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インバウンドを直撃!韓国の「日本不買」今回はなぜ成果を上げたのか - 澤田克己 (毎日新聞記者、元ソウル支局長)

ソウルのコンビニに並ぶ各国のビール。4本1万ウォンのキャンペーンから日本のビールだけ外されていた=8月13日、澤田克己撮影

7月に日本を訪れた韓国人が前年同月比7.6%減の56万1700人となった。今年に入ってからの韓国ウォン安を反映して1〜6月も3.8%減だったが、7月はさらに大きな落ち込みとなった。同月1日に発表された半導体素材の輸出手続き厳格化など規制強化への反発を反映したものだ。日本の地方都市を中心とした航空路線の縮小や休止も相次いでいる。韓国ではユニクロなど日本ブランドの売り上げも落ち込み、韓国人経営の日本食レストランにまで打撃は及ぶ。韓国での日本製品不買運動は過去25年間に4回の「不発の歴史」(『韓国の「日本」不買運動、不発の歴史』参照)を繰り返していたのに、今回はなぜ「成果」を挙げているのだろうか。

日本ビールは実質的な大幅値上げ

不買運動の影響については、すでに多く報じられている。輸入ビールの国別順位で今まで不動の1位だった日本が3位に落ち込んだとか、ユニクロが閑散としているといったものだ。中には商品の棚から日本ビールが消えたなどという報道もあったが、ソウルに来て確認してみると、商品棚から撤去した店が多いわけではなかった。

ただコンビニの棚を見て、「これじゃ売れないわ」と思わされた。日本のビールだけ実質的に値上げされていたからだ。

仕組みはこうだ。韓国のコンビニでは各国の多種多様なビールが販売されている。輸入ビールの多くは500ミリリットル缶1本で4000ウォン(約350円)前後の価格が付いているのだが、実際にこんな値段で買う人はいない。どのコンビニでも「4本で1万ウォン(約880円)」というキャンペーンがいつも行われているので、普通の人は4本単位で買っていく。ヱビスビールやサントリー・プレミアムモルツなども4本1万ウォンなので、「日本よりお得」だったのだ。ところが、今回の騒動を受けて各社がキャンペーン対象から日本のビールを外した。今まで「4本1万ウォン」で買えていたのが、「1本4000ウォン」になったということだ。これで売り上げが落ちなければおかしい。

それにしても不買運動が「成果」を挙げるのは、きわめて異例だ。ソウルでさまざまな人に理由をどう考えるか聞いてみた。

今までの不買運動が不発に終わっていた理由については、ほとんどの人の見解が一致した。慰安婦問題や教科書問題などでの日本の対応への反発というのは政治的なものであって、一般国民からみれば「自分たちの問題」とは感じられなかったということだ。だから、運動団体が派手なパフォーマンスをしても一般国民は冷めた目で見ていた。ところが今回は違うのだ。

私が聞いた意見で、それなりに納得できた見解は四つあった。(1)韓国の主力産業を標的にされたことで自分の生活にも悪影響が出るのではないかと心配した、(2)韓国人は徴用工問題に関心を持っていないので、日本の措置は寝耳に水だった。理由もわからず経済制裁をされたと反発した、(3)日本が力づくで韓国を抑え込もうとしてきたと感じた、(4)ロウソク集会で朴槿恵元大統領を弾劾に追い込んだ成功体験とSNSによる情報拡散——といったものだ。どれか一つが決定打というより、こうした要素が複合的に作用したということなのだろう。

韓国人が考える「今までとは違う」理由とは

一つずつ見てみよう。韓国経済への攻撃だと受け止めたからという(1)は理解しやすい。韓国の主力産業である半導体産業が揺らげば、もともと悪くなっていた景気がさらに冷え込むだろう。そうなれば自分の生活にも悪影響が及ぶと考えれば、怒るのは当然だ。

