記事

先の見えない170万人規模デモで香港経済は失踪か - 渡辺博司

渡邊博司

香港から中国本土への犯罪容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をきっかけに始まった香港における大規模デモが激化している。既に170万人のデモ行進を実現させた民主派団体は、今月末にも大規模な抗議活動を予定していると言う。

私は、現在ほど荒れていなかった2ヶ月前の6月26日。業務のために現地に行って来たのだが、既に人の集まり方が尋常では無く、駅から集合場所までの通路も道も延々と人の波が続き、とにかく、その数だけで危険な圧力を感じた。

「雨傘運動」から燻る「格差社会への若者の不満」が要因か

これを受けてか、政府の掲げた「条例改正案」は一旦取り下げという形になったのだが、デモは「改正案の完全撤回」「警察の責任追及」「普通選挙の実施」「香港行政長官・林鄭月娥(キャリー・ラム)の辞任」などを求め継続されてきた。

しかも、この2ヶ月で、デモは、「過激な一部のデモ隊による行政庁への突入」「国際空港職員の職場放棄とデモ隊の空港占拠による空港の封鎖」「銀行預金の引き出し運動」など抗議の姿勢を強めてきた。それに対して行政側も「警察による催涙弾とビーンバッグ弾によるデモ隊への攻撃」「589人のデモ参加者の逮捕」で真っ向から対抗。行政側を支持する中国政府も「中国武装警察の国境待機」で圧力を示し、「香港マフィアと疑われる集団によるデモ参加者への襲撃」の関与が取り沙汰され事態は治まる気配が見えない。

この大規模デモの要因については「香港の言論の自由を守る為」、つまり「中国政府にとって都合の悪い思想を持つ者を重大犯罪者とし、香港から移送する事を防ぐため」ということが本線だが、ここでは14年の20万人が参加したと言う「雨傘運動」から燻る「格差社会への若者の不満」という点に注目していきたい。

「雨傘運動」は、香港政府が普通選挙導入を撤回し、行政が選んだ中国寄りの候補者数人から投票で選ぶと変更した事で発生した。

当時の梁振英長官の「住民が代表者を選ぶようになれば、香港の住民の半分を占める月収1800ドル以下の所得層が決めることになる」という発言からも、選挙に関する変更は既得権を持つ人々の為であり、若者やこれから社会に出る学生にとっては全く未来の見えないものだった。

事実、この時点での香港の地価は高騰し、若者の中には6畳のワンルームを4人でシェアするケースも珍しくなく、その一方で富裕層は一等地の不動産を次々と購入するというような状況にあった。

結局この格差への不満を原動力とした「雨傘運動」は、行政の譲歩もなく79日間で終わりを告げた。その結果、中国の思惑通り17年の選挙で林鄭月娥が長官となり、今回の条例案の提出となった。

行政側としては「重大な犯罪者」の引き渡しであり、香港は既にイギリスやアメリカなど約20カ国と犯罪人引き渡し協定を結んでおり、さらに「死刑相当の場合は引き渡し不可」としていることから「現在の体制に影響はない」ものと判断して提出したつもりだったのだろう。

しかしデモ側にとっては過去に「民主派議員の議員資格を剥奪(はくだつ)」「香港の書店員が次々と姿を消した事件」等などもあって、全く信用がおけないのである。しかも、そこで「雨傘運動」を力で押さえつけたことによって、これまで溜まり続けてきた鬱憤が一気に爆発、全市民的な運動となってしまったのだ。

治まらないデモにささやかれる「軍事介入」による解決

トランプ米大統領が「米国の香港との貿易優遇制度の撤回」をチラつかせ介入を図ってきたこともデモ側にとっては好材料だったに違いない。

しかも、行政側としては、中国政府が台湾に対し「香港のような一国二制度で自治と言論の自由を保証する事を前提に統一しよう」と呼びかけていることもあって、現状で、デモに対しての強行策は行使しづらくなっている。

そんな中囁かれているのが、中国政府が破壊工作員をデモに侵入させ、デモをテロと位置づけて軍事介入により、ことの解決を図るのではないかという策だ。

「香港をどん底に陥れないでほしい。暴力が引き返し不能な道へと香港を追い込む」という林鄭月娥長官の最近の発言も中国政府とのやり取りの後での発言と考えると不穏な雰囲気がある。

結局、中国政府が香港の反抗を許すことは、人民の手前も、ひとつの中国から後退する為ありえない。一方、デモ側としては経済が混乱し不動産関連株の下落という現象が起きていることは、自分達の生活面から考えても好材料なことなのである。

要するにデモが長引くことは長引くほどデモ側にとって有利ということになる。

このようなことから「天安門事件再び」ということはなく、この先も長く結論の出ない、それこそ先の見えないデモが延々と続き、香港経済は落ち込んでいくものと私は予想している。

これは余談だが、日本においても格差は増大している。現在、都心の20平米程の中古1Rマンションですら2000万円を超え、一部の既得権者達は家賃収入を得てさらに資産を増やしている。

香港の若者同様、日本の庶民も未来は全く見えないのだ。

仮に、香港デモの長期化によって香港が変わることを目の当たりにしたとしたら、あるいは日本人だって消費税の増税をキッカケに鬱憤が爆発しないとは限らない。

いずれにしても、香港の情勢については今後も見つめていきたい。

渡邊博司

渡辺博司(わたなべひろし)
音楽系芸能プロダクション代表(CEO)。1965年、大阪出身。1987年にプロダクションを設立して以来、ロックからアイドルを中心としたアーティストの発掘、プロデュースを手がける。テレビ番組や映画製作、さらには海外への進出も積極的で、香港にも事務所を設立するなど幅広い事業を展開している。

あわせて読みたい

「香港デモ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    話題のSIMなしスマホが技適通過

    S-MAX

  2. 2

    日本より徹底 北の韓国無視戦術

    高英起

  3. 3

    未だに処理水批判する韓国の悲愴

    自由人

  4. 4

    君が代独唱 平原綾香に称賛の声

    女性自身

  5. 5

    大人の3割に「愛着障害」の傾向

    幻冬舎plus

  6. 6

    大谷がヒザ手術 二刀流は無理か

    幻冬舎plus

  7. 7

    災害で学ばぬ自治体の自衛隊任せ

    清谷信一

  8. 8

    山本太郎氏は知事選出馬をするな

    早川忠孝

  9. 9

    山本太郎氏を直撃 極左との関係

    文春オンライン

  10. 10

    米国識者 GSOMIA破棄は「自害」

    高英起

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。