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《密着スクープ連載》大船渡佐々木は「投げたい」「みんなで甲子園に行きたい」と打ち明けていた ”令和の怪物”はなぜ甲子園に行けなかったのか #3 - 柳川 悠二

《密着スクープ連載》大船渡佐々木の登板回避 4回戦で194球を投げさせた國保監督の「迷い」 から続く

 大船渡・佐々木が甲子園のマウンドに立っていたら――甲子園が終盤に近付くにつれて、野球ファンならそう想像せざるを得ない。なぜ彼は岩手県大会で去らなければならなかったのか。春から佐々木投手の密着取材を続ける、ノンフィクションライターの柳川悠二氏が描く、佐々木の登板回避の裏にあった真実とは。

(全3回中の3回目/#1#2へ)

 ◆

岩手大会決勝の先発は4番手投手

 岩手大会の決勝終了直後、優勝した花巻東の監督より数倍の報道陣が國保陽平監督を囲んだ。勝てば35年ぶりの甲子園出場となる岩手大会決勝に、國保監督は佐々木朗希を登板させなかった。4回戦で決勝本塁打を放つなど、4番という主軸を打っていた佐々木を、野手としても起用しなかった。 

岩手大会の決勝の花巻東戦の9回、ベンチで國保陽平監督と話す大船渡の佐々木朗希投手 ©共同通信社

 その結果、2対12と大敗した。國保監督は、佐々木を起用しなかった理由をこう話した。

「故障を防ぐため。ここまでの球数、登板間隔、気温……私が判断しました」

 その時、応援席から心ない野次が飛んだ。

「本気で甲子園に行きたくねえのか!」

 すかさず、監督や大船渡ナインを擁護する、岩手訛りの声も飛んだ。

「やめろー、そんな罵声を浴びせるのはやめろー」

 思わぬ形で耳に入ってきた応援席の口論に、國保監督も動揺を隠せなかった。唇を噛みしめ、報道陣にこう告げた。

「一度、ここで(グラウンドでの取材を)終わって良いですか?」

 この日、國保監督が先発のマウンドに送ったのは、決勝までの5試合で登板がなかった変則右腕の柴田貴広だった。柴田は大会前の練習試合で、とりわけ強豪私立を相手に好投が続いていたという。だが、春からの戦いを見る限り、柴田は4番手に位置づけられる控え投手だった。しかも、左打者が多い花巻東打線に、右下手投げの起用は、いわば定石から外れる采配だった。

 柴田は初回から強打の花巻東打線に捕まり、6回までに9点を奪われてしまう。試合後の柴田は大粒の涙を流し、ひとりで敗戦を背負い込んでいた。

「朗希たちの夢を壊してしまって……申し訳ない」

勝機があるとしたら「30対29のような、打ち合い」

 初回からピンチが続いても國保監督は誰もブルペンで準備させず、2人目の2年生左腕を投入したのは体勢が決した7回だった。

 試合後、國保監督に「勝機があるとしたらどのような展開を想定していたか」――そんな質問が飛んだ。表情を変えず、國保監督はこう答えた。

「30対29のような、打ち合い」

 多くの報道陣は冗談のように受け流していたが、私はとても笑う気になれなかった。「エースで4番」をスタメンから外し、30点取らなければ勝てないと本気で考えていたなら、もはや野球ではない。はなから試合を投げ出していたようなものだ。佐々木を起用しないにしても、他に戦い方があったように思うのである。

「もうちょっと相談して欲しかった」

 試合前に、國保監督は佐々木に先発では起用しないことを伝えていた。だが、投手としても野手としても、起用するつもりがなかったことは伝えていない。それは他のナインに対しても同じだった。それゆえ、大船渡の選手たちは佐々木の登板を信じ、できるだけ負担のない形でマウンドに上げようと、花巻東に食らいつこうとしていた。起用法に関して、選手たちへの説明とコミュニケーションが明らかに不足していた。

 公立の大船渡は84年の春夏甲子園に連続出場し、選抜では岩手県勢として初めてベスト4に進出。旋風を巻き起こした。当時、大船渡の三塁を守っていた父を持つ主軸の木下大洋は「もうちょっと相談して欲しかった」と指揮官に対する素直な感情を吐露し、こう続けた。

