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「子育てするなら都心か地方か」論と、現代の「血筋」の問題

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   学力や学歴の話になると、都心のタワマンでなければならない必然性はほぼ無くなる*2
 
 MARCHを受験するための学力なら、政令指定都市どころか、人口10~20万人規模の地方都市でもどうにかなる。こう書くと「地方都市でMARCHに入るためには相当優秀でなければならない」といった反論があるだろうけれど、地方都市にはMARCHとは別に地方大学の値打ちがあるため (たとえば関関同立、神戸大学や奈良女子大学、各県庁所在地の国立大学など) 、優秀な学生が皆上京したがるわけではない。
 
 そもそも、都内でさんざん教育投資をして、本人もさんざん苦労を重ねた結果としてMARCHに進学して、それで「地方に比べて子育てに恵まれていた」などと言えるものだろうか。教育投資や都内の文化的アドバンテージを生かし、あまり苦労せず東大や早慶に入学するなら、なるほどアドバンテージだろうけれど、そこまでのアドバンテージを享受している都内のファミリーとは、いったい何%ぐらいなのだろう?
 
 都内でも苦労しなければ東大や早慶に入れないのだとしたら、そんなものは、学力・学歴のアドバンテージだとは私には思えない。子ども自身の素養とファミリーの文化資本がちゃんと揃っていれば、地方の公立進学校からもMARCHは十分に狙えるし、東大や京大や国立医学部だって射程に入る。地方の公立進学校の同窓生のクオリティがそれほど劣っているとも思えない。
 
 学力・学歴の問題にかんする限り、本当にクリティカルなのは都内か地方都市在住かではなく、子ども自身の素養とファミリーの文化資本の程度ではないだろうか。もちろん、地方のなかの地方、過疎な町村部に居を構えていればハンディになるかもしれないが、戦後七十余年のうちに、高学歴志向なファミリーは多かれ少なかれ街に出ているだろうから、メジャーな問題ではあるまい。

「イエ」が無くなっても「血筋」は残った

 ここまで書いてしまったうえでfinalventさんのブログ記事を思い出すと、私は、親から子へ、子から孫へと継承されていくものについて思いを馳せずにいられなくなる。finalventさんは、  

 簡単に言えば、日本の社会は、都心居住者を中心に階層化されていくし、それが世代にわたって固定化されていくのだろうと思う。
 いい悪いでも、どうしたらいいというわけでもなく。
 人生というのはそういうものだ。都心のマンションであれ戸外の一戸建てであれ、離婚すればそれらの資産は整理することになる。離婚はそれほどまれなできごとでもない。また、けっこうな大病するというのも、珍しいことではない。そうなれば、ローンは返せない。それらもまた、現実だろう。

 と書いておられる。
 
 finalventさんは、階層化についてだけでなく、離婚や大病によってファミリーが没落する可能性についても触れている。世代から世代へと経済資本や文化資本が受け継がれていく一方で、没落イベントがいつ起こるのかはわからない。親から子へ、階層を駆け上がることもあるかもしれないが、階層を一代で駆け上がるのは今では困難になっているから、諸資本の継承と階層の浮沈は、個人という一代のスケールで計れるものではないように思う。
 
 個人主義社会が到来し、「イエ」という制度はおおよそ終わったといわれている。確かに「イエ」を意識する人は昭和時代に比べればずっと減った。だけど階層化の進みゆく近未来の日本では、「血筋」というか、現代の資本主義社会に最適な生物学的傾向を継承し、なおかつ、文化的・社会的アドバンテージを蓄積し続けられるかどうかが、親-子-孫のバトンリレーにおいて峻厳に問われるのだと思う。
 
 こんなバトンリレーは、親自身だけの努力でどうにかなるものでも、子の世代で一発勝負できるものでもあるまい。うまくバトンが繋がればもうけもの、繋がらなければペシャンコ、大災害や大事故に巻き込まれてもやはりペシャンコの、シビアな、けれども当たり前といえば当たり前の命のバトンリレーなのだと思う。
 
 都内か地方か。
 もちろんそれも考慮に値する問題ではある。
 
 だけど一連のお話を眺めているうちに、そんなことより、親から子へ、子から孫へとバトンリレーされていく諸傾向・諸資本の可否のほうがずっと重要に思えて、4000万円の郊外の家か8000万円のタワーマンションかという選択は、金額によってではなく、諸傾向や諸資本のバトンリレーの可否にどこまで貢献し、どこまで邪魔になるのかを踏まえて決めるべきという気持ちにならずにはいられなかった。
 
 ああそれと、このことに関連して。
 
 「親から子へのバトンリレーは常に上昇志向であるべき」と考えるのは、現代の情勢に即していないと思う。バトンリレーの情勢しだいでは、ときには守勢に回るべき代もあるはずである。20世紀の親子のバトンリレーは、おおむね上昇志向的に思い描かれてきたし、そういう上昇志向は現代でも主流だとは思う。しかし、ときには守勢が最適の代だってあるはずだし、そういう可能性を親子で考える局面だって本当はあっていいはずだ。
 
 物件や土地も、学歴や階層も、儚いものではある。
 その儚いものを懸命に継承していくために、当事者が考え、実行すべき選択肢は無数にある。私は地方を選んだが、都心を選ぶ人だっているだろう。私は、土地や物件の価格よりもバトンのほうを大切にしたい。  

*1:個人的には、東京一極集中といえども地方の中核都市に「それなりのもの」が揃っているのが日本という国の強みだと思う。これが早々に失われた場合、日本のマンパワーの潜在力はかなり低下するだろう

*2:そもそも地上から遠く離れ、人工的環境に覆い尽くされたタワーマンションという特殊環境が子どもの認知形成にどのような影響を及ぼすのか、私個人は疑問を禁じ得ない。が、それはここでは於く

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