韓国人にとって寝耳に水だったからという(2)は説明が必要だろう。日本では大きく報道され続けてきた徴用工問題だが、韓国では大きな関心を持たれていないのが実状だ。徴用工訴訟の原告代理人を務める弁護士にも会ったが、彼の口からは今になっても「韓国人は強制動員(徴用工)問題に関心を持ってないから」というぼやきが出てきた。実際、8月15日にソウル市役所前広場で行われた徴用工問題の早期解決を訴える集会の参加者は600人ほどにすぎなかった。徴用工問題で日本がいらだっていて日韓関係が悪化しているということを知らなければ、日本が突然、理不尽な攻撃をしてきたと見える。しかも理由を聞いても「何それ?」という感じなのだ。

日本が力づくで韓国を抑え込もうとしたという(3)は、青瓦台(大統領府)や各省庁、外交専門家の間で広く共有されている。韓国が経済的な力を付けて日本をキャッチアップし、今や日本を追い越そうとしているので、今のうちに韓国をたたいてしまえというのが日本の隠された思惑だという見立てだ。

日本政府の発表直後に私が日本の朝鮮半島専門家たちと話した時も、「官邸は力づくで韓国を屈服させようとしているのではないか」という見方は出ていた。私も「力づく」という考え方には同意するものの、この「力づく」論には日韓で危険なずれがある。私を含めた日本の専門家たちは「官邸は韓国の国力を見誤っている。韓国が弱小国だった昔のイメージを引きずったまま、簡単にギブアップさせられると考えたのではないか」と危惧したのだ。韓国側が考えているように、「韓国に抜かされそうだから今のうちに」という感覚は日本側に見られないように思う。

ロウソク集会の成功体験という(4)は、朴前大統領の弾劾に成功した高揚感を引きずっている。文在寅政権の支持層は、市民一人ひとりが参加したロウソク集会の盛り上がりによって弾劾を成功させ、政権を奪取できたという感覚を持っている。だから今回も、一人ひとりが参加する不買運動によって日本への反発を表現できると考えたというのだ。ここ数年のSNSの爆発的普及がこうした動きを後押しした。

インスタに上げられない「日本旅行」なら行かない

さらに付け加えるならば、日本以上に強い韓国社会の同調圧力がある。

ソウル市南部の繁華街にある日本食レストランでは「接待や会合といった予約が入らなくなったのが痛い。売り上げは2割くらい落ちた」と嘆いていた。幹事としたら「このご時世に日本食レストラン?」と言われたくないのだ。この店では、それまで人気だったプレミアムモルツの生ビールも注文が激減したという。韓国人経営者は「周囲の顔色をうかがっている感じ。個室の客はプレミアムモルツを注文する」と話す。

日本への旅行ではインスタグラムの影響も語られている。若い人たちは旅行先でインスタに写真をアップすることを楽しみにしているが、日本旅行で「楽しかった」という写真はアップしづらい雰囲気だ。それだったら他の国を旅行しよう、というのだ。40代の韓国紙記者は「40代以上の人で日本旅行を取りやめたというのは不買運動だろうけれど、20代や30代はインスタが最大の理由だろう」と話していた。

成田、羽田、関西、中部を除いた日本の地方空港の国際線利用者数(2018年)は、日本人201万人に対して外国人835万人だった。そして昨年の外国人観光客の4分の1は韓国人。日本の観光業界関係者は「東京では分からないかもしれないが、地方の観光業界の韓国への依存度はとても高い。特に韓国人客の比率が高い冬場の九州観光には打撃だ」と悲鳴を上げる。

地方都市に就航してきたのは、経営体力の弱い韓国のLCCが多い。観光業界関係者は「いったん路線休止となったら復活させるのは至難の業。足がなければ観光客が来るはずもない。便数減少などでとどまっている間に、なんとか状況が好転してもらえないと」と話していた。

韓国では行きすぎた反日への批判も強まっており、不買運動も長続きはしないだろうと話す人も多い。個人的に日本への嫌悪感を示す人が多いわけでもない。それでも日韓の外交的摩擦を打開する展望は見通せず、不買運動の影響も今度ばかりはどれくらい続くか予測が難しそうだ。

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