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毎日心地よく暮らす人の脳は危険な状態にある

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 「毎日、心地よく暮らすことが理想だ」という人がいる。だが、脳科学者の茂木健一郎氏は「そうやってルーティンを繰り返し、決まった脳の回路ばかりを使っていると、脳だけでなく人生も固まってしまう」と指摘する――。

※本稿は、茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/DragonImages

長期記憶とIQの高さは関係ない

 記憶には、「長期記憶」と「短期記憶」の二種類があります。

 前者は、海馬を使って形成される記憶で、文字どおり、何カ月、何年という長い間、頭の中に保存されている記憶です。後者は、主に前頭葉が司るもので、数秒から数分というほんの短い間だけ保存されている記憶です。

 ここでみなさんに質問です。いわゆる「頭のよさ(IQ)」と言われるものは、長期記憶と短期記憶のどちらに関係していると思いますか。こうたずねると、多くの人が前者、長期記憶と答えるのですが、そうではありません。

 どれくらい多くの長期記憶を貯えられているかには、IQと関係していないことがわかっています。確かに、IQが高い人は、頭の中にたくさんの知識を貯えていることがあります。だからと言って、たくさんの知識があっても、IQが高くなるわけではないのです。

「思い出す」ができないと記憶を使いこなせない

 いわゆる「頭のよさ」に関係するのは、短期記憶だと言われています。短期記憶とは、前頭葉という脳の司令室にある、スクリーンのようなところに、今この瞬間にどれだけのことが同時に映し出されているか、だと考えることができます。11桁の電話番号を聞いて、メモする間だけ覚えていて、メモし終わったら忘れてしまうというのがそれにあたります。

 「頭のいい人」というのは、話をするとき、それまでの自分が話してきた内容を、前頭葉のスクリーンに映し出して、はっきりと見渡すことができていて、そのうえで次に何を言うかを決められるために、筋の通った面白い話になります。前頭葉のスクリーンにほんの少ししか映し出されていなければ、前の話と今の話のつながりが見えない、支離滅裂な話になってしまうことでしょう。

 長期記憶として、側頭連合野を中心とする大脳皮質にいくらたくさんの記憶を貯えることができていても、折に触れて前頭葉に引き出して、現実世界に参照する訓練をしていないと、記憶という宝をうまく使いこなすことはできません。「思い出す」つまり、記憶を引き出してきて現在の状況に照らして、編集するから、その宝を活かすことができます。思い出すことがどうして大事かを、脳の仕組みから理解していただけたでしょうか。

「脳が危険な状態」かを5項目でチェック

 自分が培った記憶を必要なときに思い出せるかどうかをチェックするリストがあれば、自分の脳の状態を判定できます。それを判定する材料として、「こういう状態になっていたら危ない」というチェックリストを用意しました。あなた自身、いくつか当てはまるものがあるでしょうか。

1.毎日つつがなく暮らしている感じがする

 意外に思うかもしれませんが、心地よく暮らしている感じがするときは、あなたは自分の人生を自分で導いているとは言えません。「最近、人生に力を入れる必要がなくなった。スムーズにものごとが運ぶようになって、心地いいな。平和だな」という凪(なぎ)の状態は、ルーティンを繰り返し、決まった脳の回路ばかりを使っていて、人生が固まってしまっているということです。

2.忙しすぎる

 忙しくしていればいいのかというと、それも1と同じく危険です。忙しいのは、仕事であれ、家庭であれ、忙しい原因となっている、単一の回路ばかりを使っていることが多いからです。

3.最近不安になったり、ドキドキしたりしたことがない

 不安になったり、ドキドキしたりしたことがないということは、新しいものに挑戦していない、新しい状況に遭遇していないということです。これも一つの危険な兆候になります。自分で自分の人生を導く、自分の欲求に従うのは、正解がないことですから、もともと不安に感じるものなのです。

4.他人の望みに「何でもいいよ」と言っている

 「どこに行きたい?」「何食べたい?」と聞かれて、「何でもいい」「どこでもいい」と答えてしまっていたら、これも、自分の脳の欲求に気づけなくなっている証拠です。「こういうレストランがあるけれど、どう?」という提案に対して、「別にいいよ」と吞み込むだけになっているなら、自分の欲求を抑えてしまっているか、自分から望むことがなくなってしまっているのかもしれません。

5.同じものごとを繰り返す

 大好きな音楽、大好きな映画、大好きな本に繰り返し戻っていくのは、もちろんよいことです。大抵「古典」と呼ばれる作品は、何度観ても聴いても、新しい発見があって、学びがあるものです。ただ、そのようにすでに自分が好きだとわかっているものの中だけで、生活を営むようになっているとしたら、実は、好奇心を失ってしまっているか、自分の欲望が見えなくなってしまっているのかもしれません。

 これら5つのうち、当てはまるものが多ければ多いほど、「思い出す」機能が弱っていると言えるかもしれません。

 ではもしあなたの脳の思い出す機能が弱っているとしたら、どうすればいいのでしょうか。その方法を次にお話ししていきます。

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