- 2019年08月19日 20:01
金正恩が罵倒 文大統領演説
2/2「南北統一で日本を追い越す」との幻想演説
文大統領はまた、「われわれの力で分断を乗り越え、平和と統一へ進む道こそ、責任ある経済大国への近道となります。われわれが日本を追い越す道であり、日本を東アジア協力の秩序へと導く道です」とし、「南北の能力を合わせれば、それぞれの体制を維持しながらも8千万人規模の単一市場を生み出すことができます。韓半島が統一を果たすことになれば、世界第6位圏の経済大国になるとの見通しを示しています。2050年頃には国民所得7万~8万ドル時代を達成できるという国内外の研究結果も出ています」と演説した。
どこから引用した「予測」なのかはわからないが、「予測」の具体的・歴史的前提条件が語られていなかった。根拠を明らかにせずに30年後を語るのは、詐欺師か占い師の世界であろう。あと2年余しか任期が残っていない大統領が世界に向かって話すことではない。
文大統領は演説で「それぞれの体制を維持しながらも8千万人規模の単一市場を生み出す」としたが、水と油の南北体制でどうやって単一市場を作り出すのだろうか?魔術を使って幻影を見せることも無理だろう。
また近い将来何らかの方法で朝鮮半島の統一が実現したとしても、人口増加だけで経済が成長するとの考えも単純すぎる。人口が増えても人々の購買力増加がなければ生産も市場も拡大しない。資本主義経済を経験していない最貧国の北朝鮮と韓国が何の前提もなしに統一すれば、一人当たり国民所得は当然縮小することになるだろう。また価値観の違いを克服しないまま統一すれば社会的混乱も生まれる。資本主義を経て統一したドイツですら、いまも価値観の違いに悩んでいる。世界第6位圏の経済大国どころか、反対に現在の経済力すら失う可能性がある。
数字をあげて検討するまでもない。自由民主主義の価値観でほぼ統一され、法に基づく市場経済が盤石に根をおろし、先進技術に基づく世界第3位の経済大国日本を、南北の統一だけで追い越すなどとする発想は幻想以外の何物でもない。
思いもかけない北朝鮮からの痛烈な罵倒
しかし北朝鮮に向けた文大統領の南北協調のメッセージは、なぜか北朝鮮から罵倒として返ってきた。北朝鮮の対韓国窓口・祖国平和統一委員会は8月16日に発表した談話で、文大統領を「南朝鮮当局者」と呼び、「泰山鳴動して鼠(ねずみ)一匹という言葉がある。まさに南朝鮮当局者の“光復節慶祝の辞”というものを指してそうだと言える」とした。
そして「島国一族(日本)から受けるさげすみをすすぐためのはっきりした対策や、つぶれていく経済状況を打開するこれといった方案もなしに弁舌を振るったのだから、“むなしい慶祝の辞”“精神スローガンの羅列”という評価を受けて当然である」とこき下ろした。そして「部下らが書いてくれたものをそのまま読み下す南朝鮮当局者がとても笑わせる人であることだけは間違いない」と文大統領をあざ笑った。
さらに北朝鮮は、「ゆでた牛の頭も天を仰いで大笑い(仰天大笑)する」「本当に見るもまれな厚かましい人間だ」とののしった。演説直後、日本海に向けて新型短距離弾道ミサイル2発も発射した。5月以降8回目の発射となる。
この対応にはさすがの文大統領も驚いたことたであろう。北朝鮮からの色良い反応を期待していたからだ。また文大統領は金正恩に対して「若いが非常に正直で淡白であり、落ち着いた姿を見せた。年長者を尊重し非常に礼儀正しい姿も見せた」と宣伝していただけに、祖国平和統一委員会からこのような罵倒を受けるとは夢にも思わなかったと思われる。
それにしても北朝鮮が「金正恩第1主義」で突っ走り、北朝鮮政権擁護で一貫してきた文在寅大統領を、なぜここまで罵倒するのか?その本音がどこにあるかは、今の所詳しく把握できていない。多分大口を叩いて開城工団再開や金剛山観光再開、そして南北鉄道の連結を約束したにもかかわらず、米国からの制裁が怖くて、800万ドルの人道支援と5万tの食糧支援でお茶を濁そうとしたことに対する怒りかもしれない。
またハノイ米朝首脳会談の失敗を文政権に責任転嫁するためではないかとの観測もある。ハノイで失った金正恩のメンツは今も完全に回復できていない。多くの幹部を粛清する破目となり、統一戦線部と外務省の立て直しもいまだにできていない。こうしたことがすべて文大統領の二枚舌のせいだとして怒りをぶちまけているのかもしれない。
そうした一方で、米朝会談を前にした戦術ではないかとの観測もある。また短距離ミサイル発射も会談を前にした駆け込み実験ではないかとする見方もある。金正恩の思惑がどこにあるかを押し測るにはもう少し時間がかかりそうだ。
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