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韓国優遇除外「出口戦略授けた」猪口邦子参議院議員

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©Japan In-depth 編集部

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・韓国の輸出管理の不備について、戦略物資の流出の審議をめぐる水掛け論やWTOへの提訴ではなく、当局間協議が必要。

・日本は、韓国の国内法整備が遅れたのは、戦争と南北分断の結果だと認識すべき。

・韓国の輸出管理改善、北朝鮮のNPT復帰、朝鮮戦争の終結は、東アジア・世界にとって共通の利益。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47463でお読みください。】

元徴用工への賠償をめぐる問題や、日本政府の対韓国輸出規制の問題で、日韓は対立を深めている。両国関係の現状と展望について、猪口邦子参議院議員に編集長安倍宏行が聞いた。

猪口氏は、国際関係・安全保障の専門家。軍縮会議の日本政府代表部特命全権大使、議長を歴任した。また、7月26日にワシントンで開かれた第26回日米韓議員会議では、日本議員団の団長を務めた。日米韓議員会議は2003年から毎年2回開催されている。

・日韓関係の現状と「ホワイト国」

まず安倍編集長が日韓関係の現状に対する認識について聞いた。これに対して猪口氏は「現在、大きなテーマとなっているのは、輸出管理だ。韓国は、ホワイト国リストから今度の閣議決定をもって外れる。」と述べた。

(注:8月2日、日本政府は「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。また、経済産業省は同日、「ホワイト国」という通称を廃止した。輸出管理の実態に応じた区分を、「ホワイト国・非ホワイト国」から「グループA・B・C・D」に改めた。)

ホワイト国は27か国あり、韓国は2004年にこの指定を受けた。指定国は、輸出管理において手続きが簡素化される。ホワイト国に指定されることの意味について聞くと猪口氏は、「『日本からの輸出で安全保障上重要なものが渡ったとき、あなたの国が同水準の輸出管理制度を持っているので、安心して輸出できます』ということだ。個々の企業の輸入について手続きが簡素化される」というメリットがあると述べた。

一方でホワイト国リストからの除外について誤解もある、とした上で、「(ホワイト国の指定を)外れるということは、輸出禁止になるということでは全くない。」と述べた。

一方で、「韓国の企業が貿易を申請する時、全部個別に審査しなくてはならなくなる。輸出はするが手続きがより細かくなるから、貿易の量的な部分に影響がでる可能性がある。」と述べ、対韓国輸出について一定の影響はあるとの見通しを述べた。

「ホワイト国」制度の意義について猪口氏は「目的は冷戦期にさかのぼる。ココム、チンコムといった制度(注)の流れの中にあって、安全保障上機微なものが東側陣営に流出しないようにするという発想から来ている。冷戦が終わって何十年も経つ(現在では)、テロリストらに(安全保障上問題のある物資が)渡らないようにする、という考え。輸出管理の制度は安全保障のひとつの軸をなしている。武器が製造できなければ戦争能力もそがれていく。」とし、「ホワイト国」制度はあくまで自由主義社会に対するテロリストらの攻撃を未然に防ぐために作られたものであることを説明し、その意義を強調した。

(注:ココム=COCOM=Coordinating Committee for Export to Communist Area=対共産圏輸出統制委員会

チンコム=CHINCOM=China Committee=対中国輸出統制委員会)

▷自由貿易体制と輸出管理

猪口氏は戦後の貿易体制について3つの大原則がある、と説く。それが、「自由、無差別、多角主義」だ。GATT( General Agreement on Tariffs and Trade:関税貿易に関する一般協定)から始まり、今のWTOの基本思想原則である。

猪口氏は、「WTOを通じてこの自由貿易体制を推進できるのも、各国が輸入管理の問題に対応できているからだ。つまり無差別原則だから、お宅の国は機微な物質の輸出管理が不十分なので、輸出するにはものすごいハードルを課しますよ、という考え方をWTOはとらない。例えば安全基準を設けて、『あなたのところで作った缶詰は衛生基準が十分でないから輸入しませんよ』といったことは無差別主義に反する。」

猪口氏によれば、安全保障上の要素については、輸出管理という別レジームできちんとコントロールしている。1つは、Nuclear Suppliers(ニュークリアサプライアーズ)という、核分裂性物質に関する輸出規制のグループ。もう一つは化学兵器禁止条約に関わる輸出規制のオーストラリア・グループ。もう一つはミサイル技術つまり運搬手段に関する輸出規制のグループ。ここまでが大量破壊兵器系。最後の4つ目が、最近より重くなっている、ワッセナーグループ。通常兵器の技術および物質に関する輸出管理の体制である。

「安全保障上の要素についてはこの4つの輸出管理という形できちっとコントロールしている。だから、自由貿易体制は、自由、無差別、多角主義の下で安心であるということをみんなに理解してもらいたい。」

▷日本の主張

では日本はどう主張すればよいのか?猪口氏は、「自由貿易体制を維持するということが大前提であって、その上で安全保障上の懸念があるということ」を主張すればよい、と主張する。

猪口氏によると、韓国の輸出管理制度がしっかりしており、日韓の当局間のコンフィデンスがあれば何の問題もないが、今、日本側から見てそれが崩れた状態にある。具体的には、輸出管理の法律、細かい通達事項、ガイドライン、日本から輸入したものを再輸出する時の管理の仕方などの制度が不十分だという。

「そうした制度が回復するまでの間、ホワイト国リスト国から外して、個別の企業の輸出入の申請があったとき個別に見なくてはいけないという、煩雑な手続きのプロセスに入るということ。」

