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光市事件の弁護団も名張事件の弁護団も、全く同じ使命、信念に基づいた弁護活動をしています

冤罪事件には直接関係ない話ですが、名張事件の弁護側が負けたニュースが流れたとき私が感じたことを書いておきましょう。

光市母子殺害事件の弁護団には凄まじいバッシングが浴びせられたことは皆さん記憶していることと思います。
そのとき「人権屋」とか「人権派弁護士」とか「人権」という言葉が蔑称の意味で用いられました。人権を擁護する仕事が尊敬を受けず、蔑みの対象になるという奇怪な現象が起きるのは、世界広しといえど日本だけだと言っていいかもしれません。

ところで、光市弁護団にバッシングが浴びせられることはあっても、名張弁護団にバッシングが浴びせられることはありません。名張毒葡萄酒事件の弁護団だって「人権派弁護士」なんですが、さすがに「人権屋ども、ざまあ!」とは言われないわけです。

しかし、
名張事件を弁護するのも光市事件を弁護するのも、弁護士達は全く同じ使命、信念に基づいて弁護活動を行っていることに、一体どれだけの人が気づいているでしょうか?

弁護士法第一条には弁護士の使命が書かれています。

弁護士法第一条  弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。



では、刑事司法における弁護士の使命とはなにでしょうか?
それは「被疑者、被告人の人権保障を全うさせる」ということです。
刑事裁判では被告人には憲法上、刑事訴訟法上の様々な人権が認められています。
黙秘権、弁護人と接見する権利、弁護を受ける権利、自白を唯一の証拠として有罪とされない権利、違法に収集した証拠で有罪とさせられない権利、予断と偏見を排除した公平な裁判を受ける権利、等々。

そして刑事訴訟法第一条には刑事司法の目的が書かれています。

刑事訴訟法第一条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。



この目的のため弁護士が行うべき仕事とは、「被告人の人権を守り、被告人の言い分を徹底的に法廷に出す」と言うことなのです。
検察側は被告人を訴追する側で、被告人に不利な証拠を出すという一方当事者です。
それに対し、弁護側は被告人の言い分や被告人に有利な証拠を出す役目を負っている一方当事者です。
被告人に有利な事実もまた「真実」です。

こうして検察、弁護側が互いに対等な立場で存分に言い分を出し尽くすことが「事案の真相を明らかに」することに繋がる、これが我が国の刑事裁判が取っている構造、「当事者主義」なのです。
(刑事訴訟法の基本書には大抵最初に書かれていますので興味ある方はどうぞ)

「確かに本当に無実の人は救うべきだが、大半の本当に罪を犯した連中はさっさと死刑にするのが当然」と言いたい人もいるかもしれません。
しかし免田事件の免田さん、財田川事件の谷口さん、松山事件の斎藤さん、島田事件の赤堀さん(以上過去死刑事件で再審無罪)、名張事件の奥西さん、足利事件の菅谷さん、布川事件の桜井さんと杉山さん、みな最初は凶悪犯だと信じられていました。弁護人が被告人の言い分を十分聞き証拠を精査することで、彼らは実は無実の罪を着せられた無辜の民であることがわかったのです。

光市事件は犯人であることは間違いではないにしろ、「被告人の言い分を真摯に聞き、証拠を精査する」という弁護士としての職責を遂行することによって、弁護団はこの事件は実は殺人ではなく傷害致死ではないかという結論に達したのです。
ですから、光市事件の弁護団がこの事件は殺人事件ではなく傷害致死だ、殺人罪として断罪するのは不当だと主張するのは、弁護人の職責を全うしていると言えるのです。そうでなければ弁護士失格です。
(誤解してる人が多いようですが、弁護団は死刑廃止論の立場に立って被告人である元少年の死刑を回避させようとしているのではありません。「傷害致死」だから死刑は不当だと言っているのです。この事実を知らずして光市事件を論じる資格はないと思います)

ひとつ注意してもらいたいのは、
弁護人はあくまで被告人の立場に立って、被告人の言いたいことを十分法廷で出すのが職責だと言うことです。その言い分をどう判断するかは弁護人の役割ではなく、裁判官の役割です。弁護人の役割と裁判官の役割を混同していけません。
弁護人の職責は被告人の言い分を出し尽くすこと。その言い分が結果的に裁判所に採用されなかったからといって、職責を全うしたこと自体に文句を言われる筋合いはないのです。


だれも犯行現場を一部始終見てきた者はいません。誰も真実を知らないのです。
刑事訴訟は検察、弁護側が言い分を尽くすことによって、真実に近づこうとする場です。
そして「あくまで被告人の立場に立つことによって、被告人の側から真実を照らす」
これが刑事司法における弁護士の使命であり、刑事司法における正義であり、刑事訴訟法第一条の目的に資することなのです。

そして、光市弁護団も名張事件の弁護団も、全く同一のこの使命と信念に基づいて職責を全うしている弁護活動であることを知って欲しいと思います。

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