「昨日、朗希も129球を投げて、身体に張りがあったとは思うんですけど、朗希が『投げたい』『みんなで甲子園に行きたい』と言っていたんで……やっぱり投げさせて欲しかったというのは正直なところあります」

 準々決勝で先発した大和田健人が、ブルペンに向かったのは5回だった。

「(投手起用に関して監督から説明は)ないです。ブルペンに行ったのも、監督の指示ではなく、自分の意思で準備しました」

 佐々木もどこかで監督に起用の意思がないことを察したのだろう。ベンチでは座りながら声援を送ることが多く、ブルペンに向かうどころか、キャッチボールさえやらなかった。

「高校野球をやっている以上、投げたいという気持ちはありました。(投げられなかったことよりも)負けたことが悔しいです」(佐々木)

佐々木の将来とナインの夢は両立できなかったのか

 決勝までの5試合中、4試合で435球を投げていた佐々木の右腕がどんな状態にあったかは本人にしかわからない。「江川卓以来」とも「数十年にひとりの怪物」とも賞賛される令和の怪物を、登板過多による故障から未然に守ったという点で、國保監督の判断は高校野球に一石を投じる英断だったかもしれない。だが、すべてを独断で決めたのならば、ナインが共有していた甲子園の夢を、指揮官自らが奪ったのと同じである。

 甲子園の歴代最多勝を誇る、智弁和歌山の元監督・高嶋仁氏は「どうこう言える立場にない」と前置きした上で、こう話した。

「僕なら選手の“今”をとる。あそこ(大船渡)の監督さんは“将来”をとった。それだけのことやと思うんです。しかし、選手はそれで納得しているのか。その点が引っかかります。僕やったら、決勝にいたる過程でできるだけ使わないようにして、万全の状態で決勝に登板させましたね」

 準決勝から決勝までの間に、佐々木が右肩や右ヒジの違和感や痛みを訴えていた可能性はあるかもしれない。今秋のドラフトを見据えて、監督と佐々木との間で、肉体の異常を秘した上で登板を回避した――こうした事実が隠されていたのなら、國保監督の迷采配にも納得はいく。しかし、報道陣には明かさずとも、他のナインには伝えても良かったはずだ。

 佐々木の負担を考えるなら、準決勝では温存し、決勝の相手である花巻東戦にぶつける。これが佐々木の将来と、甲子園出場という仲間達の夢を両立させる、唯一の方法ではなかったか。

 佐々木にとって、花巻東は特別な相手だった。成長痛に苦しんだ中学時代、花巻東の佐々木洋監督に紹介された青森のクリニックで、高校時代の大谷翔平も経験したリハビリに励んでいた。

 花巻東からも熱心に勧誘を受け、佐々木は中3の12月頃まで進路を悩んだという。最終的に大谷を育てた経験のある花巻東ではなく、大船渡を選んだのは同じ地元の仲間と甲子園を目指したかったから。それに尽きる。

佐々木が零した「今は……言えないです」

 2年半の高校野球生活でようやく巡ってきた花巻東との公式戦初対決を、佐々木はベンチから見守ることしかできなかった。

「(監督の判断は)ありがたいことだと思います。その分、自分も将来、活躍しなきゃいけないと思います」

 試合後、私は「花巻東ではなく大船渡を選んだことを後悔していないか」と佐々木に質問するつもりだった。しかし、失意の佐々木にはとても訊けなかった。代わりに、國保監督に学んだことは何か――そう質問した。この日、一番長い沈黙のあと、佐々木は言葉を絞り出した。

「今は……言えないです」

 故障のないまま高校野球を終えた佐々木は、次のステップで大成し、本当に球史に残る大投手へと成長するかもしれない。だからといって、数年後、十数年後に、國保監督の今回の英断が正しかったと評価されるのだろうか。

 確かなことは、ひとりの将来を守るために、佐々木だけでなく他のナインの夢を犠牲にしたことだ。國保監督の迷采配に、大船渡のナインが振り回されたようにしか私には見えなかった。

 もしかしたら決勝で登板した以上の傷を、佐々木は胸に負ったのかもしれない。

(柳川 悠二)

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