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貧困が空を覆う前に

今から10数年前、突如として司法試験改革が断行され、それまで500〜700名程度であった合格者数が突如として3000人を目途とされることになった。その時に、大変な時代が来ると予感し、周りの弁護士たちに説いて回ったが、心配するものはほとんどいなかった。それから5年もしないうちに過当競争が目に見えるようになり、「プラチナ資格がただのペーパーに」という記事がアエラだったか週刊朝日だったかに掲載された。弁護士の平均年収は格段に下がり、ロースクールの人気はあっという間に下火になり、今や閉鎖されるところが相次いでいる。友人のひとりが、あの時に心配していたのは先生一人だったね、と呟いたのが印象に残っている。

 さて、何を言いたいかといえば司法試験改革や弁護士の貧困ではない。人口予測ほど当てになる未来予測はなく、どんなに不都合な予測であっても、その予測は当たってしまう、ということだ。

先の例で言えば、一年あたりの合格者が何人だったら、弁護士数は何人になるという計算はすぐに出来る。一方で、顧客数は一定なので、業者数が倍になれば売り上げは半分に減る。

これと同じことが成り立つのが、将来の年金予測を始めとする社会保障や財政の問題。この予測(年金財政検証)についてはあまり注目されていないが、平成26年版でさえも深刻な内容。そして本当なら7月の参院選前にも公表できたはずの本年度版年金の財政検証が未だに提出されないところを見ると、相当不味い内容なのかもしれない。

先の年金2000万円問題で、高齢者年金暮らし世代が平均的に月5万円預金を取崩して生活していることが話題となったが、それでも現在は所得代替率は60%(ただし、現役世代の手取り収入と年金暮らし夫婦合計の年金額(こちらは手取りではなく収入額)を比べるいう不可思議な比率)をキープしている。しかし、平成26年の財政検証では、将来も現在の低成長が続き賃金や物価が上昇しない経済状況が続いた場合、そのままマクロスライドで年金を低減すれば、将来的に所得代替率は4割を割り込む(平成26年財政検証結果Hケース)。

5割を割り込むことになった時点において、それでもマクロスライドを実行するか否かはその時点で検討することになっているが、仮に5割を維持しようとすれば多額の財源が必要となる。しかし、そのような経済状況(Hケースのような低成長)において急に財源が出てくるとも思えない。現在に置き換えれば夫婦2人で月10万円代前半から半ば程度の収入で暮らすことになるが、持ち家であればなんとか出来る程度、家賃支出があれば相当苦しいものとなろう。

私は、弁護士として多重債務者の方の生活指導(日計表と月計表を基にした毎月の面談)も日頃行なっている。だから、その収入での暮らし振りが相当厳しいものとなろうことは、現在の相対的貧困層の方のレシートからリアルに想像できる。

 日本はここ30年が勝負。30年後に向けて人口構成が大きく変化し、そして平衡に達する。15〜64歳人口は現在全人口の60%程度を占めているがこれが50%程度にまで低下する。65歳以上人口は30%程度が40%程度まで上昇する。いわゆる現役世代人口と支えられる人口との割合は、差し引き20%もの大きな変化が起こる。だが、そこで安定する。


全人口の4割も占めるようになる高齢者世代の暮らしをどうしていくのか。その世代の多数が相対的貧困に陥るようなことにでもなれば社会の様相は様変わりしてしまうだろう。

 今ならまだ30年ある。その時に備えてどのような社会を構築していくのか。

ギャンブルのように財政冒険主義を冒し続け、経済成長の夢を追い続けるのか?

それとも平均寿命が伸長し、それに伴い人口減少が起きるという世界的傾向(アメリカ、フランスのような移民国家は例外)を素直に受け入れ、持続可能な社会制度の構築を目指すのか?

私は、安倍自民党や、山本太郎氏のれいわ新撰組は、赤字国債の増発を厭わず、効果のない財政拡張により経済成長を目指している点で、政策的には同類、財政膨張主義であって未来へのリスクを増大させるものだと考えている。

しかし一方、野党においても現実を見据えて成熟した国家を目指すべきというビジョンを持った政党は見当たらない。立憲民主党が参院選の結果を踏まえ国民民主党に統一会派結成を呼びかけている。先の党首会談に関する報道からすればその帰趨は不明朗だが、仮に統一会派結成、そして新党ということになったとしても、単に「安倍政権打倒」のための集団となるのだとすれば、もう一度民主党が出来るだけだ。そこを超えて、目に見えている未来から目を背けることなく、真の対立軸を国民に提示する政党が形成されなければ、国民が信を寄せることはないだろう。

30年という時間は長いようで短い。このままの政治状況が続くことは国民を貧困の危機に陥れることに直結する。

成熟した国家にふさわしい成熟した政策本位の対立軸。無いのであれば作っていくしか無い。

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