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私が車の免許を手放した黒歴史 - 香山リカ

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(写真:iStock.com/damedeeso)

「これからの人生、どうしよう?」と考えるお年頃を迎えた香山リカさん。ライフシフトのためにまず取りかかったのが、「先立つもの」の調達でした……。

*   *   *

50代も後半になり、“一念発起”をした私。

「将来、無医村の診療所で医者をやることになるかも。いや、やらないかもしれないけれど、本当にその気になったらやれる準備だけはしておきたい」というあまりに不確定な夢を抱いて、まず考えたのは「自動車免許の取得」だ。

実は私は、大学生時代に一度、自動車免許の教習所に通い、免許を取ったことがある。しかし、次に述べるような経緯で、免許の更新をやめてしまったのだ。

本などを出すようになり、ときどき雑誌から「私の人生」といったテーマで取材を受けるようになると、インタビュアーからよく「これまでいちばん苦労されたことは何ですか」という質問を受ける。そのときいちばん最初に頭に浮かぶ答えは、「学生時代、自動車学校に通ったこと」だ。

とはいえ、そんなことを話して活字になったら、読者は「え? 人生のいちばんの苦労は自動車学校? ……なにを甘えたこと、言ってるんだ」と不快になるだろう。だから、その答えはぐっと呑み込んで、「なんといっても大学病院での研修が終わり、外の民間病院に配属されてひとり立ちしたときですね。いきなり200人もの入院患者さんを担当しなければならなくなって、文字通り寝る時間もなくなりました」などと話す。

もちろん、それはウソではない。その病院での勤務は考えられないほど苛酷であった。ただ、いくらつらくてもそれは“仕事”であったし、看護師や作業療法士などたいへんさを分かち合う仲間もいた。その病院での勤務は2年間続いたのだが、私にとっては、学生時代の数カ月間の自動車学校の方が心理的には実はずっとつらかったのだ。

北海道の実家を離れ、東京の大学に通っていた私は、夏休みを利用して実家近くの自動車学校に入った。「夏休み中に免許が取れれば」という考えだったのだが、それは完全に甘かった。

もともと運動は不得意で、自分は反射神経などが良くないな、ということはわかっていたのだが、それにしてもここまで自動車の運転に向いていない、とは思わなかった。それくらい、本当に最初の教習から指導員に「エンジンかけないと動かないでしょう? あー、キーはそこに刺すんじゃなくて」と注意されっぱなしの状態になったのだ。

「しまった、運転は自分にはムリなんだ」と気づいても、時すでに遅し。恥ずかしながら教習所の料金は親が一括で払ってくれており、いまさらやめるわけにはいかない。

ひとつの段階が終わるたびに指導員からハンコをもらうのだが、一度でそれを押してもらえることはなく、加速、バック、踏切での一時停止などすべてを2時間、3時間と繰り返して、ようやく「まあしょうがないな」とハンコを押してもらう、という具合だった。

イナカの教習所なので指導員の数も限られており、何度も同じ人にあたるうち、「またキミか」という顔をされる。あるとき指導員にきかれた。「キミは学生? どんな勉強してるの?」。私は正直に「医学部に行ってます」と答えたら、指導員はぎょっとした顔をして、「え、医者になるの? こんなに注意力もなくて不器用なのに? こわいなー、キミには診てもらいたくないなー」と言ったのだ。

いまなら「自動車の運転と医者のスキルは関係ないじゃないですか。そんなこと言うのやめてください」と反論できるが、なにせそのときはハタチそこそこだったし、それまでに、注意というか叱責されては「スミマセン」と謝る、というパターンができあがっていたので、真剣に「医者になるのはやめた方がいいかも」と思うほど自信がなくなった。

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