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大学入学新テスト「現代文」にあるヤバい欠陥部

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2021年1月から始まる大学入学共通テスト。その「現代文」では複数の文章や資料の読み取りという形式の出題がある予定だ。しかし予備校講師の小池陽慈氏は、「このままだと受験生を迷わせるだけの、完成度の低い出題となる恐れが高い」と危惧する。その理由とは――。


※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

■大学入学共通テスト「現代文」の見逃せない「欠陥」

現行の大学センター試験に代わって、2020年度入試から開始される大学入学共通テスト(以下、「新テスト」と表記)の現代文において、記述問題の出題やその採点方法などが議論を呼んでいる。僕もこれまで、プレジデントオンラインへの寄稿(「大学入試採点に“学生バイト”は絶対反対だ」「新大学入試の大欠点“自己採点ができない”」)や、共著『どうする? どうなる? これからの「国語」教育』(紅野謙介編、幻戯書房)で、その問題点を指摘してきた。

だが、問題点は「記述問題」だけではない。新テストの国語には、もうひとつ見過ごせない問題点があるのだ。それは予備校業界で「記述問題よりも、むしろこちらのほうがより大きな問題かもしれない」と指摘されるほど深刻なものだ。

まずは、2回にわたり実施された試行調査問題の問題構成を、以下にざっとまとめてみよう。

第1回試行調査問題

第1問:部活動規約、会話文、図表、円グラフ、新聞記事

第2問:評論文、図表、写真

第3問:小説の原案となった物語、その物語を翻案した小説第2回試行調査問題

第1問:テーマを共有する評論文×2

第2問:ポスター、法律文、評論文、図表

第3問:詩、エッセイ

第1回、2回の共通点は、すべての大問において「複数の文章や資料の読み取り」という形式が採用されていることである(以降は、文章や資料などを、まとめて「テキスト」と呼ぶ)。例えば、第1回の第1問は、「部活動規約」「会話文」「図表」「円グラフ」「新聞記事」という形式の異なるテキストが提示され、受験生はそれらを読み込んだ上で解答する。

この“複数テキストの横断的読解”は、試みとしては興味深い。複数のテキストを関連づけながら読む力は、大学入学後のレポート作成などにおいて要求されるものでもあり、新テストが目指す「思考力」を問うことになるからだ。

けれどもそこには、絶対無視できない「問題」が存在する。どういうことか。実際の試行調査問題を参照しながら、その問題点を指摘していきたい。

■答えが紛らわしすぎる問題が普通に出題される

今回の問題の核心を具体的に理解いただくために、まずは僕が考えたモデルケースを紹介したい。

《モデルケース》

【文章Ⅰ】お金は物質である。
【文章Ⅱ】お金は物事の価値を表示する、抽象的な概念である。

問【文章Ⅱ】の冒頭に「お金」とあるが、そのような「お金」と似たような例としてふさわしいものを、以下の①~②のうちから一つだけ選べ。なお、解答にあたっては、【文章Ⅰ】を踏まえること。

①道ばたにおちている石ころ。
②言葉の表す意味。

「お金」を、一方では形のある「物質」だといい、もう一方では形のない「概念」だという。最初に結論を言ってしまえば、この設問は問題として成立していない。

なぜか。

【文章Ⅱ】においては、〈お金=抽象的な概念〉と定義されるはずだ。この定義を優先するなら、選択肢②の「言葉の表す意味」が正解ということになる。なぜなら「意味」は、「抽象的な概念」であるから。

これに対して、解答において踏まえるべき【文章Ⅰ】は、〈お金=物質〉と説明している。よってこちらを優先するなら、同じ「物質」である「石ころ」について説明する選択肢①が正解となる。

では、今回のこの設問では、傍線を含む一文と【文章Ⅰ】と、どちらを優先すべきなのだろうか?

たしかに設問は、【文章Ⅰ】の内容を踏まえることを条件としている。しかし、わざわざ傍線を付している以上、傍線を含む一文の内容も参照しなくてはならない。つまりこの時点で、「どちらを優先すべきか」という点について、客観的に判断することができなくなってしまうのだ。そうである以上、選択肢の①と②、どちらが正解かを選ぶことは、原理的に不可能になってしまうのである。

■これでは入試問題として“失格”なのではないか

こんな紛らわしい設問は、入試問題としては完全に失格だ。読者の中には、このモデルケースを僕がおおげさに誇張した恣意的な例とお考えになるかもしれない。では、以下に参照する、実際の試行調査問題についてはどう判断するだろうか。

【2018年実施 第2回試行調査 現代文第2問】より

【資料Ⅱ】(「著作権法」より一部抜粋)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

【文章】

(段落1)著作者は最初の作品を何らかの実体――記録メディア――に載せて発表する。その実体は紙であったり、カンバスであったり、空気振動であったり、光ディスクであったりする。この最初の作品をそれが載せられた実体とともに「原作品」――オリジナル――と呼ぶ。

(段落2)著作権法は、じつは、この原作品のなかに存在するエッセンスを引き出して「著作物」と定義していることになる。そのエッセンスとは何か。記録メディアから剥がされた記号列になる。著作権が対象とするものは原作品ではなく、この記号列としての著作物である。

(段落3)論理的には、著作権法のコントロール対象は著作物である。しかし、そのコントロールは著作物という概念を介して物理的な実態――複製物など――へと及ぶのである。現実の作品は、物理的には、あるいは消失し、あるいは拡散してしまう。だが著作権法は、著作物を頑丈な概念として扱う。

(段落4)もうひと言。著作物は、かりに原作品が壊されても盗まれても、保護期間内であれば、そのまま存続する。また、破れた書籍のなかにも、音程を外した歌唱のなかにも、存在する。現代のプラトニズム、とも言える。(後略)

(名和小太郎『著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして』より)

問2 段落2の文中に「記録メディアから剥がされた記号列」とあるが、それはどういうものか。【資料Ⅱ】を踏まえて考えられる例として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

①実演、レコード、放送及び有線放送に関するすべての文化的所産。

②小説家が執筆した手書きの原稿を活字で印刷した文芸雑誌。

③画家が制作した、消失したり散逸したりしていない美術品。

④作曲家が音楽作品を通じて創作的に表現した思想や感情。

⑤著作権法ではコントロールできないオリジナルな舞踏や歌唱。

まず、段落2で「記録メディアから剥がされた記号列」の直後に、「この記号列としての著作物」とある。つまり、この「記号列」とは、「著作物」のことなのである。すなわちこの設問は、「著作物」を説明した例として適切なものを選ぶ問題であるとわかる。

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