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ニューヨーク・タイムズの偏向 - 古森義久

 ニューヨーク・タイムズといえば、日本ではまだ信奉者は多いだろう。アメリカ東部のリベラル知性を代表するような伝統ある新聞として日本の知米派への影響は絶大だった。私自身もアメリカ報道にあたる新聞記者として、この古い新聞は貴重な教訓とも情報源ともなってきた。

 同紙がニュースメディアとして極めて優れた機能を果たしてきた実績は疑いの余地がない。だがその一方、この新聞が政治的には民主党リベラル寄りの左傾媒体として保守派や共和党を常に攻撃してきた党派性の偏向については、日本ではあまり知られていないようだ。特に同紙のドナルド・トランプ大統領への攻撃的な報道や論評はものすごい。その偏向が行き過ぎて、いまや同紙は内部の恥部をさらけ出し、厳しい非難を浴びる状況となった。

 ニューヨーク・タイムズが同大統領を倒すためにこれまで「ロシア疑惑」を利用してきたが、今後は「人種差別主義(レーシズム)」を最大の武器として使うという方針を決めた内部の会議記録が外に流出してしまったのだ。その結果、トランプ支持勢力だけでなく広い層からの非難を浴びることとなった。同紙は報道機関の任務を離れての政治活動プロパガンダ機関になったという批判が広まったのだ。

 ニューヨーク・タイムズは8月12日、ディーン・バケイ編集局長の下、幹部が集まって、今後の方針を協議した。この会議の全記録がインターネット・メディアに流れてしまったのである。

 その記録では同紙は「トランプ大統領を辞任に追いこむことを大目標とする紙面づくりを続ける」「そのためにこれまでは『ロシア疑惑』報道を最大の手段としてきたが、効果がなかった」「今後はトランプ氏がレーシスト(人種差別主義者)だとする主張を最大の手段とする」——などという方針が明言されていた。レーシズム(人種差別主義)をトランプ攻撃の主材料にするという宣言だった。ニュース報道よりも政治キャンペーンを優先というスタンスの確認でもあった。

 この内情が他のメディアでも報道された。記録では「トランプ陣営とロシア政府との共謀による大統領選での投票不正操作をロバート・モラー特別検察官の捜査で裏づけて、大統領を辞任に追い込もうと図ったが、その裏づけは得られず、失敗に終わった」などという同紙の政治活動そのものの実態も明らかにされていた。「トランプ陣営とロシア政府が共謀」というニューヨーク・タイムズの主張も事実よりもトランプ打倒のための政治主張だったという実態を立証することにもなってしまった。

 反発は激しかった。ニューヨーク・タイムズが日ごろから敵とする共和党保守派はとくに強く反応した。大統領選ではトランプ氏と共和党の指名獲得を争ったテッド・クルーズ上院議員はツイッターで「ニューヨーク・タイムズはトランプ憎悪により自壊を始めた」と批判した。同議員は「ジャーナリストが政治プロパガンダ拡散に熱中することは報道の自由にとっても有害だ」と述べるとともに、「人種差別をあえて政治的な武器とすることはかえってそれを広めることにもなる」と警告していた。

 メディア界でもニューヨーク・ポストのベテラン・コラムニスト、マイケル・グッドウィン記者は「特定の政治勢力へのここまでの反対や賛成を本来の報道活動に優先させるのはニュースメディアとしての腐敗だ」と述べ、ニューヨーク・タイムズは「もう報道機関としての責務を放棄し、民主党と一体の政治機関になった」と酷評した。FOXテレビも「大手新聞の極端な偏向」として批判的に報道した。

 肝心のトランプ大統領も8月18日のツイッターで「衰退するニューヨーク・タイムズがまた失敗をした。私を攻撃する手段として、でっちあげのロシア疑惑から今度は魔女狩りのレーシズムへとシフトしたことが内部情報の流出でばれてしまったのだ」と書いた。同大統領はすでに同紙を「フェイクニュース」とか「アメリカ国民の敵」と断じて、手厳しく糾弾してきた。

 ニューヨーク・タイムズはそのうえに8月に入って、アメリカ国内の大規模な銃撃事件についてのトランプ大統領の声明を「レーシズムよりも結束を促す」という見出しで報じたことに反トランプ勢力から「好意的すぎる」と反発され、同じ夜のうちに、慌ててその見出しを変えたことが明るみに出た。

 さらに同紙のワシントン支局次長のジョナサン・ワイズマン記者は自分自身のツイッターで下院の民主党過激派リベラルの女性議員二人について「必ずしも選挙区を代表していない」という趣旨を書いたことを社内で非難され、降格処分を受けた。「判断の錯誤」という理由だったが、同紙の他の記者たちがツイッターで自由に私見を述べているのに、ワイズマン記者の場合、リベラル派の批判を懲罰されるという結果だった。この事件も同紙全体がリベラル全面支持で、その批判を許さないという偏向体質を反映する実例と評された。

 さて私はいまワシントンでこの報告を書いている。以上の現状をもとに日本のトランプ政権評をみると、ニューヨーク・タイムズ的な「とにかくトランプ攻撃ありき」という偏向情報の影響が大きいと実感させられる。因みにいまアメリカでは広範に報じられたニューヨーク・タイムズの偏向騒動が日本の新聞やテレビでどこまで報じられるか。少しでも報じられるか。観察してみたい。とにかくトランプ大統領を酷評すればよいという感じの日本のメディアや識者にとっては「不都合な真実」の典型となるのではないか。そんなことを懸念させられるアメリカでの重要なニュースなのである。

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古森 義久(こもり よしひさ)
1963年、慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。1972 年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1981年、米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。1983年、毎日新聞東京本社政治編集委員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。国際教養大学客員教授。麗澤大学特別教授。 著書に、『憲法が日本を滅ぼす』『なにがおかしいのか?朝日新聞』『2014年の「米中」を読む(共著)』(海竜社)、『朝日新聞は日本の「宝」である』『オバマ大統領と日本の沈没』、『自滅する中国 反撃する日本(共著)』『米朝首脳会談と中国、そして日本はどうなるのか』(ビジネス社)、『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(玄冬舎新書)、『「無法」中国との戦い方』『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)、『中・韓「反日ロビー」の実像』『迫りくる「米中新冷戦」』『トランプは中国の膨張を許さない!』(PHP研究所)等多数。

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