記事

5歳と3歳の子供を妻に連れ去られた父親の叫び

2/2

警察は「民事不介入」、家裁は「問題なし」

妻は事前に弁護士と相談し、子どもたちと暮らす場所を確保していたことをAさんは悟った。連れ去られる3日前に、義父の命日のため家族全員で妻の実家を訪れていたが、その時には何の話もなかった。子どもたちを連れ去ることを、義母も知っていた可能性がある。

Aさんはすぐに警察署に届け出た。警察官は妻に電話して安否の確認をしたが、妻が弁護士を雇っていることが分かると、警察は「民事不介入」の旨をAさんに告げた。妻や子どもたちがいる住所を教えることはできない、ということだった。

Aさんは司法の力を借りようと、今度は家庭裁判所に共同監護などを求める審判を申し立てた。自分は不倫もDVもしていないし、子育ての大半をやってきたとして、子どもたちを連れ去られる理由はないと主張した。

しかし審判では、発端となった妻の暴力はまったく取り上げられず、病院やAさんへの聞き取りも行われなかった。その上で今年2月に出た調査結果は「妻と子どもたちが一緒に暮らすのは問題ない」というものだった。この結論により、連れ去りから8カ月がたった現在も、Aさんの元に子どもたちは戻っていない。

Aさんが裁判所によって子どもと引き離されるのは、今回が初めてではなかった。前妻との離婚裁判でも、子どもの親権は前妻が持つことになり、結果的に子どもと8年以上会えない状態になっている。Aさんは2度も、子どもと引き裂かれる目に遭っているのだ。

日本の「単独親権」制度は国際社会から批判

Aさんが2度にわたり子どもと引き離された原因は、日本は離婚後の「共同親権」を民法で認めず、「単独親権」だけを認めている点にある。「単独親権」制度の下では、子どもの親権や監護権をめぐる裁判では、連れ去った側に有利な判決が出るケースが圧倒的に多いという。

実は、「単独親権」しか認めていない国は、先進国では日本しかない。日本人女性と国際結婚した場合に、妻が子どもを日本に連れていき、父親が子どもと会えなくなるケースが問題となって、日本の「連れ去り」の実情が国際的に広く知られるようになった。

「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」、いわゆるハーグ条約は、国際結婚が破綻した際の子どもの扱いについて、親権や面会権を確定しないまま、無断で16歳未満の子どもを国外に連れ出す行為を不当とし、元の居住国への帰還を求めている。

ハーグ条約は1980年に作成され、日本は2013年にようやく締結した。今年5月現在、100カ国が締結している。しかし、日本はハーグ条約を締結しながら「単独親権」の制度を変えていないため、状況が改善されているとは言えない。

さらに日本は1994年に「子どもの権利条約」も批准しているが、条約が求める父母の共同養育責任も、「単独親権」制度によって果たすことができない状態だ。

このため、国連の子どもの権利委員会は今年2月、共同親権を認めるために離婚後の親子関係に関する法律を改正することを日本政府に勧告した。日本が「単独親権」しか認めないことは、国際社会から公然と非難されているのだ。

「単独親権」は虐待受けた子どもを守る制度ではない

日本で離婚後の「共同親権」の法整備が進まないのは、根強い反対があるからでもある。その代表的な理由として挙げられるのが、「共同親権」だと引き続き夫と連絡を取らなければならず、夫から妻への暴力や、夫から子どもへの虐待があった場合に、妻や子どもを守ることができないというものだ。

しかしAさんの場合は、子どもの面前で妻がAさんに暴力を振るったことで、妻による子どもへの虐待が病院によって指摘されている。「単独親権」だからといって、虐待を受けた子どもを守ることにはならないケースもあるのだ。

「虐待から子どもを守るのは、親権とは別の機能です。共同親権であれば、私の妻も子どもを連れ去る必要はなかったでしょう。子どもを連れ去られることを望んでいる人などいません。むしろ単独親権制度によって、苦しむ人が生まれているのです」

子どもたちと以前のように暮らせる可能性は限りなく低い

Aさんは昨年末に共同監護などを求めて審判を申し立てたあと、妻が申し立てた離婚調停が不調に終わり、現在は離婚裁判で争っている。しかしAさんは、過去の経験からも、現状からも、裁判に勝訴して子どもたちと以前のように暮らせる可能性は限りなく低いと感じている。

「私にとって子どもたちと一緒に暮らすことは、人生のすべてです。子育て以上に人生で大切なことはないと思って生きてきましたから、子どもたちとの日常生活が失われた状況は、自分の体が引き裂かれたような苦しみです。共同親権の実現について、もっと多くの方に考えていただきたいと思っています」

海外では、親と切り離された子どもたちの心理を研究した結果、共同親権が普及していったという。Aさんは自分のケースを多くの人に知ってもらうとともに、日本で共同親権の法整備が実現するよう訴えていきたいと話している。

----------

田中 圭太郎(たなか・けいたろう)

ジャーナリスト

1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。

----------

(ジャーナリスト 田中 圭太郎)

あわせて読みたい

「親権」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ホロコースト揶揄を報告した防衛副大臣に呆れ 政府のガバナンスは完全崩壊か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月23日 10:46

  2. 2

    天皇陛下の開会宣言に着席したまま…菅首相に「不敬にも程がある」と非難の声

    SmartFLASH

    07月24日 08:58

  3. 3

    橋本会長、「選手のプレイブック違反」証拠をお見せします 出場資格を取り消せますか

    田中龍作

    07月23日 08:33

  4. 4

    バッハ会長“長過ぎスピーチ”で…テレビが映さなかった「たまらずゴロ寝」選手続々

    SmartFLASH

    07月24日 09:20

  5. 5

    天皇陛下と同列?五輪開会式でのバッハ会長の振る舞いに違和感続出

    女性自身

    07月24日 11:55

  6. 6

    感染爆発は起こらないことが閣議決定されました

    LM-7

    07月23日 22:45

  7. 7

    自民党で相次ぐ世襲の新人候補者 3つの弊害を指摘

    山内康一

    07月24日 09:24

  8. 8

    前例を覆した開会宣言 政府の緊急事態宣言よりも感じる「重み」

    階猛

    07月24日 10:39

  9. 9

    退職金や老後資金を吸い上げる「ラップ口座」の実態

    内藤忍

    07月24日 11:33

  10. 10

    五輪めぐる批判と応援 「矛盾」と切り捨てる必要はない

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    07月24日 09:00

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。