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【読書感想】上級国民/下級国民

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 今の世界全体の流れとしては、「食べていけないほどの貧困は、どんどん改善されてきている」のです。
 その一方で、先進国で生きている、学歴や優れたコミュニケーション能力を持たない人たちは「自分が、どんどん『下層』に落ちていっている」と感じているのです。  

 あまりにも有名な一節ですが、福沢諭吉は『学問のすすめ』でこう書きました。

 人は生まれながらにして貴賤・貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり。

 これは一般には、「学問に勤めれば成功できる」という意味だと解釈されています。だが逆に言えば、「『貧人』『下人』なのは学ばなかった者の自己責任」ということになるでしょう。
 教育の本質は「上級/下級」に社会を分断する「格差拡大装置」であることを、福沢諭吉は正しく理解していたのです。

 これに関しては、たとえば、富裕層の子どもと貧困層の子どもでは、教育にかけられるお金も、親たちの意識も異なる、という「環境要因」が大きいと思います。
 その一方で、「人間の基本的な能力は、みな平等なのだ」という信念は、本当に人間を「幸せ」にするのか、という問題もあるのです。

 個人の自由(自己実現)を最大化するリベラルな社会は、前近代の身分制社会に比べればもちろん素晴らしい進歩であり、よろこばしいことですが、あらゆることはトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たない)です。

 リベラルな社会の負の側面は、自己実現と自己責任がコインの裏表であることと、自由が共同体を解体することです。

 リベラルは、人権、出自、宗教、国籍、性別、年齢、性的志向、障がいの有無などによるいっさいの差別を認めません。なぜならそれらは、本人の意思や努力ではどうしようもないことで自己実現を阻むからです。

 しかしこれは逆にいうと、「本人の意思(やる気)で格差が生じるのは当然だ」「努力は正当に評価され、社会的な地位や経済的なゆたかさに反映されるべきだ」ということになります。これが「能力主義(メリトクラシー)」であり、リベラルな社会の本質です。

 自由(自己実現)と自己責任が光と影の関係であることは、1943年、ドイツ占領下のフランスで出版された『存在と無』でジャン=ポール・サルトルがすでに指摘しています。若者たちにアンガージュマン(状況への参加)を説き、実存主義の教典となったこの名高い哲学書でサルトルはこう書いています。

 人間は自由の刑を宣告されている。なぜなら、いったんこの世に放り込まれたら、人間は自分のやることなすことのいっさいに責任を負わされるからだ。[人生に]意味を与えるかどうかは、自分次第なのだ。(『存在と無 現象学的存在論の試み』ちくま学芸文庫)

 こうした「自己実現=自己責任」の論理は1960年代になるとアメリカに移植され、「自己啓発」として花開くことになります。資本主義を肯定し、自由な社会で「自分らしく」生きることを称揚するこの新しい思想(ポジティブ心理学)では、人生は自らの責任において切り開くものであり、そこから得られる達成感こそが至高の価値とされたのです。

 はたして、これが本当に「人間にとって(あるいは、自分自身にとって)の幸せ」なのかどうか?
 「誰かの言いなりになって生きるしかない時代」よりは、ずっと幸せなのだと思う一方で、うまくいかないのはすべて自分のせい、となると、言い訳ができなくなるのです。

 人間が幸福になる(あるいは、幸福感を得る)のは難しいものだな、と思いながら読みました。

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