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社会保障と税を考える(12.日本の医療、介護の規模は小さすぎる)

 2か月以上放置していた社会保障と税の連載、ようやく再開します。
 今後はあまり放置せず、一気に書き上げます(←無謀)。



 2か月前までの議論を復習すると、

・プライマリーバランスの黒字化のため、支出カットと増税を合わせ20兆円が必要
社会保障以外の支出カットは、3~4兆円が限界
年金は破綻せず継続できる(そのための給付減と負担増は上記20兆円の計算に織り込み済みで、20兆円の一部を埋められるような抜本改革はデメリットが大きい)

 今回からは、医療・介護といった福祉サービスの現物給付について。

 結論から言うと、
日本の医療・介護の規模は小さすぎる。もっと負担を増やして拡大すべき
需要に任せて拡大するのは経済がもたないので、抑制が必要。その選択肢は……
という話をしていきたいと思います。

 今回は前者、医療・介護の規模は小さすぎるので、もっと負担を増やして拡大すべきということを、いくつかの指標を使って見ていきます。

1.総医療費の対GDP比率

 ある分野への公的支出の規模が、大きすぎるか小さすぎるか。
 これをどういう指標で判断するべきかは難しい問題ですが、いちおう、GDPに占める割合を他国と比較する方法が、最も一般的な手法です。


 ということで、GDPに占める医療費の割合の国際比較から見ていきましょう。
 なお、ここで言う「医療費」には、介護の費用も含まれています。


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 日本の高齢化率はG7諸国中最高の22.1%であるのに、医療費の対GDP比率は8.5%、うち税・社会保険料からの公的支出は6.9%と、最も低くなっています
 他の先進国に比べて、医療費が小さめに抑えられていると言えると思います。

 ただ、対GDP比という指標で見ると、日本はほとんどすべての公的支出について低めに出ます。
 防衛関係費も、教育費も、公務員の給料も、G7中最低。


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 その理由は、要するに、日本は税・社会保険料の負担が軽いから
 国民負担率(税+社会保険料の対GDP比)は38.3%で、OECD32か国中27位。G7の中では、アメリカよりは多いけど6位。

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 つまり、対GDP比で医療費は(その中の公的支出も)小さいですが、全般的に公的支出が小さいことの反映であって、医療が割を食っているわけではありません。


 そういう留保はつくものの、他の先進国に比べて、高齢化率が高いのに医療費が(その中の公的支出も)小さいという事実は押さえておきましょう。

2.医師の人数、労働時間、収入

 高齢化率が高いのに医療費が小さい、そして平均寿命は長い、これは医師の献身的な努力の賜物だ、と結論づける医療関係者も多いようです。

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 「日本の医療は世界最高」と言う人までいて、さすがにそれは身びいきが過ぎてちょっとヒキますが、医師の人数が多すぎたり、楽して儲けすぎてたり、といった状態ではないのは正しいように思われます。

 まず、医師の人数は、他の先進国に比べて少ないです。
 OECD諸国の平均は人口1000人当たり3.02人ですが、日本は2.15人

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 次に、労働時間については、よさげな統計は見つけられなかったですが、みな口々に厳しい労働を訴えるのですから、大変なのは事実だと思われます。

 次に、収入については、イメージどおり高めではあるようです。
 「医療経済実態調査(2011年6月実施)」によれば、2010年度の病院勤務医の年収は1448万円だそうです。


 なお、同じ調査によれば、個人開業医の年収は2374万円だそうですが、その中から設備投資の費用も払うし、経営リスクも負っているので、同一視はできません。
 とりあえず、勤務医で1448万円という数字で見ていくことにしましょう。


 1448万円という平均年収が適正かどうかには、いろいろ意見があることでしょう。
 学歴が高く学費も高く在学期間も長いので当然とか、勤務時間が長い割に安いとか、失業するリスクが低いのに高すぎるとか、他の先進国に比べればどうとか。

 そういう議論に正解はないので、ここでは深めることはしません。
 1人1448万円として、医師が25万人いて3.6兆円。
 医療費がGDP480兆円の8.5%で40兆円(公的負担が6.9%で33兆円)なので、医師の収入をやり玉に挙げても、医療費の総額を削る効果は薄そうではあります。

 なお、医師の収入は高いかもしれませんが、より人数の多い看護師や、介護士の収入はかなり低いものと思われます。

3.個別の診療行為への報酬

 本当なら、個々の診療行為についての報酬が、国際的に見て高いのか安いのかも見ていく必要がありますね。
 ただ、この点については、よさげなデータが見つけられませんでした。



 盲腸の手術や入院費や初診料を例に、日本の診療報酬は安すぎると主張する医療関係者も多いようですが、都合のいい部分だけをピックアップしている感じもあって、やや客観性に欠ける印象があります。

 ということで、診療報酬が高いのか安いのかはよくわかりませんが、少なくとも医療関係者は安いと思っているようです、ということで。
 なお、介護の方は、関係者の誰もが口を揃えて安い安いと言っているので、安いのは間違いないところでしょう。

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 以上、医療をめぐるいくつかの統計数字を見てきました。

 これらをどう評価するかは難しいですが、いちおう、対GDP比の医療費で見て、大筋では「日本の医療・介護の規模は小さすぎる」という評価が妥当かと思います。

 高齢化の影響を除いたとしても、もっと負担を増やして拡大していかざるを得ない、高齢化が進むのでなおさら、ということでしょうか。

 さりとて、需要に任せて拡大するのは経済がもたないので、抑制も必要です。
 次回は、医療費を抑制していくためにどういう選択肢があるのか、ということを考えていきます。

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