- 2019年08月18日 11:15
"ザ・日本企業"が外資と提携、どう変わったか
2/2■チームリーダーになったとたん妊娠が発覚
ロシュ社との提携による経営戦略以外に、中外製薬の強みは何といっても「技術力」だ。ひと口に“薬”といっても、ジェネリック医薬品を含む低分子薬、バイオテクノロジーを駆使した高分子薬、そして中外製薬が“新たな創薬の柱”としてオリジナル技術を開発中の中分子薬がある。その研究者の1人が、小嶋美樹さん(38歳、入社11年目)。工学部と大学院でタンパク質工学の博士課程を修了して入社、中分子技術の立ち上げに携わる。そしてやっと“薬になるかもしれない”という製品化に向けたチームのリーダーになった矢先の第1子妊娠。

「妊娠したのが30代半ば。ここで産んでおかないと、という気持ちがある半面、研究者としてこれからというときだったので複雑でした。けれど同じチームに子育て中の先輩がいて悩みを共有できたし、上司と相談して違うリーダーに業務を引き継いでもらいました」
産休、1年半の育休を経て、時短勤務で職場復帰した。しかし自分がいなくても仕事は回っていくのだと、少し疎外感に陥ったそうだ。しかし組織とは本来そういうもの。誰かがいなくなれば他の誰かがその役割を担い、業務は継続される。そうでなくては組織として成立しない。スペシャリストの研究職であっても、だ。
「以前は、この機械はこの人じゃないと使えない、みたいな職人かたぎな面があったんです。でも、技術は日進月歩だし、誰もが使えるような仕組みじゃないと効率が悪い。だから私は、働き方をシフトチェンジしないといけないなと」
根っからの“リケジョ”である小嶋さんだが、研究に没頭し国内外の学会に頻繁に出席するステージから、業務全体を俯瞰(ふかん)するマネジャー的なステージに移行しようと決意する。
「夜遅くまで研究する生活はもうできないし、最先端技術を学べる海外の学会に当分行けそうもありません。研究結果を自分で出したい欲もありますが、それはある程度若手に任せたほうがいい。出産と子育てによって、私は私でやるべきことがあるはずだとリセットできました」
職場復帰後“居場所がない”と感じたが、すぐに技術開発のリーダーを任され、第2子を妊娠。この冬から2度目の産休と育休を迎えることになった。
「1度経験したので、今回はあまり不安がありません。育休明けにも、またなんらかの仕事があるだろうと楽観視しています」
育休明けの女性社員には、職場復帰後の働き方について上司と話し合うための面談シートを準備。その上司には、性別を問わない育児休暇への対応など、多様なマネジメントについてのハンドブックを配布している。“子育て”は当事者だけが抱えることではなく、部署や会社全体の課題だとの意識が高まっている。
■中外製薬との統合後、人財育成部への異動
現在会社全体で女性管理職の比率は約13%。その1人である高野香奈子さん(40代、入社19年目)のキャリアのスタートは、ロシュ社の子会社だった日本ロシュ社(当時)の派遣社員。その後正社員になり、中外製薬との統合後、人財育成部への異動を経験。

「実は1度転職しようとしたことがあります。相談した転職エージェントに『今の職場で“やりきった感”はありますか?』と問われ、そうじゃないと気づいて。現状の転職は“逃げ”だと思い、会社でやれることは何かを考え直しました」
その後高野さんは「社内公募制度」を利用して調査部に異動し、17年に管理職登用試験に合格。18年の秋にグループを統率するGMになり、着実にステップアップしている。
この社内公募制度とは、部署ごとの人材募集が社内イントラ上に公開され、その部署に行きたい人は非公開で応募できるというもの。書類選考や面談を経て合格すれば希望先の部署に異動できるので“社内転職”と言ってもいい。高野さんのきめ細かな分析能力を買っていた女性上司が、公募への背中を押した。
調査部では、薬の開発を進めるのかストップさせるのか、その判断材料を集めて調査し、正確な報告を部長やユニット長に提出する業務に就いていた。冒頭の通り、薬には開発から発売までに莫大(ばくだい)な資金と、臨床試験や非臨床の実験などで長い長い時間が必要だ。良い薬であっても、採算が取れないなら、早々に開発から撤退しないと会社に大きな損失を与える。調査部が出す判断材料は、ときに人の運命をも左右する。高野さんの先輩アナリストが、ある開発プロジェクトの中止資料を提出したため、当該プロジェクトのリーダーが会社を去らざるをえなかった。

■枠にはまらない、自由な管理職を目指して
「プレッシャーは確かにあります。でも、いろんな人とディスカッションして合意形成していくプロセスは、満足度が高い。若い世代に仕事の楽しさを伝えたいし、可能な限り“笑い”が起こるような職場にしたい。また、自分が仕事を何もかも引き受けるのではなく、若手社員が自律的に働けるようにしていきたいです」
中外製薬では性別、LGBT、ハンディキャップ、国籍問わず雇用を推進している。このような多様な雇用は、シニア社員でも進みそうだ。たとえば、全社員が55歳になった時点で、そこで辞めるか、通常通り60歳で定年を迎えるか、1度退職し、以降の給与は下がるが65歳まで定年延長(雇用満了時の退職金はなし)するかの「3択」をする。長く働き続けたいなら定年延長をしてもいいし、在職中から別の職業を探してセカンドキャリアを模索してもいい。積極的ではないが、申告制で「副業」も認めている。
会社任せではなく、人生の節目節目で自らが決断をする。それが良い会社員人生を全うすることにつながるのだろう。

(東野 りか 撮影=神ノ川智早、アラタケンジ)
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