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「立候補ファイル」を美しく作り過ぎたツケ。

政治家でも、採用面接を受けに来る学生でも何でも、誰かに「選んで」もらおうとするときには、「自分をいかに美しく見せるか」ということに心を砕くのは当たり前、と言えば当たり前なのだが、

「選ばれる前に”誇張”して書いた(言った)ことのツケは、選ばれた後に回ってくる。」

というのもまた自明の理。

そして、2020東京五輪まで一年を切った今になって、徐々にいろんな話が出始めている。

東京五輪の招致委員会が「温暖で理想的な気候」としていた東京の夏は、猛烈な暑さだった。各競技団体や選手は今夏、テスト大会で様々な「暑さ対策」を講じ、1年後の本番に備えているが、開始時間やコースの変更を求める声もあがっている。」
(朝日新聞デジタル・2019年8月19日13時30分配信、強調筆者、以下同じ。)

「夏の東京が、世界的に見ても常軌を逸した暑さだ」なんてことは、招致活動が正式にスタートした2013年の時点で分かっていたことで、いくら「現地視察」が行われた時期がまぁまぁいい季節(3月上旬)だったからといっても、最終的に責任を負うべきは「それでも選んだ」IOCの委員だろ!と開き直るのは簡単。

しかも、ブエノスアイレスで東京が争った相手は、イスタンブールとマドリッドで、7~8月のマドリッドの直射日光は東京以上に体に突き刺さるし、イスタンブールもこの時期の気候は決して”穏やか”とは言えないから、オリンピック・パラリンピックの開催時期を「7月15日から8月31日まで」と指定してきたIOCが悪いんじゃい!という突っ込みも当然あり得るだろう*1

でもやっぱり、立候補ファイル(TOKYO 2020 : DISCOVER TOMORROW)*2に、

”With many days of mild and sunny weather, this period provides an ideal climate for athletes to perform at their best

とまで書いてしまったら、何かあるたびにあれこれ言われるのは分かり切っているわけで・・・。

既に2014年の時点で、この文言を引き合いに出して「ありえねーよ」と指摘している英文紙の記事等が出ているし*3、昨年の夏も、その前の夏も、警鐘を鳴らしていた心ある人はたくさんいたはずなのに、もう引き返せない今のタイミングになって大手国内メディアが騒ぎ出す、というのがなんとも日本らしいと言えば”らしい”現象なのだけど、もうこうなったら、最先端の技術を結集させて、屋外競技の会場に強力なミストを展開するか、それが間に合わないなら、どこかから「逆・天気の子」を連れてくるしかなかろう・・・と*4

冗談はともかく、東京で「この時期」にオリンピック・パラリンピックを開催することになったツケを、参加するアスリートや善意で協力しているボランティアスタッフが払わされるようなことだけはないようにしてほしいものだなぁ、と思わずにはいられない。

なお、本ブログ読者の方であれば、この立候補ファイルの7.3章の「Preventing ambush marketing」に関して、招致委員会が、

”The rights of the IOC, TOCOG and their partners are duly protected under existing laws"

と大見えを切ってしまった、ということもよくよくご存じのことであろう。

確かに、日本には商標法も著作権法も不正競争防止法もあるのだけれど、五輪のトップスポンサーが口うるさく唱えている”広義のアンブッシュマーケティング”を規制する法律などどこにも存在しないし、むしろ、「五輪」の名称もシンボルマークも使わずに、大会を連想させる”暗喩”や”パロディ”でムードを盛り上げる、というのは、鳥獣戯画の例を引くまでもなく、とってもユーモア好きな日本人がかねてから得意とする表現手法であって、禁止されるべきでないのはもちろんのこと、表現の自由の下で保護すべき、という話でもある。

この点に関しては、立候補時に招致委が「IOCの問いに対してあえて”すれ違い”の回答をする」ことでその場を乗り切った、という前向きな評価もできなくはないところだが、最上位に君臨する世界的なスポンサー企業にとってこれは、期間中の気候よりも、選手やボランティアの健康よりも何よりも、関心の強い話。しかも、ユーモア以上に「忖度」が大好きな人々も多いこの国では、スポンサーが声を上げる前に組織委やその裏にいる広告代理店がいろいろとちょっかいを出してくる。

この先大会が近付くにつれて、大会への批判と同じくらいの勢いで、善良な市民や商店主に「過剰な自制」を促す”広報”が展開されることも予想されるところではあるが、「法律で明確に禁止されていないことは、人々の心のままに。」というのが表現行為に対する規律の大原則なのだから、くれぐれも「立候補ファイル」での美しすぎる公約を盾にコカ・コーラやアリババへの「忖度」を求めるような真似はしないでほしいなぁ・・・というのが、開催国の一市民としての切なる願いである*5

*1:当初立候補申請をしていたドーハはこれで事実上開催が不可能になったわけだし・・・。そして、今思うと、最終候補には残れなかったがアゼルバイジャンのバクーが気候面からみると一番の開催地だったな・・・と思わずにはいられない。かの地で過ごした夏は本当に快適だった。

*2:https://library.olympic.org/Default/doc/SYRACUSE/70447/tokyo-2020-discover-tomorrow-tokyo-2020-olympic-games-bid-committee?_lg=en-GBより。

*3: 参照。

*4:なお、個人的にはこの2.1章に出てくる次の”As the Games will coincide with the summer holiday season in Japan, the demand on public transport and roads will be eased and it will be easier for many people, including volunteers and children, to be involved in the Games. ”というフレーズも非常に腹立たしくて、少なくとも7月の間に優雅に「夏休み」が取れるのは学生だけ。
宮仕えの勤労者は「五輪の練習」と称して、今年の夏、在宅ワークを強制させられているような状況だけに、つじつま合わせにもほどがある、と思ってしまう。

*5:このテーマに関しては、昨年、日商と東商の連名で「アンブッシュマーケティング(便乗商法・便乗広告)の制限に関する意見」というのが出ていて(https://www.jcci.or.jp/chiiki/180314_ambush.pdf)、ホント仰るとおり!、と個人的には思っているところである。
2020年は、久々にアンブッシュ規制の特別法がない状況下で開催される五輪になりそうな気配だけに、世界を痛快に笑わせるような非スポンサー企業によるマーケティングを期待したいところなのだが・・・。

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