族を引き裂いたんだ/それは「らい」という名の病/そして僕が暮らし始めたのは/孤児院という名の新しい家族/みんなやさしかった/いい思い出ばかり/だけど本当の家族じゃなかった/人を犠牲にしなければならない国はどうすれば/それは人を人として認めない国でしかないだろう/閉じ込められて暮らした人たちは/それをみんな知っているんだ/殺すこともできない/生かすこともできない/閉じ込められた人たち/殺すこともできない/生かすこともできない/閉じ込められた命」
(『閉じ込められた命』作詞・作曲 黄光男)
このドキュメンタリーには、毎回の裁判を傍聴した取材者でなければ書くことができない描写がある。
「裁判で黄さんは自らの人生を話しました。両親の自殺を語り始めると、言葉が続かなくなりました。法廷は黄さんの涙に静まりかえりました」
このナレーションは、裁判もののドキュメンタリーのなかでもあまり例がないほど原告の気持ちに寄り添ってつくられている。
黄さんもずっとわだかまってきた母親や父親が「わが子」である自分をどう思っていたのか少しずつ裁判を通じて理解できるようになったという。
番組は、熊本地裁の原告勝訴の判決と原告側の記者会見のシーンでエンディングを迎える。
50分近くかけて、黄さん1人の人生を振り返ってみて、やっとハンセン病家族訴訟の意味を視聴者に伝える構造になっている。
いいタイミングで放送するのがテレビ
テレビの放送は、どのタイミングで、どのように放送するかがすごく大事なメディアだ。
関西テレビがこのドキュメンタリーを放送したのは、7月11日の深夜。政府が熊本地裁の判決について「首相談話」を発表する日の未明である。番組の本編の後にテロップ1枚が続く。
「国は今月9日熊本地裁判決を受け入れ控訴を断念した」
このタイミングで放送したのは、この問題を長く取材し、このドキュメンタリー番組のディレクターを務めた柴谷真理子さんの「こだわり」ゆえだと思う。
前述したようにテレビ報道ではこの問題について、関西テレビのドキュメンタリーほど「家族の苦痛」をきちんと描写したものはなかった。
柴谷さんが書いた最後部分のナレーションを読んでみよう。
「裁判で問うたのは国の責任ですが、その政策の下で直接、差別をしてきたのは”身近にいた普通の人たち”です」
私たち一人ひとりに問いかけてくる言葉ではないか。
さて、いよいよ24時間テレビが始まる。
安倍首相も「おわび」してハンセン病の元患者の家族への「共感」を示した直後でもある。
”身近にいた普通の人たち”である私たち。
それから政治家もメディアの人間も、テレビを見ながらこの問題を考えてみたい。
※Yahoo!ニュースからの転載



