記事

「表現の不自由展・その後」で「天皇を燃やした」と攻撃されている大浦信行さんに話を聞いた

2/2

日本人そして自分自身にもある「内なる天皇」

篠田 「表現の不自由展・その後」の会場での感想は、「平和の少女像」は意外と好意的に見られていたようですね。『週刊新潮』によると「温かい気持ちになった」といった感想が多かったと言います。あの少女像は日韓の対立の中である種のシンボルになってしまったため、今回、一斉に反発が起きたわけですが、そういう政治的文脈を抜きにして会場で見た人の感想は違っていたわけですね。もともと少女像が問題になっていることはニュースで見たことはあるでしょうが、少女像そのものをほとんどの日本人は見ていないでしょうから。

 でも大浦さんの動画については、産経新聞によると「不快だ」「悪意に満ちている」という感想が多かったという。もちろんこれも産経新聞だから、記者が先入観を持って取材している可能性は大きいですよね。8月11日付の大きな記事だと、見出しが「不自由展 作品に『不快』批判」ですからね。明らかに一定の方向性を持って記事を書いている。

 ただ、日本人の中に、天皇に対する一定のイメージがあるから、反発する人がいた可能性はありますよね。

大浦 「不快」ですか。でもじっくり見てくれれば、従軍看護婦の話なんて胸を衝くでしょう。戦前はみなお国のために死んでいくという考え方を吹き込まれて育ったわけじゃないですか。その一人一人の内側に抱え込まれた「内なる天皇」ですよね。それを自分の中で意識した時に燃やすという行為が出てくるわけです。だから「祈り」なんですね。

 それは映像に出てくる特攻隊の人たちも同じだし、靖国の空に舞っている慰安婦たちも同じですよね。あの人たちも皇民化教育を受けてきたわけだから。その「内なる天皇」を見つめようということなんです。

 もともとは僕自身の「内なる天皇」を見つめようというのが一連の作品のテーマなんですが、この映像では従軍看護婦の女性にそれを託しているのです。『遠近を抱えた女』は1時間40分の映画ですが、その女性のシーンがほとんどです。

篠田 映画はもちろん公開されていないわけですが、今回の動画でさえ見ないで攻撃している人が多いわけですよね。会場で見た人だって、展覧会の会場で流れっぱなしの映像だから、じっくり見てテーマを考えるといったことになっていない可能性がありますよね。

大浦 本当は映画館でじっくり見ようという意識で見てもらったほうがよいとは思います。美術展で映像を流すというのは、どうしても断片的に見るから、燃えているシーンだけが印象に残って誤解されるかもしれないですね。一応テーマをひもといた解説も会場にはあるのですが、そこまでじっくり見ない人も多いですよね。

篠田 ネトウヨの人がそこのシーンだけを拡散して煽ったりすると余計誤解されますよね。

大浦 そこだけ見ると、反天皇のプロパガンダだという間違った見方をされる恐れはありますね。実際は全く違うんですが。

 そもそもそういうものだったらプロパガンダではあっても、多様性を持った「表現」にはならないですよね。

今回の中止事件を大浦さんはどう受け止めたか

篠田 今回の中止については大浦さんはどう受け止めておられるのですか?

大浦  「表現の不自由展・その後」のコンセプト自体は、僕は良かったと思っています。津田さんがそれをやろうとしたこと自体は評価すべきと思っています。ただそれが3日で中止になってしまったことは本当に残念です。

今、海外の作家たちが抗議して作品を撤去したりしていますが、日本の作家も、自分の展示物を拒否して抗議のメッセージを貼りだすとか、もっと意思表示をすればよいと思います。日本の美術家ってあまりそういうことをやらないでしょう。ばらばらですよね。

僕は以前、2014年に光州ビエンナーレ展で韓国の作家ホンソンダムが朴槿恵政権批判だという理由で展示拒否された時、それに抗議して自分の作品を撤去して、壁に抗議文を貼り付けました。日本の作家でそういう意思表示をする人ってあまりいないですよね。

 インタビューは以上だ。

 大騒ぎになっているにもかかわらず、作品を実際に見ている人はわずかで、攻撃している人自身も作品を見ていないというのが現状だ。あるいは長い作品の1シーンのみを取り出して問題にしている人も多い。芸術作品がこんなふうに扱われ、中止に追い込まれるというのは不幸としか言いようがない。そこで8月22日、私たちは多くの当事者をまじえて議論する場を設けた。「表現の不自由展・その後」時間や会場などは以下の通りだ。ぜひ多くの人が参加して一緒に考え、議論してほしい。

緊急シンポ!「表現の不自由展・その後」中止事件を考える

8月22日(木)18時15分開場 18時30分開会(予定) 21時終了

文京区民センター3階A会議室 

第1部 出品していた美術家などによる「何が展示され何が起きたのか」

第2部 「中止事件をどう考えるのか」 会場からの発言 金平茂紀(TVジャーナリスト)/香山リカ(精神科医)/他

詳細は創出版のホームページをご覧いただきたい。予約もsその画面から受け付け中。

https://www.tsukuru.co.jp/

 前述した近著『皇室タブー』で詳しく書いたが、1961年、小説『風流夢譚』に対する攻撃がエスカレートし、中央公論社社長宅に押し入った右翼が家人を殺傷する事件が発生した、いわゆる「風流夢譚」事件である。今の言論表現をめぐる風潮は、一歩間違えるとその時の空気と同じものになりかねない。これまで皇室表現をめぐってどんな事態が起きていたか。大浦さんの事件を含めて拙著『皇室タブー』を参照いただきたいと思う。

※新刊『皇室タブー』篠田博之著/創出版刊

※Yahoo!ニュースからの転載

あわせて読みたい

「あいちトリエンナーレ2019」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    時代遅れの感が否めないほど低画質なサブチャンネル放送 NHKの五輪中継に苦言

    諌山裕

    07月31日 15:52

  2. 2

    バッハ高笑い!?東京五輪「やってよかった」が77%も!

    女性自身

    08月01日 08:42

  3. 3

    コロナはインフルエンザ程度?インフルエンザで死ぬかと思った24歳の時の話

    かさこ

    08月01日 09:14

  4. 4

    資格と能力は違う?資格や履歴書が充実していても使えない人材多い日本

    ヒロ

    08月01日 11:28

  5. 5

    新型コロナ感染者数が過去最多も 病院のひっ迫状況を強調するだけの尾身茂会長に苦言

    深谷隆司

    08月01日 17:19

  6. 6

    次の総選挙結果は「与野党伯仲」ー〝真夏の白昼夢〟を見た/8-1

    赤松正雄

    08月01日 08:31

  7. 7

    感染者4000人超に マスコミは五輪報道からコロナによる医療崩壊報道に切り替えるべき

    早川忠孝

    07月31日 17:57

  8. 8

    五輪の「祝賀モード」は選挙で政権に有利になるのか?減り続ける菅総理のポスターと自民党の焦り

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    08月01日 11:04

  9. 9

    どうして日本から敢えて海外移住するのか?

    内藤忍

    07月31日 11:03

  10. 10

    「日本人の給料はなぜ30年間上がっていないのか」すべての責任は日本銀行にある

    PRESIDENT Online

    08月01日 16:13

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。