写真)猪口邦子氏
©Japan In-depth編集部

▷韓国の対応

こうした日本の対応に韓国政府は、日本の対韓輸出規制強化について、国際的な貿易ルール違反とみなし、WTOに提訴することを検討している。これは根本的に間違っていると猪口氏は断じる。

「WTOに提訴するのは矛先が違っている。自分たちの制度が完璧に流出を防ぐ水準になっていると日本の当局を説得するのが、本来正しいやり方だ。」

ホワイト国リスト国に指名するのも外すのも、日本の主権の中の完全に自己完結した権利だ。それはどこの国際機関に持っていっても意味のないことであり、日本の当局を説得して、コンフィデンスを見出せれば、閣議決定においてリストに追加することが可能になる、と猪口氏は解説した。

「日本はインター・オーソリティ・コンサルテーション(Inter-Authority Consultation)をやろうとずっと(韓国に)持ちかけている。ホワイト国リスト国から韓国を除外すると言う事は、日本の全く想定外だった。インター・オーソリティ・コンサルテーションとは、日本では『事務レベル協議』と言うが、この訳は間違い。『当局間協議』と訳さなければいけない。しかし、この『当局間協議』、ドタキャンを含めて、結局3年間1度も開催されていない。それなのに韓国は、『今年の3月に突然協議をしようと言って、うまくできなかったからといってホワイト国リスト国から外すとは何事だ』と言う。そんなわけないでしょ、と。間違った事実で戦ってもだめよ、ということ。」

▷「第26回韓日米議員会議」での対話

経済産業省は、ホワイト国から韓国を除外する理由の一つとして「韓国に関連する輸出管理を巡り不適切な事案が発生した」ことを挙げた。このことが、「韓国から危険国に軍事転用可能な物資が流出されたか否か」という論争を生んでいる。

「私は経産省が、今回どういう事実をつかんで、韓国をホワイト国リストから外すことにしたかは問い詰めていない。日本側の戦い方はあまり賢くない。そこに入り込んでいくと、水掛け論になって交渉の出口がなくなる。韓国側は、そんな事実はないと言うに決まっている。日本側も完全証明をしきれない。100歩譲って証明できて、ホワイト国リストから外すことが正当化されたとしても、出口はない。私はチーフネゴシエーターをいくつもの協議で務めてきたが、常に大事なのは、出口をどこに置くかだ。」

猪口氏が韓国議員団に述べた要旨は以下の通り。

・私は当局ではないから、インターオーソリティコンサルテーションはできない。ただ与党の1議員として、1日も早く韓国がホワイト国リストに戻ることを希望する。それが出口だ。

・日本と韓国は共通の利益がある。ミサイル技術や化学兵器技術などがテロリストの手に渡ったりすることは、日米韓共通の利害事項だ。(韓国の輸出管理強化とホワイト国への復帰は)与野党関係ない共通の利益である。

・そのためには、日本のオーソリティと一緒にコンサルテーションのテーブルにつくこと。そして、韓国側の制度のどこに不備があって、日本が嫌疑をかけているのかを聞き取ること。日本の主張が正確さに欠けるのであれば、その段階でそれを言えばいい。流出したかしていないかと言うよりは、制度が完璧であることを日本のオーソリティに示すことができればいい。制度が十分でないと指摘を受けたら、日本が納得するような制度を直ちに導入すればいい。紙ベースで協議できるレベルの問題だ。

▷「出口」に向けて日本のとるべき態度

「韓国は日本を甘く見ていて、日本に対して何をしてもいいと思っている」「物理的な痛みを与えて、知らしめる必要がある」という考えを持つ与党議員もいる。しかし、猪口氏はむしろ「知的な手助け」が必要だと述べた。

「まず、相手の制度に不備があると教えなければならない。僭越な言い方かもしれないが、知的にやり方を教えて差し上げるということ。」

猪口氏は、冷戦期のアメリカから見た日本の輸出管理の甘さを例に挙げた。1980年代に起きた日米間の外交問題、「東芝機械ココム違反事件」がそれだ。潜水艦のスクリューをつくるのに使われる日本製の工作機械がソ連に輸出され、アメリカ政府がココムの規制違反として非難した。

「そういうことを通じて経産省は学んだ。だから(日本の)貿易管理は、技術的に長けた人たちが輸出管理体制を守って、不動の信頼を得ている。少なくとも韓国と緊密に話し合う準備のあるベストプラクティスを持つ国(が日本)。私は、そこまで韓国のためにやってあげる決意がある当局を他には知らない。だから、韓国は今の(経産省の)貿易管理部長とちゃんとした仕事をすれば、今度は他の国を教える立場に立つ(ことになる)。」

「物質(軍事転用される恐れのある戦略物資)が自由貿易の枠の中で、自由に不特定に無差別に(流通する)。それは子々孫々のためにならない。(それを防ぐ)システムがあることが、グローバル化する貿易の自由の安全弁になる。外側から仲間を増やして行かねばならない。そういう時に日本が支柱になったら、それが1番日本が尊敬される瞬間だ。そう言われなくても、韓国はいい加減なことを日本にしない国になる。」

「これによって、韓国もより安全地帯に逃げ込んで行く。そして東アジア全体が永久平和の地域に一歩近づく。韓国と日本が手を携えて危険物質の輸出入を管理することがきちんとできなくて、どうやって今後、この地域の不拡散体制を確立してくのか。」

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