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スピードスケート小平奈緒「今、この瞬間を丁寧に生き続けていけば結果はついてくる」



昨年2月の韓国・平昌五輪スピードスケート女子500mで「36秒94」という五輪レコードを叩き出し、金メダルを獲得した小平奈緒。圧倒的な強さで世界の頂点を極めた彼女だが、その強さの源泉は一体何なのだろうか。インタビューを通して見えてきたのは、小平奈緒の”求道者”としての一面だった。

「私はまだまだ成長期できる」と思えている

世界の頂点を駆け抜けた平昌五輪から約1年半が経過した。今年5月に33歳を迎えた小平奈緒には「五輪金メダリスト」という肩書がついたものの、その人柄や競技に対するモチベーションは、"平昌以前"と"平昌以後"で、まったくと言っていいほど変わっていない。

「平昌五輪を終えて、気持ちが一回リセットされたというか、今もまだまだ成長期だと思っていますし、目指すものはもっと先にあるというふうに考えています。ただ、一回頂点に立ったこと、成し遂げたことで自信のようなものは生まれたので、それを自分自身の強さに変えていけたらと思います」



現在は、長野の信州大学を拠点に、新たなるシーズンに向けて黙々とトレーニングに励んでいる。それと同時に、自身のコーチであり、同大学で「バイオメカニクス」を専門とする結城匡啓(ゆうきまさひろ)教授らとともに、スケートにおける身体運動を科学的に研究する日々を送る。世界の頂点を射止めた選手にありがちな、いわゆる"燃え尽き症候群"になるような要素は皆無。むしろ、小平は金メダリストになってなお、競技へのモチベーションに満ち溢れている。

「がむしゃらに、何の目的もないまま努力することほど苦しいことはありません。栄養やトレーニングのことを学び、実践することで自分の身体が変化していく。その過程がすごく面白いんです。もしかしたら周りの人からにはストイックに過ごしているように見えるかもしれないけれど、そこに大変さや辛さといったものはまったくなくて。学ぶことで、どんどんモチベーションが湧いてくる感じです」

オークリーのサングラスは、同じ光景を見てきた"相棒"のような存在

百分の一秒を争うスピードスケートの世界では、ほんの少しの”違い”がタイムを左右し、勝敗を分ける。だからこそ、少しでもいいパフォーマンスを発揮するため、小平はあらゆることに妥協を許さない。それは競技で使用するツールにおいても同様だ。もはや小平のトレードマークといってもよいオークリーのサングラスは、そんな彼女の思いに応えてくれる、なくてはならない相棒のような存在だという。

1998年に行われた長野五輪。男子500mで金メダルを獲得した憧れの清水宏保選手が着けていたのが、オークリーのサングラスだった。それを見て「これしかない!」と思い、両親に懇願して買ってもらって以来、ずっとオークリーを愛用している。

初めて購入したオークリーのサングラス。使わなくなってからも大切に保管している。

「フィット感があって、視界もすごくクリアに見える。オークリーは元々、モトクロス用のハンドグリップを作る会社だったということを聞いて、汗に対してよく止まる理由が理解できました。レンズやフレームに注目する方が多いかもしれないですけど、イヤーソックの性能もスポーツにはかなり重要なんです」

視力の低下をきっかけに、5年前からは度入りのサングラスに変更。度なしのサングラスを使っていた時は、意識的に「見よう」として力みが生じていたが、度入りに変えてからは自然に「見える」ようになり、その安心感が動作にも良い影響をもたらしているという。

「"見える"ようになることで、自然に姿勢やポジションをうまく保つことができるようになりました。毎年、度数をチェックしてもらいながら自分にピッタリくるものを作っています。正面だけではなく、あらゆる方向の見え方に歪みがないので、目の疲労も全然違う。オークリーのサングラスはもはや私の身体の一部という感じですね」

世界記録も五輪も金メダルも、最終的な目標ではない

平昌五輪で優勝を果たした瞬間、サングラスの奥の小平の瞳はみるみるうちに真っ赤に腫れあがった。そして迎えたウイニングランの際には、銀メダルに終わり涙を流していた韓国の李相花(イ・サンファ)のところに駆け寄り、互いに健闘を称え合い、また涙を流した。ライバルであり、親友でもあるふたり。互いの国旗を掲げながら肩を並べて客席の歓声に応えたシーンは、五輪史に残る名場面となった。



「最初、日本の国旗を渡されて回り始めたんですけど、後ろの方で泣いてるサンファが見えました。一緒に築き上げてきたものもありましたし、それを称え合わないウイニングランはやりたくないと思って」

今年4月、韓国の平昌記念財団からふたりに対して「韓日友情賞」が贈呈。5月には、李相花が引退を表明した。小平は「彼女自身が決断した答えを素直に応援したい」と盟友をねぎらいつつ、「自分も、納得できる競技人生おくっていきたい」と自らを鼓舞した。

その李相花が持つ、世界記録には0秒11まで迫っている。それは小平にとって目標であることは確かだが、同時にひとつの目安でしかない。

「今やっていることがうまく結びついた時に世界記録をはるかに超えたものが生まれるかもしれないし、それが間違ったものだったら届かないかもしれない。とりあえず今は、いい方向に進んでいると信じてやっています」

では、3年後に迫った冬季北京五輪はどのようにとらえているのだろうか?

「選手としてやれる時間は急に終わるかもしれないし、長く続くかもしれない。今、この瞬間を丁寧に駆け抜けていった先に北京五輪があったらいいな、という思いです。世界記録もオリンピックもメダルも、そこに向かおうとするとすごく生き苦しいというか、幅が狭まってしまう気がして。上には上があるということを常に意識して、それを追い求めていきたい。いつの日か選手生命には終わりが来るんですけど、今はスピードスケートを通して生きる力を養っている段階なんだと思っています。この先の人生も長いですから」

小平は”アスリート”というより、人間としての生きる道を探求する”求道者”という言葉のほうが似合う。もはや小平にゴールは存在しない。これからも求道者として、人生を駆け抜けていくのだ。

Nao Kodaira
1986年長野県生まれ。相澤病院所属。2014年500mにてワールドカップ初優勝。'18年の平昌五輪では500mで日本女子スピードスケート史上初の金メダルに輝き、1000mでも銀メダルを獲得した。


Text=鈴木悟(ゲーテWEB編集部) Photograph=杉村航

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